バベシア症

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

バベシア症とは?

 バベシア症は、バベシアと呼ばれる顕微鏡でしか見えない小さな原虫という病原体が、血液中の赤血球に寄生することによって溶血性貧血などいろいろな症状をひき起こす病気です。治療が遅れると死に至ります。病原体であるバベシアはマダニの体内に潜んでいて、マダニの吸血とともに犬に感染します。日本国内では病原性の比較的弱いバベシア症(Babesia gibsoni)が関西以西の西日本・四国・九州・沖縄地方に多く発生していますが、近年では東日本以北での犬の感染例も報告されています。壱岐島内でも非常に多くのバベシア症の発生(壱岐島全域)を確認しています

バベシア症の原因

バベシア

 バベシア症はバベシア原虫の寄生により起こります。バベシア原虫には、B. gibsoni、B. canis canis、B. canis rossi、B. canis vogeli などいくつかの種類があり、マダニフタトゲチマダニ、ツリガネチマダニ、クリイロコイタマダニ、ヤマトダニ)を介して感染することが知られています。また、マダニ以外に闘犬に多く見られることから、犬同士の咬傷による感染も示唆されています。その他、母子の胎盤感染、輸血による感染も原因となります。

 バベシア原虫に感染しているマダニに犬が吸血されると、体内に入ったバベシア原虫は血液中の赤血球に寄生して、赤血球を破壊しながら増殖します。

バベシア症の症状

 一般的には、バベシアに感染してから2~3週間で症状が現れます。症状は主に赤血球が破壊されるため、貧血や血色素尿(赤血球の中の赤い色素による赤い尿)、血小板減少症などがみられます。またその他に元気消失、疲れやすい、食欲不振発熱黄疸脱水嘔吐低血糖、粘膜蒼白、脾腫(脾臓が腫れる)などの症状もみられ、重症化するとDIC(播種性血管内凝固症候群:はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)や多臓器不全が起こり死に至る場合もあります

バベシア黄疸尿

バベシア症の診断/検査

 問診(特にダニの予防歴)や身体検査の他、まず、赤血球のバベシアを血液塗抹検査などにより顕微鏡で確認します。しかし、バベシア原虫の寄生数が少ない場合、状況やタイミングによっては、顕微鏡での観察だけでは寄生が分からないこともよくありますので、日を改めて複数回検査をする必要があります。その他、貧血の状態や血小板の状態、黄疸、全身状態を把握するために、血液検査血液化学検査尿検査が必要になります。

 また、バベシアに対する抗体を測定する抗体検査やバベシアの感染を調べる遺伝子検査(PCR法)を外部検査機関に依頼いして行います。ただ、症状が強くない場合は感染していても検査で陰性が出る場合もありますので注意が必要です。これらの検査は時間も費用もかかります。

 脾腫の確認のために、レントゲン検査超音波検査を行うこともあります。

バベシア症の治療

 治療は、現在のところ特効薬といわれるものがなく、完治が難しい病気です。だからこそダニ予防が重要なのです。一般的にバベシア原虫を抑える効力のある抗生剤を数種類(メトロニダゾール、クリンダマイシン、ドキシサイクリン)飲ませたり、抗原虫剤(ジミナゼン)の注射投与となります。しかしながら、バベシアを完全に駆除することは難しく、症状が改善してもほとんどの場合バベシアが体の中に潜んでいる無症状の不顕性持続感染(キャリア)になるので、体力や免疫力が低下したときなどに再発することがあります。

※なお、当院ではバベシア症の治療に必要な場合、海外から許可を得て輸入した薬剤を用いる場合がありますのでご了承ください。

●ジミナゼン(商品名ガナゼック)注射を受けた方へ
 ジミナゼン(商品名ガナゼック)は先駆的治療薬で駆虫効果は高く、速攻性もあります。但し、この薬剤は犬への投与は許可されていません。それを了承の上で治療を受けてください。

 以前の用量での使用は副作用死の報告もありましたが、現在では、低用量複数回注射が主流です。当院でもそちらを採用しております。副作用は発現率は非常に低いものの、小脳出血と筋注のため注射部位の疼痛(痛み)と硬結(固くなること)が問題になります。

 また、再発も見られるため、稀に薬剤耐性(ジミナゼンが効かなくなる)が起こることもあります。

バベシア症の予防

 今のところワクチンなどバベシアに対する予防薬は開発されていません。しかし、バベシア原虫の感染原因はマダニですから、マダニとの接触を回避することが予防となります。そのため、動物病院で処方されるようなきちんとしたノミ・ダニ駆除剤を定期的に投与したり、マダニが生息する地域の山野や草むらなどでの散歩や運動を避けることが重要です。ノミ・ダニ駆除剤をは動物病院で処方されるものを使いましょう。市販品は投与方法が同じに見えても、成分が違ったり、成分は同じでも量が違ったりで十分な予防効果がないものがほとんどです。

