マラセチア皮膚炎

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

マラセチア皮膚炎とは?

 マラセチアとは、人を含む動物の皮膚に常在する酵母です。通常でも常在菌として正常な皮膚にも存在しますが、しばしば皮膚疾患や外耳炎を引き起こすことがあり、犬の慢性皮膚疾患の原因になります。また、特発性だけでなく、アトピー性皮膚炎脂漏性皮膚炎甲状腺機能低下症などに併発して起こります。
 アイリッシュ・セター、アメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・セッター、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、オーストラリアン・テリア、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、ゴールデン・レトリーバー、サルーキー、シー・ズー、シルキー・テリア、ジャーマン・シェパード・ドッグ、スプリンガー・スパニエル、チワワ、トイ・プードル、ニューファンドランド、バセット・ハウンド、パグ、フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、マルチーズ、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・プードル、猫ではデボンレックス多く見られるとされていますが、どの犬種や猫種でも見られる印象です。

マラセチア皮膚炎の原因

マラセチアの仲間には14種類が確認されていいますが、犬や猫で問題になるのは、Malassezia Pachydermatisです。真菌というカビの仲間で、その中でも担子菌類というキノコの仲間です。通常でも常在菌(どんな犬猫にもいる菌)であるマラセチアがなぜ異常に増殖し、皮膚疾患を起こすかは実はまだよく分かっていません。脂肪分泌の多い犬種、飼育環境の温度・湿度、食餌、アトピー性皮膚炎アレルギー性皮膚炎甲状腺機能低下症などの基礎疾患などいくつかの要因が複雑に絡み合うことで発症すると思われます。

マラセチア皮膚炎の症状

 ベトベトした強い脂漏性、悪臭、肥厚(苔癬化)、痒み、色素沈着、皮膚炎、外耳道炎、落屑(フケ)、脱毛がなどが見られます。症状は主に、外耳、口唇、鼻、肢、趾間、脇の下、内股、会陰部など水分の多い部位に特に見られます。
 また、マラセチアは犬アトピー性皮膚炎の増悪因子でもあるとされています。アトピー性皮膚炎のある動物では症状がひどくなります。「治らない痒み」にはマラセチアが関与していることは少なくありません。また、夏に悪化する傾向があります。

マラセチア皮膚炎の診断/検査

 皮膚検査を行います。皮膚から採取した検体を染色し、顕微鏡でマラセチアの有無を確認します。面白いことにマラセチアの数と痒みなどの症状には相関関係がありません。ということは、数が少なくても痒みなどの症状がひどいことがあるし、多くても症状が見られないこともあるということです。
 また、併発疾患やその他の皮膚疾患と区別するために血液検査血液化学検査尿検査甲状腺ホルモン検査、性ホルモン検査、除去食試験、アレルギー検査なども必要になることがあります。

マラセチア皮膚炎の治療

 まずは、抗真菌作用や脂質を除去できるシャンプーを行います(週2〜3回を推奨)。また、消毒や抗真菌剤の内服や外用薬、症状によっては炎症やかゆみを抑える薬剤を用いることもあります。当然シャンプー療法と抗真菌剤の全身投与の併用を行ったほうが早く改善が見られます[6]

シャンプー療法について
局所的な皮膚疾患(ある一部分や数カ所小さな病変)には外用薬を処方することがありますが、動物の皮膚疾患の治療には薬用シャンプーをよく用います。それは、皮膚の性質や毛があるために、広範囲に皮膚疾患がある場合、外用薬(塗り薬)よりも効果的で費用対効果が高く、薬を舐めてしまうことも防げるためです。そのため、皮膚疾患のある場合はトリミングサロンを併設した動物病院を受診すると良いでしょう。

※当院でイトラベット®錠を処方された方はこちらもお読みください。
※当院ではマラセチア皮膚炎の治療に必要に応じて海外から輸入した国内未発売の薬剤(ケトコナゾール)を用いることがありますので、ご了承ください。ケトコナゾールを処方された場合、このお薬は空腹時は吸収が悪いので、必ず食事と一緒に与えてください。

発マラセチア皮膚炎の予防

 もともとマラセチアは常在菌ですから、根本的な予防はなかなか難しと思われます。ただ、アトピー性皮膚炎食物アレルギー膿皮症などがあると症状が増悪する可能性があるので、きちんとした食事や皮膚のケアー、定期的なシャンプーやトリミングは予防に役立つかも知れません。

マラセチア皮膚炎の看護/その他

 マラセチア性皮膚炎は治療を行うと症状が軽減しますが、中止すると再発してしまう場合や慢性化することがあります。再発、慢性の場合は根気強い治療が必要です。
 最近では抗真菌剤耐性マラセチアも見られるようになってきているため、再発や難治性の場合は詳しい検査が必要です。

定期的なシャンプーは非常に効果的ですが、シャンプー剤の選択と間隔が重要になります。ご自宅でシャンプーされる場合は動物病院で処方される薬用シャンプーを用い、トリミングに出す場合はそのシャンプーを持参して洗ってもらうとよいでしょう。

