避妊・去勢手術(猫編)

望まない妊娠を防ぐ一番の方法は不妊手術(♂は去勢、♀は避妊)を受けることです。動物は本能で繁殖を行い、自らの意思で繁殖をコントロールすることはできません。望まれない命を生み出さないためにも、責任を持って世話ができる頭数を飼育しましょう。

避妊手術とは一般的に、卵巣と子宮を取ってしまう手術(卵巣子宮摘出術)です。これによって永久的に不妊(妊娠しない)となり、基本的に発情もなくなります。

去勢手術とは一般に、精巣(睾丸)を取ってしまう手術(睾丸摘出術)です。

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なぜ、獣医さん達は早期の避妊手術を勧めるのか?

 犬は早期の避妊手術をしたほうが乳腺腫瘍を減らせることが昔から分かっていました。猫ちゃんはというと、犬ほど乳腺腫瘍の発生率は高くなく、犬に比べると1/8程度で、猫ちゃんの腫瘍の中では3番目に多い腫瘍が乳腺腫瘍です。但し、猫ちゃんの場合厄介なことに、一旦乳腺腫瘍ができるとその悪性(癌)の確率は約90%[1]とされています。猫の早期避妊手術と乳腺腫瘍の関係は犬と同じ様に避妊していない猫と比べ、生後6ヶ月までに避妊手術すると乳癌の発生リスクを91%減少させることができます。また、1歳までにすれば86%減少します[2]。こちらもやはり早くするほうが乳腺腫瘍を減らせます。

ただ、何も避妊手術は乳腺腫瘍の予防だけでするわけではありません。他の要因もたくさんあります。どんなことにもメリット、デメリットがありますので、それらを踏まえて考えた場合、やはり私は一般のペットオーナーの方であれば早期避妊や早期去勢のほうがメリットが大きいと考えますし、我が家の愛猫達にも早期に実施します。

アメリカでは、「Fix by Five Months」という言葉があります。猫の去勢。避妊手術は5ヶ月齢までに済ませるという考え方です。猫は早いと生後4ヶ月齢、少なくとも5ヶ月齢から妊娠することができます。それに伴って、一日中鳴き続けたり、外に出たがる行動が増えたり、雄猫がスプレー行動をしたりと多くの問題行動が出ることがあります。これらはキャットオーナーにとっては困った変化(問題行動)となります。これをできるだけ食い止めるために、生後5ヶ月齢までに去勢・避妊手術を終えることは、多くの利点をもたらすことになると考えられています。

現在はペットが長生きする時代です。長生きすればそれだけ腫瘍の発生リスクは高くなります。早期に避妊手術をされるとより効果的です。「1度生ませてからがいい」なんていう根拠のない無責任なことを言う人がいますが、それでワンちゃんや猫ちゃんが得られる利点は何もありません。

不妊・去勢手術の主な利点と欠点

避妊手術 去勢手術
利点
  • 望まない妊娠がなくなる
  • 卵巣や子宮の病気や乳腺腫瘍などの予防
    (乳腺癌は生後6ヶ月未満で91%、12ヶ月未満で86%減少する。12ヶ月をこえてからのの手術では予防効果はない[2]
  • 発情期特有の困った行動がなくなる(大きな鳴き声、トイレ以外での排尿、 外に出たがる、神経質になる等 犬では発情に伴う出血もなくなる)
  • 精巣や前立腺、肛門周囲の病気の予防
  • メスへの興味による性的ストレスの軽減
  • 発情期特有の困った行動がなくなる
    (大きな鳴き声、無駄吠え、マーキング 、ケンカ、攻撃性、脱走など)
  • 人の猫アレルギーを減らせられるかもしれない[3](去勢したほうがアレルギー物質のFel d 1を少なくできる)
欠点
  • 手術には全身麻酔のリスクがあるが、適切な麻酔管理で軽減できる
  • 肥満傾向になるが、適切な食餌管理と運動で防げる<1><3><5>
    ※メスでは尿失禁が起きる場合があるが、治療できる
  • 他の腫瘍の発生(皮膚・心臓・呼吸器・消化器)が増えるという報告もある(避妊手術)
  • 非常に稀な後天性門脈体循環シャントが高齢の避妊雌に多いとの報告がある。(避妊手術)
  • 避妊去勢された猫は下部尿路疾患(FLUTD)を発症しやすい[6]

