関節炎(犬編)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

関節炎とは?

 関節炎(かんせつえん)とは変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)とも言われ、関節軟骨の変化により、痛みなどの症状があらわれる進行性の関節疾患で、​​肘、肩、膝、股関節など様々な関節に起こります。犬の罹患率は約25%で、4頭に1頭は関節炎を患っています。
 統計では10歳以上の約半数の犬に関節の問題があったたとされていますし、一般に関節炎は高齢の動物に発症するイメージがありますが、関節炎の2割ほどは1歳もしくは1歳未満でもおこっているとの報告もあります。
 また成犬の20%(成猫では60%)にはレントゲン上で関節炎の兆候は認められるとの報告もあるので、侮れません。そして、この病気の問題はドッグオーナーの約30%は関節炎は愛犬の問題であると言っているのに、関節炎の犬を飼育しているドッグオーナーの約半数は関節炎で痛がっている愛犬の症状に気づいていないということです。これは関節炎の進行速度が比較的緩やかで、明確な痛みのサインなどがわずかなために、高齢になるまで気づかれないことが原因のようです。
 最近歳のせいか動きが悪くなったと感じる場合、それはもしかしたら歳のせいではなく関節炎で「痛い」ために運動を嫌うようになっている可能性があります。
 関節炎を起こしやすい犬種は、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマン・シェパード、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、ニューファンドランド、セントバーナード、ロットワイラーなどで、主に中高齢以上の中〜大型犬に発生が多くとされていますが、トイプードル、ポメラニアン、シェットランド・シープドッグなどにも多く見られるという報告もあります。

関節炎の原因

 関節炎には、加齢に伴って発生する原発性変形性関節症と、他の病気に起因して発生する続発性変形性関節症があります。原発性変形性関節症は、加齢に伴って、関節軟骨はどんどんすり減ることにより起こります。そのため高齢犬のほうが多いと言われていますが、若い犬でも起こることがあります。
 続発性変形性関節症の原因としては股関節形成不全膝蓋骨脱臼前十字靭帯断裂、肥満などがあり、関節の不安定や関節軟骨への異常な負荷が原因となって発生します。特に重すぎる体重(肥満)は、関節と軟骨に過剰な負担をかけ、関節炎のリスクが高まります。また、先天性または遺伝性の異常、事故または外傷、自己免疫性(自らの免疫機構を攻撃してしまう)に発生することもあります。

関節炎の症状

 関節のこわばり、関節周囲の腫れや痛みなどの症状がおこります。四肢の関節に発生した場合は肢を痛がったり肢を引きずる(跛行)仕草や歩様の異常などがみられます。ご家庭ではわかりやすい症状は、階段の上り下りを嫌がる、車の乗り降りを嫌がる、散歩中に以前に比べ遅れをとったり、疲れやすかったりする。座っていたり立っていたりするより、寝ていることを好むようになる。トイレが以前のようにできなくなった。後足でピョンピョン跳ぶ。関節に触れると、クンクン鳴く、うなる、かみつこうとする。関節をなめたり噛んだりする。などです。動きが悪くなったり寝てばかりいるのは年のせいだけではないかもしれません。

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関節炎の診断/検査

 一般的な身体検査や触診、歩行チェックの他、レントゲン検査を行います。全身の状態や他の病気を探すために血液検査血液生化学検査超音波検査、CT検査などが必要になることもあるかもしれません。関節炎の痛みは早期に発見して上げることが重要になります。
関節炎は状況により以下のステージに分類します。

ステージ1:
発症前のOA
ステージ2:
軽症のOA
ステージ3:
中等度のOA
ステージ4:
重度のOA
 外傷や進行性の整形外科疾患による関節への侵襲  散歩や遊んだりすることに以前より興味が薄れている。獣医師の診察によりOAの徴候が見られる。  跛行があり、階段を上がったり、容易に立ち上がったり、伏せたりできない。  持続的な痛みがあり、ほとんどの通常活動が妨げられている。OAの徴候が常時見られる。

