全身麻酔とは
麻酔とは薬物などによって人為的に疼痛や感覚をなくすことで、手術や処置による身体への負担から動物を守ります。 全身麻酔は完全に意識をなくす麻酔方法です。手術や処置は動物の知らないうちに始まり知らないうちに終わっています。全身麻酔の始まり方としては、通常、麻酔前投薬と言われる鎮静剤や痛み止めの投与、その後、注射で短い時間作用する麻酔薬を投与し、喉の奥にある気管へ口から管(気管チューブといいます)を挿入し、吸入(ガズ)麻酔薬により維持管理します。但し、短時間の手術や処置の場合、気管チューブも用いないこともあります。
全身麻酔のリスク
全身麻酔での手術や処置を行う際には、リスク(危険性)を伴います。具体的なリスクとしては、麻酔・鎮静における動物の死亡です。この主な原因は、薬剤に対するショックや心血管系、呼吸器系の合併症とされています。
麻酔や鎮静を行う際の一つの基準として、アメリカ麻酔学会(American Society of Anesthesiologists: ASA)の分類に従って、身体状態(Physical status)のクラス分けを行います。ASA分類は、クラスⅠ〜Ⅴまでの5段階に分類します。各段階の動物の状態により麻酔の危険性や死亡率が異なり、ASA(クラス)の数字が大きいほど麻酔の死亡率が高くなります。
健康な犬や猫に麻酔や鎮静に関連した致死率は、犬で0.05%、猫で0.11%という報告があります。[1]
肥満した猫(体重が6kgを超える猫)は、麻酔で死亡する可能性が2〜6 kgの猫の3倍にもなるとの報告もあります。
2023年の報告では、世界中の405の動物医療センターからの55,022例の犬の麻酔症例を含むデータを基に、麻酔関連死亡率は0.69%であると報告されています。当然、SASリスクが高い場合、子犬、高齢、肥満は麻酔が危険になります[8]。
また、フィラリアは心臓や肺に寄生しますので、フィラリアに感染していると当然リスクは高くなりますので、フィラリア予防は必須です。
当院では麻酔中は心電図やパルスオキシメーターなどを用いてモニターをしています。イギリスの報告ですが、パルスオキシメーターによるモニターを行った場合、死亡率が1/20になったと報告されています。
麻酔前検査の重要性
動物は人と違って処置や検査の際にじっとしていることができないため、麻酔や鎮静が必要になる場合が多いものです。しかし、それらの処置には常にリスクが伴います。そのため当院では、より安全に麻酔や鎮静を行い、死亡事故を減らすために血液検査や血液化学検査、レントゲン検査等による術前検査(麻酔前検査)を推奨しております。
全身麻酔時の注意事項
絶食絶飲について
胃の中に食べ物や水分が残った状態で麻酔をすることは危険を伴います。胃の内容物が逆流して肺の中へ流れ込むことで誤嚥(ごえん)性肺炎をおこす可能性があるためです。当院では、原則として手術前日24時以降は絶食、手術開始2時間前まで飲水可としています。
多頭飼育などで絶食絶飲が不可能な場合は事前にお申し出ください。手術前日からのお預かりも可能です。当日、絶食絶飲ができなかった場合も必ずお申し出ください。
飲み薬について
手術当日朝まで服用していただくものと、中止していただくものがあります。服用中の薬がある場合はお知らせ下さい。
アナフィラキシ-
投与した薬や麻酔薬、造影剤に対して体が過剰に反応して起こる強いアレルギ-反応のことです。いわゆるショックです。どのような薬に対しても起こり得ます。以前に薬や注射でアレルギ-が出たことのある方、兄弟姉妹動物に出たことのある場合は必ず事前に申し出て下さい。
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参考文献・資料等
- The Confidential Enquiry into Perioperative Small Animal Fatalities
- 猫の臨床指針Part1; 49-55:猫の麻酔と疼痛管理
- 伴侶動物治療指針Vol.11; 374-380:高齢・老齢動物の麻酔管理
- 10 Tips to Improve Anesthesia in Your Practice
- Anesthetic Monitoring: Your Questions Answered
- Anesthetic Monitoring: Devices to Use and What the Results Mean
- AAFP Feline Anesthesia Guidelines
- Anaesthetic mortality in dogs: A worldwide analysis and risk assessment