 また、未だに壱岐島内では犬を放し飼にしていたり、朝晩放したりするレベルの低いオーナーがいます。そういう犬たちはきちんと予防もしてもらえず、伝染病や寄生虫を撒き散らしていきます。法律でも犬を放すことは禁止されていますし、事故が起これば全て飼い主の責任だということを分かつていないようです。

バベシア症の看護/その他

 犬に感染するバベシアは、人に感染性することはありません。ただし、他の動物に感染するバベシアが人に感染した例があります。

 お薬の投与は状況を見ながら数週間行う必要がありますので、元気になったからと素人判断で勝手に途中でやめたりしないでください。

 バベシアに感染している犬は、他の犬に感染させないためにも通年(1年中)でのノミ・ダニ駆除剤の使用を推奨します。壱岐島内でも多数の犬がバベシア症に感染しています。感染した犬のオーナーがきちんとダニ予防をしないとどんどんこの病気を広げることになります。感染が確認された犬を飼っているドッグオーナーは正しい知識をもちきちんと対処してください。

犬と猫の寄生虫症アトラス(バベシア)も参照してください。

 たまにネットで予防薬を買っている方がいますが、多くの方が不適切なものを買ったり、きちんと管理されていなかったりしています。動物病院ではカルテや電子カルテなどに記録を残し、どの頻度で処方しているかを把握して、予防を忘れていたら早めにお知らせしたりします。現在の壱岐島は全島でバベシア感染がみられます。ダニ予防をサボれば大変危険な状態です。きちんとした薬剤できちんとした周期で予防をしていなければ、いつどこで感染してもおかしくない状態であることをドッグオーナーは肝に銘じてください。

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参考文献・資料等

  1. バベシア感染症
  2. 伴侶動物治療指針Vol.5; 62-71:マダニ伝搬性疾病とマダニ防御
  3. 伴侶動物臨床指針Vol.9; 38-47:マダニの生態と防除
  4. 犬バベシア症の血清学的診断に関する新しい話題
  5. 総説 犬バベシア症:分子分類学から疾病管理まで
  6. 犬の内科診療 Part2; 321-326:バベシア症
  7. 犬の内科診療 Part3; 351-358:バベシア症
  8. 臨床家のための血液病学アトラス;68-69:犬バベシア症
  9. バベシア症に罹患した生後 5 週齢の子犬に対して アドバコン・プログアニル合剤で治療を試みた 1 例
  10. 犬バベシア症

<1>自然感染した犬のバベシア症における急性相蛋白の血中濃度: 予備研究
<2>急性バベシア・カニス感染症の予後マーカー
<3>臨床における病理学 大型バベシア種に一致する微生物による赤血球内感染
<4>バベシア症罹患犬の血液凝固活性、内皮刺激、および炎症のマーカー
<5>免疫不全の犬7頭における大型バベシア種によるバベシア症
<6>犬の合併症のないバベシア症(Babesia rossi)における止血異常
<7>アトバコンとアジスロマイシンにより治療した臨床症例におけるバベシア・ギブソニの薬剤耐性変異株発生の可能性
<8>バベシア症(Babesia canis canis)の犬38頭における腹部超音波画像所見
<9>南アフリカにおける犬バベシア症に対する品種と性別の危険因子
<10>ノースカロライナ州の犬で初めに同定された、大型で名前が付けられていないバベシア ピロプラズマの、その州への旅行歴がない犬における検出
<11>闘犬場から押収された犬から採取した血液サンプルにおけるBabesia gibsoniと犬小型バベシア「スペイン分離株」の検出
<12>バベシア症に自然感染した犬の腹部超音波検査所見
<13>犬の正常循環血液量での貧血モデルにおける左心室サイズおよび機能の心エコー検査変数の変化
<14>米国における犬のバベシア症の地域分布と犬による咬傷との関連性:150例(2000-2003)
<15>Babesia gibsoni:犬の新興病原体
<16>バベシア症の犬におけるグルコース、乳酸塩、及びピルビン酸塩の濃度
<17>犬の慢性バベシア・ギブソニ(アジア遺伝子型)感染症に対するアトバクオンとアジスロマイシンの併用の有効性
<18>犬バベシア症の血液乳酸値、血糖値、およびヘマトクリット値の予後診断的価値
<19>悪性犬バベシア症における低血糖症の発症率と危険因子
<20>犬のダニ媒介性疾患の伝播時間および予防
<21>持続的な血小板減少症を示した犬におけるバルトネラ症とバベシア症の併発
<22>エルクにおけるBabesia odocoileiの感染
<23>犬の輸液関連性バベシア・ギブソニ感染症
<24>犬バベシア症における心臓トロポニン
<25>アメリカ合衆国南東部における犬のBabesia gibsoni 感染
<26>オクラホマ州において最近同定されたBabesia gibsoni様分離株を犬に実験感染させた場合の臨床的及び血液学的影響

[WR21,VQ21:バベシア]

この記事を書いた人

福山達也