アトピー性皮膚炎

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アトピー性皮膚炎とは?

 アトピー性皮膚炎とは、アレルギー症状を起こす原因物質(ダニ、カビ、花粉など)である空気中のアレルギー起因物質(アレルゲン)が環境中にあることによって、体内の免疫機構が過剰に反応するため生じる皮膚炎のことで、多くは環境抗原に対するIgeに関連したアレルギー性皮膚炎の一種で、雄よりも雌に多く、特にアイリッシュ・セター、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ゴールデン・レトリバー、シーズー、柴犬、スコティッシュ・テリア、ダルメシアン、パグ、フレンチ・ブルドッグ、ブル・テリア、ボクサー、ボストン・テリア、ミニチュア・シュナウザー、ラサ・アプソ、ラブラドール・レトリバー、ワイヤーヘアード・フォックス・テリアなどに発症が多く、遺伝的素因があるといわれています。特に日本では柴犬に圧倒的に多い傾向が報告されています。

 猫では、屋外飼育に比べ、屋内飼育のほうがアトピー性皮膚炎になりやすい傾向にあります。

アトピー性皮膚炎の原因

 アトピー性皮膚炎は、人間同様、主に環境中のアレルギゲンである花粉、ハウスダスト、ハウスダスト中のダニ、カビの胞子などを吸引したり、皮膚に接触することなどが原因となり、皮膚炎が発症します。なお、発症には遺伝的な素因の関与があるといわれており、犬では6か月から3歳くらいでの発症が多いようで、猫でも比較的若い時期にアトピー性皮膚炎を発症するケースが多く見られます。なぜアレルギーを起こすかははっきりとわかっていませんが、アレルギー反応の原因となるIgEと呼ばれる免疫抗体を異常に作りやすい素因があるものと思われています。

 また、皮膚のバリア機能や保湿力が低下していることも、発症の1つの原因となります。

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎とは?
 アトピー性皮膚炎では、多くの場合、6ヶ月から3歳の若い年齢で症状がはじまります。皮膚の痒みが主な症状で、痒みがでる部分は耳、脇、股、足先、口や目の周りなどが多く、しきりに体を舐めたり噛んだりする行動が見られます。症状が進行すると皮膚に赤みや脱毛、小さな発疹が見られ、細菌による二次感染で症状が悪化することがあります。皮膚がかさかさしたりべとべとしたりする脂漏症が起こることもあり、痒みは夏だけというように季節性の場合もあれば、最初から季節に関係なく通年かゆい場合もあります。
 また、アトピー性皮膚炎だと他の皮膚炎や外耳炎などの耳の病気を併発しやすいとも言われます。

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アトピー性皮膚炎の診断/検査

 アトピーの診断は問診と身体検査を中心に行われますが、痒みの見られる他の原因には、細菌感染、外部寄生虫、ノミアレルギーや食物アレルギーなどがあり、これらと区別することが重要です。
ステップ1
 1) ノミの除外
動物病院で処方されるようなきちんとした駆除薬でノミを駆除します。
 2) ノミ以外の外部寄生虫の除外
(疥癬、ニキビダニ(毛包虫)症、ツメダニ症、シラミ症、ミミダニ症など)
 3) ブドウ球菌/マラセチア感染症の除外
抗生物質、抗真菌剤の薬やシャンプーなどを用います。
ステップ2
 食物アレルギーの除外または適切な治療(食物有害反応の除外)
3ヶ月以上動物病院で処方されるアレルギー源除去食のみを与える。(最低6週間~10週間程度)

