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精巣腫瘍とは?
精巣腫瘍(せいそうしゅよう)は主に10歳以上の老犬に多く見られ、雄犬において皮膚腫瘍、繊維組織系腫瘍についで3番目に多く見られる腫瘍と報告されています。特に潜在精巣の犬では、正常な精巣を持つ犬と比べて精巣腫瘍になるリスクが高い(通常の約9~14倍)ことがわかっています。
犬の精巣腫瘍のほとんどは、セルトリ細胞腫、精上皮腫(セミノーマ)、間質(ライディッヒ)細胞腫と呼ばれる3種類の腫瘍で、これらはほぼ同じ割合で発生し、同時に一つの精巣内に複数の腫瘍ができることもあります。潜在精巣ではセルトリ細胞腫のできる割合がやや多いとの報告もあります。他の種類の腫瘍もできないことはありませんが、稀です。
猫の精巣腫瘍は犬に比較してかなり少なく、セルトリ細胞腫、ライディッヒ細胞腫、精細胞腫、奇形腫のなどの報告があります。
●セルトリ細胞腫
潜在精巣において認められることが多く、約30%は高エストロゲン血症によって雌性化現象が起こり、乳房が発達したり、乳汁が出たり、陰茎の萎縮や左右対称性の脱毛などが見られることがります。また、血液検査において好中球減少、血小板減少、再生不良性貧血などを認める場合もあります。
潜在精巣において認められることが多く、約30%は高エストロゲン血症によって雌性化現象が起こり、乳房が発達したり、乳汁が出たり、陰茎の萎縮や左右対称性の脱毛などが見られることがります。また、血液検査において好中球減少、血小板減少、再生不良性貧血などを認める場合もあります。
セルトリ細胞腫は、通常は転移は稀(10~20%)とされていますが、肝臓や腎臓、肺、リンパ節等へ転移することもあります。
●セミノーマ(精上皮腫)
多くは良性であることが多いのですが、セルトリ細胞腫と同様に高エストロゲン血症に伴う症状が認められる場合もあります。
転移は稀ですが、リンパ節や肺への転移することがあります。
多くは良性であることが多いのですが、セルトリ細胞腫と同様に高エストロゲン血症に伴う症状が認められる場合もあります。
転移は稀ですが、リンパ節や肺への転移することがあります。
●間質(ライディッヒ)細胞腫
多くは1cm以下の小さな腫瘍で腫大が認められないことが多く、偶発的に発見されることが多い腫瘍です。他の2つの腫瘍に比べ、高エストロゲン血症が起こることは少なく、転移することは極めて稀です。
多くは1cm以下の小さな腫瘍で腫大が認められないことが多く、偶発的に発見されることが多い腫瘍です。他の2つの腫瘍に比べ、高エストロゲン血症が起こることは少なく、転移することは極めて稀です。
精巣腫瘍の原因
特に潜在精巣であることは大きな要因になります。また、年齢(加齢)や、品種、環境中の発がん性物質などが要因の1つと言われていますが、詳しい原因ははっきりとは分かっていません。
精巣腫瘍ができやすい犬種としては、アフガンハウンド、チワワ、シェットランド・シープ・ドッグ、ジャーマン・シェパード・ドッグ、シベリアン・ハスキー、スタンダード・プードル、ミニチュア・プードル、ミニチュア・シュナウザー、ボクサー、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、ワイマラナーなどがあり、取り分けミニチュア系やトイ系の犬種に多く見られる腫瘍です。
精巣腫瘍の症状
精巣腫瘍の特徴的な症状としては、やはり精巣の腫大です。左右で精巣の大きさが異なるため見た目で判断できます。但し、潜在精巣の場合は腹腔内(お腹の中)や鼠径部(後ろ足の付け根の内側)で腫瘍が見つかることがあります。
また、腫瘍随伴症候群(しゅようずいはんしょうこうぐん)といって、腫瘍に伴っていろいろな症状が見られます。特に精巣腫瘍では女性ホルモンであるエストロゲン濃度が高くなることによって、雌性化現象が起こり、乳房が大きくなる、乳汁が出る、陰茎の萎縮、雄犬の誘引などが見られることもありますし、その他、左右対称性の脱毛や色素の沈着、重度の貧血などが起こることがあります。
潜精巣腫瘍の診断/検査
診断は、通常の場合、左右で精巣の大きさが異なるため見た目と触診で疑うことができます。また、潜在精巣の場合は腹腔内に腫瘍があることもあります。この場合、レントゲン検査や超音波検査、腹腔鏡検査などを行わないと発見されないことが多いものです。細胞診検査によって暫定的診断が行えますが、精巣腫瘍の確定診断には病理組織学的な評価が必要となります。
さらに、全身状態や貧血の程度を確認したりするために、血液検査、血液化学検査、尿検査などを行います。転移の有無を確認するための胸部レントゲン検査、場合によってはCT検査を行う必要があります。
精巣腫瘍の治療
精巣腫瘍は転移は稀であるため、基本的には外科手術により精巣腫瘍を摘出することが推奨されます。
手術は腫瘍のある場所で難易度などが異なります。陰嚢内にある精巣腫瘍の場合は、通常の去勢手術と同じような手術で摘出が可能です。鼠径部にある潜在精巣は皮膚を切開し摘出します。一番厄介なのは、腹腔内の潜在精巣です。この場合開腹手術による摘出となります。
手術後は転移所見がなければその後は定期的な経過観察となります。もし転移が認められた場合は抗がん剤投与、放射線療法などの補助療法が推奨されます。
潜精巣腫瘍の予防
精巣腫瘍は当然ですが、去勢手術[犬・猫]で完全に予防できます。繁殖の予定がなければ早期に去勢手術をすることをお勧めします。特にに潜在精巣が明らかな場合は正常な場合と比べて腫瘍になる確率が高いので、早期の摘出手術が推奨されます。(但し、潜在精巣の精巣を摘出せずに予想される生存期間は、摘出後の生存期間と有意な差はなかったとする報告もあります)
精巣腫瘍の看護/その他
通常外科手術による予後は良好ですが、転移が認められる場合や重度の貧血がある場合には予後が悪いとされていますので注意が必要です。
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参考文献・資料等
- 犬の内科診療 Part2; 151-156:精巣腫瘍
<1>.雄犬の不妊の一般的な原因
<2>.犬の潜在睾丸を若齢時に切除するか否かを決定するための決定木分析
<3>.外科的観点:犬猫の腹腔鏡下および腹腔鏡補助下潜在精巣切除術
<4>.潜在精巣
<5>.超音波診断:潜在精巣の犬における非腫瘍性精巣の腹腔内捻転