副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)とは?

 犬の副腎皮質機能亢進症は、人(1/10万人程度)や猫では稀なのに比べて発生率が高く(500頭に1頭)、犬で最も重要な内分泌疾患のひとつです。「クッシング症候群」と呼ばれることもあります。特に中高齢の5〜15歳で、発症することが多く、まれに先天性にも見られます。また、雌(メス)に多いと言われ、プードル、ダックスフンド、シュナウザー、ボストンテリア、ボクサー、ビーグルに多く見られると報告されています。
 副腎は、左右の腎臓の近くにあり、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を分泌する内分泌器官です。このコルチゾールは、糖代謝や脂質代謝、タンパク質代謝、体の免疫系やストレスに対する作用などさまざまな働きを担っています。副腎皮質機能亢進症は、この副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることにより起こる病気で、さまざまな症状が引き起こされます。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の原因

副腎皮質機能亢進症の発症の原因には、大きく次の3つがあるといわれています。

  1. 下垂体依存性副腎皮質機能亢進症
    脳の下垂体と呼ばれる内分泌器官の腫瘍化などにより、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰に分泌されることで発症します。犬ではこの下垂体依存性副腎皮質機能亢進症が9割を占めていると言われ、ほとんどは下垂体腫瘍が原因です。
  2. 副腎腫瘍
    副腎の腫瘍化などにより副腎皮質ホルモンが多量に分泌されることで発症します。副腎の良性腫瘍と悪性腫瘍の割合は1:1と報告されています。
  3. 医原性副腎皮質機能亢進症
    治療のために用いるステロイド薬(副腎皮質ホルモン剤)を長期間、多量に投与した場合などに発症します。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の症状

 副腎皮質ホルモンは、体に対して多くの影響を与えるため、さまざまな症状がみられます。代表的なものとして、多飲多尿(飲水量が増え、尿量が増す状態。95%以上に見られる)、食欲増進(90%以上)、肥満、 腹部膨満(お腹が膨らむこと)、皮膚の非薄化(皮膚の厚さが薄くなる)、脱毛(痒みを伴わなず左右対称性。80%以上)、皮膚の色素沈着(色素が沈着して黒色化)、筋力の低下(動きが鈍くなる)、嗜眠(しみん:睡眠を続け、強い刺激を与えなければ目覚めて反応しない状態)などがあります。
 また、合併症として糖尿病や尿路感染症、血栓症、高血圧症[6]などがみられることがあります。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の診断/検査

 症状などから副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)が疑われる場合、まず一般的な液検査血液化学検査尿検査などを行います。そこで、ALP(アルカリフォスファターゼ)や、トリグリセライド、総コレステロールなどの値が上昇している場合、疑いが濃くなります。その後、疑う原因により、レントゲン検査超音波検査コルチゾール測定ACTH刺激試験低用量デキサメタゾン抑制試験、高用量デキサメタゾン抑制試験などを行って確定診断を行います。(壱岐動物病院でも院内でコルチゾール測定等が可能です)

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の治療

 原因にもよりますが、一般的には、内科的治療と外科的治療があります。
●内科的治療
原因が医原性にステロイドの過剰投薬で引き起こされている場合には、まず、ステロイド剤の投与を徐々に中止します。
 その他の原因による場合には、副腎皮質ホルモンを分泌する副腎皮質の細胞を壊す薬や副腎皮質ホルモンの分泌自体をコントロールする薬などの投与を行います。投薬にあたっては、まずホルモンの分泌が過剰となっている原因を確定します。次に、薬の必要量を確認するために、投薬前後の血液検査(血中の副腎皮質ホルモン濃度の測定)を行ないます。投与量が多い場合には副腎皮質機能低下症を引き起こす可能性があるため、注意が必要となります。また、薬の投与量や回数などについてはワンちゃんの症状や副腎皮質ホルモン濃度により異なるため、定期的な検査が必ず必要です。さらに、基本的には、生涯を通しての投与となります。
 内科的治療で症状が緩和されるケースもありますが、症状が重度な場合や内科的治療を行って症状の改善がみられない場合などは、外科的治療を行うことがあります。

当院でトリロスタン(副腎皮質ホルモン合成阻害剤)を処方されたオーナーの方へ
・薬は単独では吸収があまりよくないので、食事とともに与えてください。
・投薬を始めたら最初の1〜2週間で必ず再診に来院してください。
・10〜20%で副腎機能不全に関係した副作用が見られます。投薬後元気がなくなるようなら投薬を中止して、ご連絡ください

●外科的治療
副腎腫瘍が原因の場合は、その腫瘍が切除可能ならば外科手術が第一選択となります。また、脳の下垂体腫瘍が原因の場合、手術により切除することもありますが、非常に困難で危険性が高い手術とります。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の予防

 この病気も早期発見、早期治療が大切です。日頃からこまめな検診をお勧めします。
 異常な飲水量、尿量、皮膚の状態や脱毛の有無などのチェックを行ない、異常が見られたり、上記記載の症状が見られる場合は、早めに当院にご相談ください。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の看護/その他