壱岐動物病院における避妊・去勢手術の流れ

当院では「安全・確実」に避妊・去勢手術を行うために次のような流れで行っています。ペットオーナーの皆様もご理解とご協力をよろしくお願いします。

    1. 手術説明・健康チェック
       通常、事前に健康状態・既往歴・ワクチン歴を確認させて頂きます。その上で手術が出来る体調かどうかを判断します。混合ワクチン未接種の場合はワクチンプログラム終了後のご予約となります
    2. 手術日の決定
      避妊・去勢手術は完全予約制です。事前に日程を調整し、ご予約頂きます。(電話などで可能です)
    3. 手術前日
      手術前日は夕食は与えて頂いて構いません。但し、夕食後は追加の食事やおやつなど食べ物を与えないでください水はいつも通りで大丈夫です
    4. 手術当日
       朝食・水共に与えないようにお願いいたします。(麻酔の際、胃内容物の逆流で誤嚥を防ぐためです)健康状態に変わりがないことを確認して午前09:30までにご来院ください。遅れる場合は必ずご連絡ください。連絡なく無断キャンセルされた場合は所定のキャンセル料を申し受けます。
      手術の同意書にご記入頂き、預けてお帰り頂きます。
    5. 手術
    6. 健康チェック、手術前の血液検査血液化学検査のチェックなどを行い、異常が無ければ予定通り全身麻酔(全身麻酔のリスクなどについて)で手術を施します。手術前のチェックで異常がみつかった場合は、お電話でご連絡します。血液検査血液化学検査の結果報告書は退院時に必ずお渡しします。
    7. 通常、雄(オス)は日帰り、雌(メス)は一泊となります。
    8. 退院・自宅管理
      退院時に退院後の管理の説明を行います。また抗生剤の服用を3〜5日間お願いしております。
      帰宅後は激しい運動、シャンプーなどを1週間ほど避けてください。その他は通常通りで構いません。
      帰宅後ご自宅で管理できないという場合は延泊も可能です。但し、所定の延泊料を申し受けます。詳しくはお気軽にご相談ください。※当院の手術では抜糸の必要ない体に吸収される縫合糸を使用しておりますので、抜糸や付替え、消毒などは一切必要ありません。
      また、手術後の食事管理も大切です。避妊去勢手術をしたら太るというのはきちんと手術後の食事管理をしないことも一つの要因です。以下の動画も参考に正しい知識を持って管理してあげましょう。当院では食事の相談も受け付けています。お気軽にご相談ください。
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ニュータードドライ猫

▲上記の療法食は当院でも購入可能です(注文の場合もあります)し、オンラインでのご購入可能です。必要な方は専用の病院コードを発行致しますので、当院受付でお申し出ください。


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避妊手術と去勢手術では入院が必要ですか?
 避妊手術に関しましては当院では動物の負担を考え、傷が小さい小切手術による卵巣子宮摘出術を行っておりますが、全身麻酔からの回復や手術後の経過を観察するために1泊入院とさせて頂きます。
去勢手術は全身麻酔を行いますが、開腹することはないので、日帰り入院により対応しております。


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多頭飼育や屋外飼育で前日の絶食ができません?
 前日の絶食ができない場合は、別途宿泊料金が加算されますが、手術前日からの入院も可能です。また、手術後の管理がご家庭でできない場合も延泊をお引き受けしております。お気軽にご予約ください。


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何人のスタッフで手術していますか?
 当院では不妊手術であっても安全に手術を行うために最低でも3名以上で行います。また、モニタ心電計やパルスオキシメーターなどの医療機器によりモニターを行いながら手術をします。


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避妊手術の傷はどれくらいですか?
 当院では通常問題(妊娠や子宮の疾患、肥満など)がなければ小切開手術と言われる小さな傷(1cmほど)で手術を行う手術法を選択しています。傷が小さければそれだけ体の負担は少なくなります。また、皮膚に縫合糸を出さない縫い方をしますので、通常手術後にエリザベスカラーや術後服を用いる必要もありません。

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参考文献・資料など

  1. Epidemiological features of feline mammary carcinoma
  2. Association between Ovarihysterectomy and Feline Mammary Carcinoma
  3. Effects of castration and testosterone on Fel d I production by sebaceous glands of male cats: I—immunological assessmentEffets de la castration et de la testostérone sur la production de Fel d I par les glandes sébacées des chats mâles: I. — Évaluation immunologique
  4. 猫の臨床指針Part1; 63-72:不妊のための手術
  5. Use of Dipyrone in Cats After Ovariohysterectomy
  6. Epidemiologic study of risk factors for lower urinary tract diseases in cats


<1>.卵巣子宮摘出後の猫における食事計画が体重、体組成、およびボディ・コンディション・スコアに及ぼす影響について
<2>.早期の避妊・去勢術:臨床的な考慮
<3>.雄猫および雌猫において去勢・避妊がホルモン濃度およびエネルギー要求量に及ぼす影響
<4>.犬猫に避妊・去勢手術を施す時期について: ニューヨーク州の獣医師の考えと実践の調査
<5>.食事に含まれる脂肪とエネルギーが不妊手術後の猫の体重と体組成に及ぼす影響
<6>.野良猫を避妊・去勢する為のティレタミン、ゾラゼパム、ケタミン、及びキシラジン麻酔の混合使用