▲上記の食物アレルギー用療法食は当院でも処方可能です。当院での診察・診断・処方後オンラインでのご購入となります。詳しくは当院にお尋ね下さい。

▲上記の療法食は当院でも購入可能です(注文の場合もあります)し、オンラインでのご購入可能です。必要な方は専用の病院コードを発行致しますので、当院受付でお申し出ください。
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ステップ3
 アレルゲンを調べるための検査
 アレルゲン特異的血清IgE検査/皮内反応試験(犬アトピー性皮膚炎の診断における補助的な役目を担う検査)は費用が高額になるために、以下のような診断基準を用いて診断することもります。参考までに、診断基準の一つとして以下の項目があります。細菌感染、外部寄生虫、ノミアレルギーや食物アレルギーを排除した後、以下のうち5つ以上に該当すれば85%の確率でアトピーと診断されます。(注:他にも様々な診断基準があります)

1.初めて症状が見られた年齢が 3 才未満である
2.飼育環境のほとんどが室内である
3.ステロイド剤の治療によって痒みがおさまる
4.慢性的あるいは再発性の酵母感染症がある
5.前肢に皮膚病変が認められる
6.耳介に皮膚病変が認められる
7.耳の辺縁には皮膚病変が認められない
8.腰背部には皮膚病変が認められない

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療
 アレルゲンが特定できたならばそれを避けることがベストの治療法ですが、特定できないことやできてもそのアレルゲンを避けきれないことが多いものです。ですから、アトピー性皮膚炎は基本完治する病気ではなく、治療は痒みのコントロールが主になります。
 しかしながら、痒みは一つだけの原因で起こっていることはまれなので、いくつもの原因を除くことで,治療効果も期待できます。細菌感染があれば抗生物質などで、寄生虫感染があれば駆除剤や予防剤で治療します。また、シャンプーにより被毛を清潔にしたり脂漏症をコントロールします(シャンプーは必ず動物病院で処方される薬用シャンプーを用います)。痒みの抑制には主に抗ヒスタミン薬やステロイド剤、抗掻痒剤(オクラシチニブ)などが使われます。ステロイド剤は痒みに効果が高いのですが、長期使用は副作用も強いので、短期間だけの使用が勧められます。他には免疫抑制剤、インターフェロン、抗イヌIL-31モノクローナル抗体(ロキベトマブ:月に1回の注射)なども用いられます。なお、これらの治療は、症状によって単独で用いたり、併用したりします。

アトピー性皮膚炎に対する効果的な抗炎症剤の比較[9]

局所性グルココルチコイド 全身性グルココルチコイド シクロスポリン オクラシチニブ ロキベトマブ
スペクトラム 広い 広い 広い 中程度 狭い
費用 安い とても安い 中程度から高価 中程度 中程度
効果発現 早い 非常に早い 遅い(2-3週間) 非常に早い 非常に早い
急性炎症 効果的 効果的 低い 効果的 効果的
慢性炎症 効果的 効果的 効果的 低い 低い
中耳炎/肢端皮膚炎 効果的 効果的 効果的 低い 低い
急性副作用 普通1 普通2 普通〜時々3
長期的安全性 中程度〜良い4 悪い 良い 不明 不明
モニタリング 臨床検査 臨床検査、尿検査、

血圧測定

臨床検査、尿検査 臨床検査、CBC、

生化学、尿検査

臨床検査
広域併用療法 可能6 短期のみ 短期のみ 短期のみ 可能7

1:多尿症、多飲症、多食症;パンティングや行動の変化が見られることもありますが、0.5〜1.0 mg / kg /日では胃腸(GI)潰瘍は稀です。

2:軽度かつ一過性の食欲不振、嘔吐および下痢;持続的な胃腸(GI)潰瘍は稀です。

3:軽度の胃腸の不調が最も頻繁です。稀に報告されている有害作用には、攻撃性、体重増加、赤血球数および白血球数の変化、肝酵素と胆汁酸の増加などがあります。

4:ヒドロコルチゾンでは長期的な副作用は稀ですが、他の局所グルココルチコイドではより頻繁に起こります。

5:オクラシチニブ投与中の犬におけるUTIの発生率の増加に注目し、尿検査の実施が推奨されます。

6:局所的なグルココルチコイドは、他のさまざまな抗炎症剤とともに使用されますが、正式なデータはありません。
7:正式なデータは不足していますが、薬物の同時投与で問題が発生する可能性はほとんどありません。

