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ユリ中毒とは?
ユリ中毒とは、ユリ属(Lilium spp.)およびヘメロカリス属(Hemerocallis spp.)の植物を摂取することで、特に猫に急性腎障害を引き起こす中毒です。ユリは美しい花ですが、愛猫にとっては極めて危険な毒性を持っています。ユリの花びら、葉、茎、花粉、さらには花瓶の水に至るまで、すべての部分が有毒であり、ごく少量の摂取でも致命的な影響を及ぼす可能性があります(猫が毛づくろい中に葉を1、2枚、花粉を少量でも口にすると)。摂取後、速やかに適切な処置を施さなければ、数日以内に腎不全が進行し死亡する危険性があります。そのため、ペットオーナーはユリを家の中や庭に置かないよう注意が必要です。
ユリ中毒の原因

※植物名からウィキペディアにリンクしております。写真などで確認してください。
ユリ中毒の症状
ユリ中毒の症状は、摂取後6~12時間以内に現れることが多く、まず嘔吐や食欲不振、沈鬱、多唾液分泌(よだれを垂らす)、運動失調(ふらつき)といった初期症状が見られます。その後、症状が一時的に治まることがありますが、これは決して安心できるものではありません。腎臓の障害が進行すると、12~24時間以内に脱水、多飲多尿(大量の水を飲む、尿の量が増える)といった症状が現れます。さらに、24~96時間後には乏尿または無尿(尿が出なくなる)、痙攣発作、昏睡状態といった深刻な症状が出ることもあります。特に尿が出なくなる状態は、腎不全が致命的な段階に進行している証拠です。もし愛猫がユリを摂取した疑いがある場合は、症状が出ていなくてもすぐに当院にごそうだんください。
ユリ中毒の診断/検査
ユリ中毒の診断では、まずペットオーナーからの問診が非常に重要です。愛猫がユリに触れた、または摂取した可能性があるかどうかを確認し、それに基づいて検査が行われます。身体検査では、脱水の程度や腎臓の痛みを評価し、血液検査によって高窒素血症(BUNおよびクレアチニンの上昇)、高リン血症、高カリウム血症(重度の場合)などの異常を調べます。また、尿検査では尿比重の低下、尿中タンパク、尿糖の有無を確認し、場合によっては腎臓の状態を詳しく見るために画像診断(レントゲン検査や超音波検査)が行われることもあります。
ユリ中毒の治療
ユリ中毒には特効薬がないため、早期の対応が予後を大きく左右します。摂取直後の段階(2時間以内)であれば、催吐処置を行い、活性炭を投与して体内への毒素の吸収を抑えます。その後、腎臓の負担を軽減するために静脈点滴による輸液(点滴)を開始し、最低でも48~72時間は継続します。中毒症状がすでに現れている場合には、制吐剤の投与や尿毒症対策(胃粘膜保護剤、制酸剤の投与など)を行い、重度の場合は透析治療が必要になることもあります。特に、乏尿・無尿の状態に陥った場合は、腹膜透析や血液透析が必要になることが多く、通常の動物病院では対応が難しいため、専門機関での治療が求められます。治療が18時間以上遅れると死亡率が極めて高くなるため、愛猫がユリを口にした可能性がある場合は、速やかに当院にご相談ください。
ユリ中毒の予防
ユリ中毒を防ぐためには、まず愛猫の生活環境からユリを排除することが最も重要です。家の中や庭にユリを植えないことはもちろん、花屋で花を購入する際には、ユリが含まれていないか必ず確認するようにしましょう。また、プレゼントとして花束を贈る際にも、相手の家庭に猫がいる場合は「ユリを含まない花束にしてください」と花屋さん(花屋さんでユリが猫に有毒であることを知らない人もいます。)に伝えることが大切です。さらに、ペットオーナー同士でユリが愛猫にとって危険であることを周知し、注意喚起を行うことも予防策の一つとなります。
ユリ中毒の看護/その他
ユリ中毒を疑う場合、すぐに動物病院を受診することが最も重要です。その際、摂取したユリのサンプルを持参し、どの種類のユリをどれくらい摂取したのかをできるだけ正確に獣医師に伝えるようにしましょう。また、症状が出る前の段階でも治療を開始することで、急性腎障害の進行を防ぐことができます。ユリ中毒は非常に危険な疾患ですが、早期の対応と適切な治療により、多くの愛猫が回復可能です。ペットオーナーとしては、日常生活の中でユリを避けることが最善の予防策となります。
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参考文献・資料等
<1>.猫のユリ中毒の回顧的研究
<2>.ユリを誤食したことが判明している猫における消化管内汚染除去処置および静脈内輸液による利尿後の結果:25例(2001-2010)
<3>.猫のユリ(オニユリ)中毒による急性腎障害の解決
<4>.猫におけるユリの腎毒性
<5>.6頭の猫におけるユリの摂食によって引き起こされた急性腎不全