鎮静とは
鎮静(ちんせい)とは薬物などによって人為的に疼痛や感覚を少なくすることで、処置や検査による身体への負担から動物を守ります。動物医療の場合は、痛みや興奮などにより診察や検査、処置などが行えないことがあります。そのような場合に鎮静剤を用います。意識を完全に失わせるわけではありませんが、意識を朦朧(もうろう)とさせるので、強い刺激を与えた場合、多少動く可能性があります。鎮静は短時間で簡単な処置、CT、X線、超音波検査などの短い画像検査に適しています。
鎮静は通常、注射で行います。
鎮静のリスク
鎮静を行う際には、リスク(危険性)を伴います。具体的なリスクとしては、注射部位の炎症、筋障害、静脈炎、血圧低下、呼吸抑制、心肺停止、鎮静における動物の死亡です。この主な原因は、薬剤に対するショックや心血管系、呼吸器系の合併症とされています。
麻酔や鎮静を行う際の一つの基準として、アメリカ麻酔学会(American Society of Anesthesiologists: ASA)の分類に従って、身体状態(Physical status)のクラス分けを行います。ASA分類は、クラスⅠ〜Ⅴまでの5段階に分類します。各段階の動物の状態により麻酔の危険性や死亡率が異なり、ASA(クラス)の数字が大きいほど麻酔・鎮静の死亡率が高くなります。
□犬の鎮静関連死亡リスク:0.07%
□猫の鎮静関連死亡リスク:0.12%
また、フィラリアは心臓や肺に寄生しますので、フィラリアに感染していると当然リスクは高くなりますので、フィラリア予防は必須です。
鎮静前検査の重要性
動物は人と違って処置や検査の際にじっとしていることができないため、麻酔や鎮静が必要になる場合が多いものです。しかし、それらの処置には常にリスクが伴います。そのため当院では、より安全に麻酔や鎮静を行い、死亡事故を減らすために血液検査や血液化学検査、レントゲン検査等による術前検査(麻酔前検査)を推奨しております。
全身麻酔時の注意事項
絶食絶飲について
胃の中に食べ物や水分が残った状態で麻酔をすることは危険を伴います。胃の内容物が逆流して肺の中へ流れ込むことで誤嚥(ごえん)性肺炎をおこす可能性があるためです。当院では、原則として処置前日24時以降は絶食、手術開始2時間前まで飲水可としています。
多頭飼育などで絶食絶飲が不可能な場合は事前にお申し出ください。手術前日からのお預かりも可能です。当日、絶食絶飲ができなかった場合も必ずお申し出ください。
飲み薬について
手術当日朝まで服用していただくものと、中止していただくものがあります。服用中の薬がある場合はお知らせ下さい。
アナフィラキシ-
投与した薬や麻酔薬、造影剤に対して体が過剰に反応して起こる強いアレルギ-反応のことです。いわゆるショックです。どのような薬に対しても起こり得ます。以前に薬や注射でアレルギ-が出たことのある方、兄弟姉妹動物に出たことのある場合は必ず事前に申し出て下さい。
帰宅後の注意事項
帰宅後、鎮静剤が完全に覚めるまで念のため数時間(通常1〜2時間程度)は動物を注意深く観察してください。異常があれば当院までご連絡ください。自宅で観察するのが不可能な方はお申し出ください。一時預かりや入院も可能です。
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参考文献・資料等
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The Confidential Enquiry into Perioperative Small Animal Fatalities