また、皮内反応という方法でアレルゲンを特定して、それを継続的に注射する減感作療法というものもあります。この治療法によりアレルギー体質自体が改善され完治する可能性がありますが、費用がやや高価で、治療期間も長期にわたるこことが多いものです。

皮膚は表面にある脂質バリアで、 皮膚の健康を維持します。その脂質バリアの機能を維持するためにサプリメントを用いるのも補助治療の一つです。

アトピー性皮膚炎の予防

 アトピー性皮膚炎は、体質が関与するため予防はなかなか難しいと思われます。発症してしまった場合は、アレルゲンの除去などの環境の整備やストレスを与えないこと、投薬やシャンプー、サプリメントなどで症状を軽減することが重要です。基本的に完治は難しく、生涯に渡り管理していく必要があります。

 受動喫煙は犬のアトピー性皮膚炎のオッズ比を4.38にして悪化させたという報告がありますので、注意が必要です[1]。子供や動物は受動喫煙の影響を大人の何倍も受けています。「タバコは百害あって一利なし」自身の健康も含め禁煙をお勧めします。

アトピー性皮膚炎の看護/その他

アレルゲンの除去
アレルゲンの除去

 基本的に完治は困難で、慢性化します。ですから治すではなく痒みなどをいかにコントロールしていくかです。ご家庭ではシャンプー(低刺激性シャンプー、保湿リンス、薬用シャンプーなど)や処方食、サプリメントなどで皮膚のケアーが必要になります。

 環境中のアレルゲンを掃除や環境整備などで除去していくことも重要です。アレルゲンになるダニは、目に見えないほどの小さなダニです。ダニはフケ、ホコリ、カビなどをエサに生きています。ダニの発生ピークは7~9月で、ダニにとって快適な環境である家の中では1年中ダニが発生してしまうこともあります。生きているダニだけでなくダニの糞や死骸もアレルゲンとなるため、洗濯や掃除がアレルゲンの除去として効果的です。ダニが多い場所は布団、じゅうたん、布製ソファー、ぬいぐるみ、クッションなどです。

 食事に関してはペットフードだけでなく、おやつやふりかけなどにも十分に注意してください。おやつに関しては市販品は低アレルギーと欠かれていても怪しいものが沢山売られています。動物病院のなかにはきちんとしたアレルギー用のおやつが置いてあるところもあります。どうしてもおやつが必要な場合はそのような製品を与えましょう。当院をご利用のペットオーナーさんでご希望のかたはお気軽にスタッフまでご相談ください。

▷「家庭でできるあれルギー対策」も参考にしてください。

 定期的なシャンプーは非常に効果的ですが、シャンプー剤の選択と間隔が重要になります。ご自宅でシャンプーされる場合は動物病院で処方される薬用シャンプーを用い、トリミングに出す場合はそのシャンプーを持参して洗ってもらうとよいでしょう。

※当院併設のトリミングショップBOW-MEOWでも薬用シャンプーをお受けしておりますが、当然、店内感染防止のため、混合ワクチン接種などの条件があります。詳しくはこちらをご参照ください。

自宅でのシャンプーポイント!(※動物病院で処方されるきちんとした薬用シャンプーを用いましょう)

