膝蓋骨脱臼(パテラ)

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膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?

パテラの概要

 膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)とは、犬の後肢にある膝蓋骨(しつがいこつ:膝関節にあるお皿のような骨)が正常な位置から外れて脱臼してしまう病気です。一般に内側(小型犬に多い)に脱臼してしまう内方脱臼(ないほうだっきゅう)と外側(大型犬に見られる)に外れてしまう外方脱臼(がいほうだっきゅう)があります。

 膝蓋骨のことを英語でpatella(パテラ)ということから、動物病院ではよく膝蓋骨脱臼を「パテラ」と呼びます。猫の膝蓋骨脱臼は稀で、犬ほど多くありません。

 この病気はどの犬種にも見られますが、45%は小型犬で、トイ・プードル、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、チワワ、マルチーズなどに多く見られます。85%は先天性で生まれつきです。90%は内側に脱臼し、65%は両側に膝蓋骨脱臼が見られます。

 一般的に小型犬に多い病気ですが、それらだけでなく、柴犬やゴールデンレトリバーなどでも見られれることがあります。中型犬は約8割が外側に脱臼し、大型犬は約7割が外側に脱臼します。

膝蓋骨脱臼(パテラ)の原因

 膝蓋骨脱臼の原因としては、先天性のものと後天性のものがあります。先天的なものは、膝関節や膝関節周囲(筋肉、骨、靭帯など)にみられる形態の異常、遺伝などにより起こります。後天的なものは外傷、打撲、落下などによるもので、時に骨に関連する栄養障害で起こることもあります。

膝蓋骨脱臼(パテラ)の症状

 症状は脱臼の状態によって様々です。初期は無症状の場合が多く、進行すると、だんだんと跛行する(患部の足を上げて歩くこと)ことが多くなります。通常は3歳以下の年齢で見られます。それい以降に初めて症状が見られる場合は、膝蓋骨脱臼だけでなく他の病気も併発している可能性が高いので、より詳しい検査が必要になるかもしれません。無症状な状態から歩くことが困難な状態までと幅が広いことから、その程度により一般的に次の4つのグレードに分けられています。

[グレード 1 ]
膝蓋骨は正常な位置にあり、脱臼しても自然と正常な状態に戻ることが多く、無症状で気づかない場合が多い。膝をまっすぐ伸ばして膝蓋骨を指で押した場合には脱臼を起こすが、離すと自然にもとの位置に戻る。激しい運動をした後などに跛行やスキップのような歩行をすることがある。

[グレード 2 ]
膝蓋骨は通常、正常な位置にあるが、膝を曲げると脱臼する。脱臼した膝関節は、犬が足を伸ばしたり、人間が手をかせば簡単に整復でき、時々脱臼した足を浮かせて跛行するが、日常生活にそれほど大きな支障はない。しかし治療せず放置すると、膝の靭帯が伸びたり骨が変形を起こして、グレード3に移行してしまう場合がある。

[グレード 3 ]
通常、膝蓋骨は脱臼したままの状態となり、指で押した場合に、一時的にもとの位置に戻るが、すぐに脱臼した状態になる。脱臼した側の足を挙げて跛行も顕著となり、骨の変形も明らかになってくる。

[グレード 4 ]
膝蓋骨は常に脱臼した状態となり、指で押しても整復できない。骨の変形も重度となり、跛行は重度となり、明らかな歩行異常が認められる。

膝蓋骨脱臼
パテラグレード
パテラグレード

膝蓋骨脱臼(パテラ)の診断/検査

  まず歩行試験、触診が一番の検査方法です。一般に診断には特殊な検査は必要ありません。骨格変形の程度や骨関節炎の程度、他の疾患の併発の有無などを調べるためにはレントゲン検査超音波検査を、必要に応じてCT検査[3]を行います。