関節炎の治療

 変形性関節症が股関節形成不全膝蓋骨脱臼、前十字靭帯断裂など他の骨や関節の病気などが原因となって起こっている場合は、その病気の外科的治療などを行いますが、加齢性で起こっている変形性関節症を完治させる治療法はなく、痛みの緩和と関節機能を向上させ、関節の変形の進行を遅らせるために、消炎鎮痛剤、抗体製剤の投与やレーザー療法などに主となります。特に最近になって月1回の注射により痛みを抑えてくれる抗体製剤も登場しました。ご希望の方は当院にご相談ください。
 もちろん外科的に関節置換術なども選択できないわけではありませんが、費用や平均余命からすると誰でもが容易に選択できるものではありません。また、食事中の成分も、関節炎の進行に影響します。きちんとしたバランスのとれた食事が不可欠で、関節の健康を維持する処方食やサプリメント/オメガ3脂肪酸などを用います。
 自宅では体重管理(最も効果的で最小のコストで済みます)や運動制限、状態によっては逆に毎日の運動などのケアを行います。
 治療は早く始めれば始めるほど有効であることを知っておいてください。重大な軟骨の損傷が起こるまで待つてはいけません。

▲上記の療法食は当院でも購入可能です(注文の場合もあります)し、オンラインでのご購入可能です。必要な方は専用の病院コードを発行致しますので、当院受付でお申し出ください。
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 関節炎の予防

 まず、肥満は変形性関節症の発症原因となるため、予防には、体重管理が非常に大切です。肥満にならないように日頃からのこまめな体重管理を心がけましょう。また、その他上記のような症状がみられた場合は、早めに当院にご相談ください。軽度の運動はとても良いことです。適正体重を維持し、関節への過剰な負担を回避することに役立ちます。

以下であてはまることが一つでもあれば当院にご相談ください。
□体重がここ最近増加している
□階段を登るのが困難になった
□起き上がる動作が遅くなった
□激しい運動後に足がおぼつかなくなった
□あまり遊ばなくなった
□横になることが増えた
□関節なめることがる
□最近関節を怪我したり、手術を受けた
□触ると痛がる

関節炎の看護/その他

 高齢になったら散歩や運動を控えなければとおもっていたら大間違いです。また、関節炎だからと言って散歩が禁止ではありません(未だにこのようなことをいう獣医師もいます)。むしろ消炎鎮痛剤などを使いながら積極的にリハビリ運動を行わなければ歩けなくなってしまいます。まずは高齢になったら、生活環境を整えてあげましょう。室内で飼っている場合、滑りやすいフローリングなどはカーペットコルク材などを敷いてあげたり、滑り止めの床用コーティング剤を塗ったりしてあげましょう(これは若い頃から)。階段の上り下りも負担になるので、ゲートをつけるなど対策をしましょう。高めの段差にはステップを置いてあげるといいでしょう。

 何度も言いますが、適正体重が関節への負担を軽減します[6]肥満は厳禁です。適切な栄養管理と体重維持を心がけましょう。
 処方されたお薬はきっちりと飲ませましょう。関節炎は完治がむずかしい病気で長いお付き合いになります。できるだけ進行を抑えてあげ、愛犬の「痛み」を抑えてあげるためにも、大変ですが毎日根気よくケアしてあげましょう。
 寝起きや散歩前は間接を温めてあげる温熱療法、散歩後は冷やしてあげる冷却療法が効果的です。また、家庭での日々のストレッチなどのリハビリも効果的だと報告されています[5]。可能であれば水中トレッドミルなど専門設備を備えたリハビリ施設で定期的にリハビリを行うことが勧められます。詳しいリハビリのやり方はCCRPなどの資格を持つ獣医師、愛玩動物看護師、PTなどの指導を受けてから行いましょう。

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参考文献・資料等
  1. CCRP テネシー大学公式認定『犬の理学リハビリテーションセミナー』
  2. 高齢犬でよくみられる関節疾患とそのリハビリテーション
  3. Face validity of a proposed tool for staging canine osteoarthritis: Canine OsteoArthritis Staging Tool (COAST)
  4. 犬の跛行診断;
  5. Herbal Therapies for Osteoarthritis
  6. Effect of passive stretching on the range of motion of osteoarthritic joints in 10 labrador retrievers
  7. Effects of caloric restriction and a moderate or intense physiotherapy program for treatment of lameness in overweight dogs with osteoarthritis