  1. まず、地肌を濡らします。30〜35℃程度のぬるま湯で、シャワーヘッドはできるだけ地肌に近づけ、頭から遠い部分からかけ始めましょう。
  2. シャンプー剤は直接皮膚につけづ、まず別容器にスポンジなどでよく泡立ててから全身に塗り込むように使用しましょう。泡で洗うイメージが大事です。
  3. 泡を全身に塗布したら乾かないように、濡れたタオルでくるみ、最低5分、できれば10分間はそのままにして薬用シャンプーの効果が出るのを待ちます。
  4. その後、人肌以下のぬるま湯(32〜33℃程度)でよく洗い流してください。特に指の間などにシャンプーが残らないように1本1本丁寧にすすぎましょう。
  5. 吸水性の高いスポンジタオルなどで十分に水分を拭き取ってください。
    ※コットタオルにアレルギーのある子もいるので注意してください。
  6. ドライヤーで乾かす場合は、温風を使用しないで、冷風を使い風乾することを心がけましょう。温度調節ができる場合はできるだけ低めの温度で風乾しよう。皮膚が乾燥したり、温度が上がると痒みが増します。

シャンプー以外でできること

  1. 定期的なトリミング
    定期的にプロのトリマーさんにトリミングしてもらい、被毛は適当な長さに保ちましょう。皮膚病があるときには特に動物病院併設のトリミングサロンが有効です。
  2. 日常的にブラッシング
    抜け毛や下毛はブラッシングにより早めに取り除きましょう。
  3. こすれる箇所は清潔に
    顔のシワの間、首の付根、脇の下、足先、しっぽの付け根、内股などこすれる部分は特に皮膚病が起こりやすいので、清潔にしましょう。
  4. 定期的な耳のお手入れ
    皮膚病がある動物は外耳炎にもなりやすい傾向があります。定期的にきちんと手入れしましょう。外耳炎は特に予防と早期の治療が重要です。
  5. 保湿ケアーで肌の水分をキープ
    皮膚バリアを整えて、肌の乾燥を防ぎ、肌の水分をキープすることが皮膚病には重要です。動物病院で処方される保湿剤などを用いましょう。

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参考文献
  1. Association between passive smoking and atopic dermatitis in dogs.
  2. 伴侶動物治療指針Vol.1; 34-53:犬のアトピー性皮膚炎の治療
  3. 伴侶動物治療指針Vol.7; 292-316:犬アトピー性皮膚炎ガイドライン(ICADA2015)の解釈と国内での適用
  4. 伴侶動物治療指針Vol.8; 297-307:オクラシチニブ(アポキル®錠)によるアトピー性皮膚炎の治療
  5. 伴侶動物治療指針Vol.11; 354-360:ロキベトマブによるアトピー性皮膚炎の最新治療
  6. アトピー素因の犬に使用するシャンプーに求められる機能
  7. Veterinary focus #28.1; 20-21:犬のアトピーにおける抗炎症療法および抗掻痒療法
  8. 犬の内科診療 Part1; 366-370:犬アトピー性皮膚炎
  9. アトピー性皮膚炎
  10. ANTI-INFLAMMATORY AND ANTI-PRURITIC THERAPY IN CANINE ATOPY
  11. サイトポイント®ロキベトマブ
  12. 中高齢の犬アトピー性皮膚炎の 管理における注意点について


<1>.アトピーの病因におけるロイコトリエンの役割について最新情報:対比的再評価
<2>.慢性アトピー性皮膚炎を持つ犬の管理
<3>.再評価: 犬のアトピー性皮膚炎におけるリンパ球、サイトカイン、ケモカイン、およびヘルパーT1-ヘルパーT2バランス
<4>.アトピー性皮膚炎に罹患している犬においてフロン酸モメタゾン点耳薬が皮内検査の即時反応に及ぼす影響
<5>.急性アトピー性皮膚炎の皮膚病変に関する実験犬モデルにおける表在表皮接着分子の発現パターン
<6>.一般飼育されている犬のアトピー性皮膚炎の管理に関するオクラシチニブおよびシクロスポリンの有効性および安全性を比較した無作為盲検臨床試験
<7>.犬のアトピー性皮膚炎の皮膚病変評価に関する簡易化された重症度スケールである犬のアトピー性皮膚炎重症度指標(CADESI)-4の検証

この記事を書いた人

福山達也