膝蓋骨脱臼(パテラ)の治療

 膝蓋骨脱臼の治療は、一時的に炎症や痛みなどの症状を緩和する「内科(保存的)療法」と外科手術による「外科(根本)療法」とがあります。

●内科的治療(保存的)
「膝蓋骨脱臼のグレードが低く無症状」や「心臓疾患など麻酔リスクが高いと考えられる場合」に選択されます。一般に消炎・鎮痛剤やレーザーなどの使用により、一時的に関節炎症状を抑えるのが目的です。ただし、これは症状の緩和で、完治は望めませんが、再脱臼による関節炎を防ぎ良好に維持できるケースもあります。関節の健康・維持に配慮した食事やサプリメントなどを取り入れることもあります。

 脱臼を頻繁に繰り返す場合は、二次的な関節の変形を引き起こすこともあり、そのような場合には外科手術が勧められます。

・ケージレスト
痛みが出ている場合は、運動を制限して休ませてあげることも保存的治療では重要です。ケージレストとは、ワンちゃんの運動を制限して安静を管理する方法の一つで、狭いケージ(体長の1.5倍ほどのスペース)の中にワンちゃんを入れ、動きを制限した状態を保ちます。

●外科的治療
膝蓋骨脱臼の外科手術法にはいくつかの方法があり、症状の有無やグレード、臨床経過、関節周囲の状態などによって、それらを単独、あるいは複数同時に用います。グレードが高い場合や関節炎症状が頻繁に起こる場合には、骨や関節に二次的な変形が起こってしまってから手術を行っても効果が低くなるため、早期の手術が勧められます。特に幼犬で先天性の膝蓋骨脱臼が見られる場合には、骨が成長する前のできるだけ早い時期での手術が推奨されます。

・膝の溝を深くして、膝蓋骨が溝(滑車溝:かっしゃこう)を乗り越えるのを防ぐ。
・膝蓋骨を正しい位置に保持するため、必要な靱帯(じんたい)を適切な長さに縫い縮めて外れ難くする。
・ピンを打つことで膝蓋骨を支えている筋肉(大腿四頭筋:だいたいしとうきん)を固定する。
・靱帯がゆがんでいる場合には、骨の一部を移動してまっすぐに矯正する。

 外科的治療を行う場合は、麻酔のリスク、手術後の安静期間やケア方法、費用、リハビリなどについて十分に検討して行う必要があります。

膝蓋骨脱臼(パテラ)の予防

 膝に負担をかけないことが重要です。体重の増加は膝の関節に負担をかけますので、肥満を予防しましょう。また、小型犬の子犬を室内飼育する場合は、フローリングなら絨毯やマットを敷くなどの飼育環境改善が役に立つかもしれません。ソファーや段差の昇り降りが膝に負担をかける場合もあります。ジャンプや激しい運動、過度のボール投げやフリスビー、ピョンピョンと飛び跳ねたり、クルクルと回ったりさせることは避けましょう。

 先天性の膝蓋骨脱臼を予防することは難しいため、この病気を持つ犬は繁殖させないようにすることが勧められます。

 膝蓋骨脱臼が疑われるような上記の症状が見られた場合は早めに当院にご相談ください。

膝蓋骨脱臼(パテラ)の看護/その他

 動物病院で処方されたお薬はきちんと飲ませ、指定された注意事項(運動制限など)や再診、リハビリはきちんと行い、一日も早い回復に努めましょう。

 足裏の毛が伸びてくると滑りやすくなりますので、トリミングサロンでこまめにカットしてもらいましょう。

 膝蓋骨脱臼は、症状の進行を防ぐために体重管理が大切です。肥満にならないように日頃からのこまめな体重管理を心がけ、筋力の維持と体重管理のためにお散歩は大事ですが、膝に負担がかからないように、滑らない段差のない所を急な方向転換をせず、まっすぐゆっくり歩くようにするとよいでしょう。

 リハビリやマッサージなどは症状の緩和や手術後の回復を早めたりと効果的ですので、CCRP有資格者獣医師や愛玩動物看護師、PT(理学療法士)の指導のもときちんと行いましょう。

