僧帽弁逆流症(僧帽弁閉鎖不全症)

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※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

僧帽弁逆流症(僧帽弁閉鎖不全症)とは?

 僧帽弁閉鎖不全(そうぼうべんへいさふぜん)は別名、僧帽弁逆流(MR:そうぼうべんぎゃくりゅう)、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)などと呼ばれることもありますが、最近は特にその最も多い原因から粘液腫性僧帽弁疾患:MMVDと呼ばれています(厳密にはそれぞれ微妙に違います)。中齢〜老齢の小型犬での発症が多い心臓の病気で、10歳以上の小型犬の30%以上が、16歳になると75%がこの病気を持つていると言われています。また、犬の心疾患のうち80%程度が僧帽弁閉鎖不全症といわれているほど多い病気です。メスに比べオスのほうが1.5倍多く罹患し、進行速度が早く、重症度が高いといわれています。
 遺伝的な要因もあり、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、チワワ、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャー・テリア、シー・ズー、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ピンシャー、チャウ・チャウ、ペキニーズ、フォックス・テリア(ジャック・ラッセル・テリアなど)、ボストン・テリア、ウイペット、コッカー・スパニエルなどに発症が多いと言われています。特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは1歳ですでに33%がこの病気を持ち、4歳以上では60%、10歳以上では100%という報告もあります。(注:当院では10歳以上でもその兆候のまったく見られないキャバリアのワンちゃんもいますので、100%ではないかな?と感じています。。)
 心臓には右心房、右心室、左心房、左心室という4つの部屋があります。その左心房と左心室の間に位置する僧帽弁(血液を送り出すために開いたり閉じたりする機能を持つ弁)が、なんらかの原因で変性し、閉鎖不全(きちんと閉まらないこと)が生じるために起こる病気が僧帽弁閉鎖不全症です。通常、僧帽弁は左心房→左心室の一方向にしか弁が開きません。しかし僧帽弁閉鎖不全症になると、左心房⇄左心室の両方向に弁が開き、血液が逆流してしまいます。逆流により肥大した左心房が、気管を圧迫し、咳を誘発します。この「咳」が僧帽弁閉鎖不全症の初期症状です。

僧帽弁逆流症(僧帽弁閉鎖不全症)の原因

 原因ははっきりとは分かっていませんが、老齢犬での発生が多いため、加齢や何らかの原因によって僧帽弁の変性(性質が変わること)が起こることが原因の一つと考えられます。年齢別で見てみると、4、5歳くらいから増え始め、7、8歳のシニア期になるとこの病気になる犬の数が急上昇してきます。
 キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでは高率に、かつ早期に発症すると言われていますので遺伝的な疾患であり、性別や年齢が発症に影響を与える因子と考えられています。僧帽弁の閉鎖不全が起こると、左心室から左心房へ血液が逆流し血液の循環不全がおこるためさまざまな症状が引き起こされます。

僧帽弁逆流症(僧帽弁閉鎖不全症)の症状

 多くの場合、発症初期段階では特徴的な症状はありません。僧帽弁閉鎖不全症は、ある日突然に起こるわけではなく、少しずつ弁の閉まりが悪くなり閉鎖不全の状態へと進行しますので、初期の少しの異常であれば身体がそれに適応するからです。一般に動物病院での診察やワクチン接種の際に心雑音(心臓の中を血液が流れる時に生じる異常な音のことで、MRでは心臓が収縮する際に血液が逆流する音)が聴取されます。進行すると運動する事を嫌がったり、ゼーゼーといった特徴的な喉につかえるような咳をしたり、激しい運動や興奮時に倒れたり(失神)する症状がみられることがあります。さらに重症になると、肺水腫(肺に液体がたまり、酸素と二酸化炭素の交換がスムーズにいかなくなるため、呼吸が苦しくなる病気)や呼吸困難、肺高血圧症、チアノーゼ(舌の色が紫色になる)などの症状を起こし、死に至る場合もあります。
【症状のチェックリスト】
 以下に僧帽弁閉鎖不全症の一般的な症状を挙げました。1つでもこのような様子がみられる場合には、当院にご相談ください。□ 食欲がない
□ 元気がない、じっとしている時間が長い
□ 散歩中に立ち止まる、歩くのを嫌がるようになる
□ カッカッという咳や、痰を吐き出すような深い咳をする
□ 呼吸がゼーゼーと荒くなったり、苦しそうにする
□ 舌や歯茎の色が紫色になっている
□ 足がふらついたり、失神する
心雑音Levine分類

※動物病院では心雑音が聴診された場合、一般的には6段階に分けてカルテに記録します。「あれ?この子去年のワクチンの時に雑音あったっけ?」とか「前回から雑音のレベルが変わってないか?」をこれらで判断します。ですから定期的に動物病院で聴診をしてもらうことはこの病気の早期発見や進行を見極めるために非常に大事なのです。ほとんどの動物病院は必ずワクチン接種時などに聴診をしていると思います。

僧帽弁逆流症(僧帽弁閉鎖不全症)の診断/検査

ACVIM共同声明でのMMVDステージ分類

 主に、問診、聴診、身体検査、レントゲン検査超音波検査(エコー検査)心電図検査(不整脈がある時)、血圧測定どを行います。 全身状態を把握したり、他の病気の存在を確かめるために、血液検査血液化学検査尿検査、なども必要になります。

 あるいは、心臓のバイオマーカーであるNT-ProBNPなどを測定して、心臓病の有無や状態を知ることもできます。

※状態が悪い場合、レントゲン検査超音波検査(エコー検査)が行えないこともあります。上記のような症状がある場合は早めに当院にご相談いただくか、獣医師の診察を受けることを心がけましょう。

 また、診断検査だけでなく、この病気の場合、定期的な再診や再検査が非常に重要です。再診や再検査の時期は病気の状態や進み具合で変わってきますので、獣医師の指示に従ってください。

 一般に診断/検査を行ったらACVIM(アメリカ獣医内科学会)のステージ分類を行います(他の分類法を用いることもあります)。これにより今現在どのような状態にあるのか、どのような治療が最も効果的なのかなどを判断します。

※時々、他院で「心臓に雑音があるからお薬に飲みましょうね」と言われて検査無しで処方された薬を飲んでいますという飼主さんがおみえになりますが、それはあまりにも乱暴な診察と処方です。少なくともレントゲン検査、できれば超音波検査は受けるべきです。なぜなら、雑音があってもお薬を飲む必要がないこともあるからです。

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この記事を書いた人

福山達也