<1>トレッドミル上を歩行する猫に関するビデオX線透視検査画像を用いた寛骨大腿関節運動学: 変形性関節症に関連した障害を評価するための技術開発
<2>慢性変形性関節症の犬における、血漿中および滑液中のカルプロフェン濃度
<3>骨関節症のバイオマーカーを使用した脛骨高平部水平骨切術による治療の有効性についての研究
<4>犬の免疫介在性多発性関節炎および骨関節炎でのサイトカインのプロファイル
<5>2つのバリエーションのTPLOによるレントゲン画像上での関節炎の比較: 回顧的臨床研究
<6>シリアルフォースプレートシステムを用いた股関節の骨関節炎の犬と正常な犬の負重の評価
<7>犬の上腕骨顆骨折整復後における外傷後骨関節炎の発生頻度について
<8>股関節形成不全と骨関節炎の関連解析に対するラブラドールレトリバー種・グレイハウンド種の影響力
<9>犬の母集団における変形性関節症治療のための自己タンパク質溶液の単回関節内注射に関する評価
<10>EP4プロスタグランディン受容体拮抗薬(PRA)であるグラピプラントの、変形性関節症罹患犬における前向き、無作為化、盲目的、プラセボ対照多施設臨床試験
<11>変形性関節症に罹患した犬における臨床計量器(Clinical Metrology Instrument)の評価
<12>犬変形性関節症の臨床調査において報告された転帰尺度の系統的レビュー
<13>骨関節炎を有する犬における魚油の用量漸増効果
<14>寛骨大腿骨関節の変形性関節症に関連した疼痛が存在する犬での機械的閾値と肢の利用との間の関連性および、股関節全置換術による疼痛緩和が機械的閾値におよぼす調節効果
<15>自然発生した前十字靱帯疾患が存在する犬の膝蓋大腿関節の関節軟骨病変
<16>犬の整形外科インデックス ステップ3:反応性試験
<17>犬の整形外科インデックス ステップ2:心理学的試験
<18>犬の整形外科インデックス ステップ1:項目の立案
<19>変形性関節症の臨床兆候を緩和する栄養補助食品の有効性についての系統的再調査
<20>脛骨高平部水平化骨切り術または外側ファベラ縫合固定術と術後理学リハビリテーションを行った犬の短期・長期的機能とX線検査上の変形性関節症の比較
<21>変形性関節症の犬の体重変化が最大垂直力におよぼす影響:研究結果におけるバイアスの可能性
<22>変形性関節症が存在する犬に対するパルス・シグナル療法の効果を評価するための、無作為対照臨床試験
<23>猫の変形性関節症の評価:予備的研究からの新しい情報
<24>変形性股関節症である犬の外側広筋、大腿二頭筋、および中殿筋における後肢の運動学および表面筋電図検査
<25>犬の変形性関節症による難治性疼痛の緩和にアマンタジンを用いた多様式鎮痛療法
<26>犬の肘変形性関節症の発生に及ぼす生涯食事制限の影響に関する縦断的研究
<27>上腕骨内側上顆癒合不全:ラブラドール・レトリバーの同齢集団におけるX線上の罹患率および変形性肘関節症との関連性
<28>犬の自然発生性十字靭帯疾患におけるコラゲナーゼ生成変形性関節症バイオマーカーの評価
<29>炎症性膝関節炎および関連する変性性前十字靱帯断裂が存在する犬から採取した関節組織内のリンパ球ポピュレーション
<30>変形性関節症と推定される犬に対する治療としての二重盲目、無作為化、プラセボ対照臨床試験によるS-アデノシルl-メチオニンの評価
<31>犬膝関節の実験的変形性関節症における骨棘症、軟骨下骨硬化、関節滲出、および軟部組織肥厚:1.5T MRI画像とコンピューターX線像による比較
<32>犬の肩関節における変形性関節症発症に対する生涯にわたる食事制限の影響
<33>前十字靭帯を損傷した犬の術後回復におけるペントサン多硫酸ナトリウムの評価:無作為化プラセボ比較対照臨床試験
<34>メロキシカムが犬における骨関節炎の跛行の重症度およびその他の臨床症状に及ぼす影響
<35>重度の自然発生性変形性関節症に罹患した犬に対する肘関節全置換術後の短期的な転帰
<36>膝関節の変形性関節症に罹患した犬における肢の機能とX線学的変形性関節症との関連性
<37>特別報告 犬の骨関節炎に関する情報を提供しているウェブサイトの有用性、完全性、および正確性
<38>グレート・デンの両側性寛骨大腿変形性関節症に対するコセクイン (Cosequin) を用いた治療

[WR21,VQ21:]

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この記事を書いた人

福山達也