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参考文献・資料等

  1. 伴侶動物治療指針 Vol.1; 298-307:膝蓋骨脱臼の治療
  2. 獣医整形内科;74-85:股関節と膝関節のSnap Diagnosisと診断の流れ
  3. Evaluation of Hindlimb Deformity and Posture in Dogs with Grade 2 Medial Patellar Luxation during Awake Computed Tomography Imaging while Standing

<1>85頭の猫の外科手術症例における膝蓋骨脱臼の矯正外科に関連した合併症
<2>膝蓋骨における重症疾患の管理:1.膝蓋骨脱臼
<3>Tibial Plateau Levellingの変法を用いた膝蓋骨脱臼および前十字靱帯断裂併発症例の管理
<4>大腿骨くさび状骨切り術および遠位大腿骨プレート固定法で治療した膝蓋骨内方脱臼の犬4頭
<5>犬の膝蓋骨内方脱臼治療としての大腿骨滑車の回転
<6>大型犬種70頭における膝蓋骨脱臼
<7>犬の膝蓋骨内方脱臼に対する関節鏡を用いた内側大腿膝蓋靱帯の開放
<8>発育に伴う整形外科疾患の犬種特異性
<9>体重15kg未満の犬の膝蓋骨内方脱臼に対する一期的両側矯正手術後の術後合併症と短期転帰:50症例(2009-2014)
<10>小型犬の脛骨プラトー角のX線画像測定における膝蓋骨脱臼の影響
<11>犬1613頭における脛骨粗面転位術による主要合併症
<12>膝蓋骨内方脱臼の治療のためにカイトシールド形の楔状深化術を行った小型犬種の犬7頭
<13>雑種犬と純血種犬における遺伝性疾患の罹患率:27,254例(1995-2010)
<14>コンピュータ断層撮影法の多断面再構成像を用いた大腿骨脛骨アラインメント計測値の反復性および再現性
<15>犬の脛骨粗面におけるX線透過性の罹患率、膝の状態との関連性、病理組織学的特徴
<16>犬におけるグレードⅣの膝蓋骨内方脱臼の外科的整復後の転帰および合併症:24症例(2008年から2014年まで)
<17>犬における膝蓋骨内方脱臼に対する大腿骨滑車造溝術を行わない外科的治療:91例(1998-2009)
<18>膝関節に病態が存在する犬でのPCRによる細菌DNAの検出
<19>犬の膝蓋骨脱臼の程度と前十字靭帯断裂の併発する頻度:162例(2004-2007)
<20>膝蓋骨内方脱臼が存在する、あるいは存在しないヨークシャー・テリアの、脛骨捻転の評価
<22>幅広い範囲の内反構成での大腿骨X線画像と解剖標本との大腿骨角度測定の比較
<23>複合的な脛骨奇形のある12頭の犬での脛骨プラトーレベリング骨切り術と脛骨近位部矯正横断骨切り術の組み合わせ
<24>犬の膝蓋骨の近位遠位方向の配列:X線学的評価と膝蓋骨内方および外方脱臼との関係
<25>遠位大腿骨内反と膝蓋骨内方脱臼の併発を治療するための遠位大腿骨骨切術の長期的な結果:12例(1999-2004)
<26>犬109頭における膝蓋骨脱臼の矯正術に関連する合併症
<27>臨床的に正常な膝を持つ大型犬と膝蓋骨内方脱臼のある大型犬における膝蓋骨の垂直位置
<28>膝蓋骨脱臼に罹患した猫の臨床徴候および治療結果:42症例(1992~2002年)
<29>膝蓋骨内方脱臼に罹患した犬の術前および術後のX線およびコンピュータ断層撮影法による評価
<30>犬および猫の膝蓋骨脱臼:管理と予防
<31>犬および猫の膝蓋骨脱臼:病因および診断

[WR21,VQ21:]

この記事を書いた人

福山達也