 海外の一部飼主の間で、「クッシング症候群に罹患したイヌの生存期間は、治療してもしなくても変わらない」という意見がありますが、科学的に検証した研究は存在しません。また、治療しなければ糖尿病を引き起こす原因になったりします。
 「最近、お水を飲む量が増えた(1日に体重1kgあたり100ml以上飲むなら異常です)」「お腹がなんとなくふくれてきた」「皮膚が左右対称に脱毛している」などの症状が見られるようであれば当院にご相談ください。当院では院内で副腎皮質機能亢進症の検査ができる体制を整えています。
 犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の最も重大な合併症の一つとして血栓症があります。血栓症を予防するためにご家庭ではヘパアクト[3]などのサプリメントを用いるのも一つだと考えられます。ご希望の方は当院受付けにてお申し出ください。
 この病気は原因にもよりますが、肺動脈塞栓症などの合併症で急に肺水腫を起こし状態が悪くなったり、急死したりするので注意が必要です。

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参考文献・資料等
  1. 伴侶動物の治療指針 Vol.1;176-180:副腎皮質機能亢進症の治療
  2. 伴侶動物画像診断 No.1; 56
  3. 日常診療に潜む血栓症 ~サプリメントによる血栓症リスク低減への挑戦~
  4. 【内分泌疾患セミナー②】イヌのクッシング症候群の診断
  5. 【内分泌疾患セミナー③】イヌのクッシング症候群の治療
  6. Prevalence and risk factors associated with systemic hypertension in dogs with spontaneous hyperadrenocorticism
  7. Development and internal validation of a prediction tool to aid the diagnosis of Cushing’s syndrome in dogs attending primary‐care practice
  8. 犬と猫の初期診療アプローチ;19-27:水をたくさん飲んで、脱毛とブツブツがあります
  9. 副腎皮質機能亢進症の診断と治療
  10. 新伴侶動物治療指針 Vol.1; 169-177:犬の副腎皮質機能亢進症の診断及び治療アップデート


<1>非定型クッシング症候群と糖尿病の犬の治療後における褐色細胞腫の良好な転帰: 症例報告
<2>副腎皮質機能亢進症に罹患した犬における左心室の構造および機能異常
<3>犬の副腎皮質機能亢進症の診断
<4>下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の内科的管理: ミトタン vs トリロスタン
<5>副腎皮質機能亢進症に関連する性ステロイドホルモン過剰症
<6>猫の副腎疾患
<7>自然発生した副腎皮質機能亢進症が存在する犬の血液凝固ステータスの評価
<8>糸球体および尿細管機能に影響する犬の副腎皮質ホルモン過剰症
<9>正常犬のエストラジオール濃度の変動
<10>クッシング病と糖尿病が合併している犬に対する下垂体切除術
<11>犬における非特異的クッシング症候群: 賛成および反対の議論
<12>下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の犬におけるトリロスタン治療が循環中甲状腺ホルモン濃度に及ぼす影響
<13>健康なフェレットと副腎皮質機能亢進症のフェレットにおける超音波画像診断による副腎の観察
<14>12頭の猫における医原性副腎皮質機能亢進症
<15>下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の犬にトリロスタンを1日2回投与した場合の長期的な効果
<16>トリロスタンの副腎皮質腫瘍治療への応用
<17>脱毛症に罹患した犬における性ホルモン濃度
<18>下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の犬における成長ホルモンの拍動性分泌パターン
<19>機能性副腎皮質腫瘍をもつ犬に対するトリロスタン治療
<20>高コルチゾル血症の犬に対するACTH投与後の副腎組織のステロイド原性反応
<21>一次診療病院における下垂体依存性副腎皮質機能亢進症に罹患した犬における生存期間の比較:トリロスタンで治療された場合と未治療の場合
<22>副腎皮質機能亢進症の疑いのある、あるいは治療を受けた犬に対するACTH刺激試験の2つの用量の比較
<23>画像検査により下垂体腫瘍と診断された犬に対する定位放射線治療による長期生存
<24>犬における胆嚢粘液嚢腫の組織学的診断と選択された薬物の使用との関連性:対症例対照研究
<25>下垂体依存性副腎皮質機能亢進症罹患犬におけるアドレナリン分泌予備能に対するトリロスタンおよびミトタンの影響
<26>犬のコルチゾール分泌性副腎皮質腫瘍におけるGNASの活性化突然変異
<27>犬の高コルチゾール血症の診断に対する被毛中のコルチゾールの評価
<28>犬の副腎皮質機能亢進症における凝固性亢進のための凝固系と潜在的な生化学マーカーの評価
<29>5kg未満の下垂体依存性副腎皮質機能亢進症罹患犬に対する低-および高用量トリロスタン治療の有効性
<30>ACTH依存性副腎皮質機能亢進症の治療後の犬における腎機能の長期的追跡調査
<31>片側性副腎癌の治療としての腹腔鏡下副腎摘出術:犬7頭における術式、合併症、成果
<32>内分泌疾患に関連する眼症状発現
<33>副腎皮質機能亢進症:犬での治療法
<34>クッシング病に罹患した犬における血漿プロ-オピオメラノコルチン、プロ-副腎皮質刺激ホルモンと下垂体腺腫のサイズ
<35>犬における副腎皮質機能亢進症の診断:内科医と皮膚専門医の調査

この記事を書いた人

福山達也