慢性腎不全/慢性腎臓病CKD(猫編)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

慢性腎不全/慢性腎臓病CKDとは?

 慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)は以前は慢性腎不全(まなんせいじんふぜん)などとも呼ばれていた病気で、英語の頭文字でCKDと呼ばれることもあります。慢性腎臓病(CKD)とは、時間の経過とともに腎臓の機能が徐々に低下していくことをいい、特に猫は他の動物に比べ、慢性腎臓病になりやすい傾向があます。腎臓は通常、血液中の老廃物をろ過することを主とした臓器です。ろ過された老廃物は尿として排出されます。腎臓病になるとこの老廃物がうまくろ過されず、血液中に蓄積され、この病気の症状に苦しむことになります。

慢性腎臓病は、5歳以上の猫の死亡原因として最も上位に挙げられ、7歳以上のシニア猫のうち30~40%は腎臓病を患っていると言われていて、15歳以上になると30〜81%は罹患していると言われています。アビシニアン、ロシアンブルー、ペルシャ、チンチラ、シャム猫、ヒマラヤン、ラグドール、バーミーズ、メインクーンなど一部の猫は罹りやすく、遺伝も考えられます。

 一度悪くなってしまった腎臓の組織は治療しても元には戻りませんので、なるべく早期に発見して進行を遅らせるような治療をするのが重要となります。まずは病気をよく理解して、快適に長生きさせてあげられるようにしましょう!

慢性腎不全/慢性腎臓病CKDの原因

 その原因はよく分かっていませんが、腎臓の異形成、腎アミロイドーシス、原発性糸球体腎症、多発性腎嚢胞、糸球体腎炎、薬剤・毒物、腎盂腎炎、感染症、腫瘍、全身性高血圧[13]など、様々な腎疾患が挙げられますが、慢性腎臓病の原因を特定することは通常困難です。明確な原因を特定できない場合は、”特発性腎臓病 “と呼ばれます。

 どうして猫に腎臓病が多いのかについては、猫は元々砂漠の生き物であったため、少ない水分を有効に使うために尿を濃縮しています。それにより腎臓に負担がかかりやすいのでは?と言われていますが、正確なことはよくわかりません。ただ、慢性腎疾患はじわじわ進行するということです。腎障害が進行し、腎臓から尿への老廃物の排泄がうまくいかなくなると腎不全、さらには尿毒症を引き起こし、最終的には死亡してしまいます。ですから、キャットオーナーが早く気づいてあげることが重要です。

慢性腎不全/慢性腎臓病CKDの症状

 慢性腎臓病は気づかないうちに徐々に進行していき、腎機能の75%が障害されるまでは 目立った症状を引き起こしません。そのため、慢性腎臓病と分かったときには、すでにかなり進行した状態になってしまっていることが多いものです。

 主な症状としては、多飲多尿(たくさん水を飲み、たくさんオシッコをする)、食欲不振体重減少嘔吐下痢、乏尿、無尿(オシッコが出ない)、貧血、口内炎、毛艶が悪いなどが一般的です。また、腎性高血圧から眼や脳、心血管系に異常をきたすケースもよく見られます。
 中でも腎臓病の早期発見に重要な症状は、多飲多尿です(ただし、この時点ですでに腎臓は65%程度悪くなっています)。高齢の子で最近水を飲む量や尿の量が増えた、という場合は早急に当院にご相談下さい。猫の場合、体重1kがたり50mlを超えるようならあきらかに異常です。体重5kgの子が1日で500mlのペットボトル半分以上の水を飲むなら明らかに異常です。(※参考:犬は体重1kがたり100mlを超えるようならあきらかに異常です。)

慢性腎不全/慢性腎臓病CKDの診断/検査

 診断は尿検査血液検査血液化学検査超音波検査[10]レントゲン検査などにより行われます。腎臓病の早期発見に最も重要な検査の一つが尿検査です。血液検査血液化学検査よりも安価で早期に腎臓の異常を見つけられることができる可能性が高く、高齢の場合は定期的に尿検査を行うことをお勧めします(少なくとも3ヶ月に1回程度)。

定義的には、3ヶ月以上腎臓の機能的異常が続く(例:腎臓に関する血液検査異常、蛋白尿などが続く)と慢性腎臓病という診断になります[12]

 ただし、通常の血液検査(BUNやクレアチニン)では腎臓が75%悪くならないと分かりませんが、SDMAという検査項目を調べるとより早く40%程度悪くなった早期の段階で発見することができるとされています。高齢の猫ちゃんは特にこの項目を定期健診に加えることで慢性腎臓病を早く見つけてあげられますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。
 さらに甲状腺機能亢進症があると腎不全が隠されることが分かっていますので、疑われる場合にはT4などの検査を行うことも重要になります。当院では院内ですぐにT4を測定することが可能です。
 アメリカではAIを使って猫の慢性腎臓病早期発見プログラムが開発されています。病気になる前に特定の検査項目の結果をAIに解析させることで、早期に慢性腎臓病を発見できる可能性が出てきました[16][17]
 そして、検査の結果から慢性腎臓病のステージ分類を行います。現在、国際獣医腎臓病研究グループ:IRIS(アイリス)の分類を用いて行うのが一般的です。

ステージ分類 残存腎機能 血液検査
(血清CREA値)
尿検査
(尿比重)
臨床症状
ステージI 33% 正常クレアチニン: <1.4 mg/dL (<125 µmol/L)
(犬:<1.4 mg/dl)
(猫:<1.6 mg/dl)
SDMA: <18 ng/dL
正常〜低比重尿・蛋白尿
(1.028〜1.050)
なし
ステージII 25% 正常〜軽度上昇クレアチニン: 1.4-2.8 mg/dL (125-250 µmol/L)
(犬:1.4〜2.0mg/dl)
(猫:1.6〜2.8mg/dl)
SDMA: 18-35 ng/dL
低比重尿・蛋白尿
(1.017〜1.032)
なし、もしくは軽度の高窒素血症(多飲多尿等)
ステージIII <10% 軽度〜中程度上昇クレアチニン: 2.9-5.0 mg/dL (251-440 µmol/L)
(犬:2.1〜5.0mg/dl)
(猫:2.9〜5.0 mg/dl)
SDMA: 36-54 ng/dL
低比重尿・蛋白尿
(1.012〜1.021)
さまざまな臨床症状、中程度の高窒素血症(食欲不振・嘔吐・脱水など)が見られる
ステージIV <5% 重度上昇クレアチニン: >5.0 mg/dL (>440 µmol/L)
(犬:5.0< mg/dl)
(猫:5.0< mg/dl)
SDMA: >54 ng/dL
低比重尿・蛋白尿
(1.010〜1.018)
重度の高窒素血症。積極的治療がないと生命維持が困難

さらに、慢性腎臓病の猫の30〜50%は高血圧症を持っていると報告されていますので、定期的な血圧測定もかかせません。

▶慢性腎不全/慢性腎臓病CKの治療・予防・看護法などは次のページへ

この記事を書いた人

福山達也