※当院併設のトリミングショップBOW-MEOWでも薬用シャンプーをお受けしておりますが、当然、店内感染防止のため、混合ワクチン接種などの条件があります。詳しくはこちらをご参照ください。

自宅でのシャンプーポイント!(※動物病院で処方されるきちんとした薬用シャンプーを用いましょう)

  1. まず、地肌を濡らします。30〜35℃程度のぬるま湯で、シャワーヘッドはできるだけ地肌に近づけ、頭から遠い部分からかけ始めましょう。
  2. シャンプー剤は直接皮膚につけづ、まず別容器にスポンジなどでよく泡立ててから全身に塗り込むように使用しましょう。泡で洗うイメージが大事です。
  3. 泡を全身に塗布したら乾かないように、濡れたタオルでくるみ、最低5分、できれば10分間はそのままにして薬用シャンプーの効果が出るのを待ちます。
  4. その後、人肌以下のぬるま湯(32〜33℃程度)でよく洗い流してください。特に指の間などにシャンプーが残らないように1本1本丁寧にすすぎましょう。
  5. 吸水性の高いスポンジタオルなどで十分に水分を拭き取ってください。
    ※コットタオルにアレルギーのある子もいるので注意してください。
  6. ドライヤーで乾かす場合は、温風を使用しないで、冷風を使い風乾することを心がけましょう。温度調節ができる場合はできるだけ低めの温度で風乾しよう。皮膚が乾燥したり、温度が上がると痒みが増します。

シャンプー以外でできること

  1. 定期的なトリミング
    定期的にプロのトリマーさんにトリミングしてもらい、被毛は適当な長さに保ちましょう。皮膚病があるときには特に動物病院併設のトリミングサロンが有効です。
  2. 日常的にブラッシング
    抜け毛や下毛はブラッシングにより早めに取り除きましょう。
  3. こすれる箇所は清潔に
    顔のシワの間、首の付根、脇の下、足先、しっぽの付け根、内股などこすれる部分は特に皮膚病が起こりやすいので、清潔にしましょう。
  4. 定期的な耳のお手入れ
    皮膚病がある動物は外耳炎にもなりやすい傾向があります。定期的にきちんと手入れしましょう。外耳炎は特に予防と早期の治療が重要です。
  5. 保湿ケアーで肌の水分をキープ
    皮膚バリアを整えて、肌の乾燥を防ぎ、肌の水分をキープすることが皮膚病には重要です。動物病院で処方される保湿剤などを用いましょう。

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参考文献・資料等
  1. Biology, diagnosis and treatment of Malasseziadermatitis in dogs and cats
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.1; 68-72:犬と猫のマラセチア感染症の治療
  3. 伴侶動物治療指針 Vol.6; 68-72:犬のMalassezia pachydermatisに対する抗真菌治療
  4. 犬の内科診療 Part1; 390-392:マラセチア皮膚炎(脂漏性皮膚炎)
  5. Update Review on Malassezia Pachydermatis and Malassezia Dermatitis in Dogs
  6. Topical vs. systemic treatment of Malassezia dermatitis in dogs
  7. 新伴侶動物治療指針 Vol.1; 219-223:犬のマラセチア皮膚炎〜WAVD コンセンサスガイドラインに基づいた治療〜


<1>エクアドルのキトで飼育されているアトピー性皮膚炎をもつ犬におけるマラセチア属菌の存在の関連性について
<2>細菌および酵母による皮膚感染症に対する局所療法の再評価
<3>エビデンスに基づいた獣医皮膚病学: 犬のマラセチア性皮膚炎に対する治療介入に関する系統的な再評価
<4>犬のマラセチア治療におけるセファレキシン併用テルビナフィンとケトコナゾール経口投与の臨床的有効性の比較
<5>アレルギー猫におけるマラセチア属の過剰増殖
<6>マラセチアの治療における抗真菌薬と抗真菌薬・抗生物質・コルチコステロイド合剤との比較
<7>製品化されているマラセチア抗原に対するI型過敏症反応の液性測定
<8>犬のマラセチア性皮膚炎治療にテルビナフィンおよびケトコナゾールをセファレキシンと併用し経口投与した場合の臨床的効果の比較-予備研究
<9>マラセチア微生物の生物学と免疫反応および皮膚疾患の誘導能力
<10>バセットハウンドの皮膚マラセチア菌数に対する経口のケトコナゾールとテルビナフィンの抑制効果の比較
<11>Malassezia pachydermatis性皮膚炎に罹患したアトピー犬から採取した血清のマラセチアに対する即時型過敏症の受身伝達に関する評価
<12>健常なバセットハウンドおよびマラセチア皮膚炎をもつバセットハウンドにおけるMalassezia pachydermatisに対する皮内テストの反応性
<13>4種類の酸性化スプレー、酢、水、が犬の皮膚pHに与える影響
<14>バセットハウンドの皮膚上のマラセチア酵母を定量し分布を評価するためのサンプリング法2種類の比較
<15>猫免疫不全ウィルスあるいは猫白血病ウィルスに罹患した猫の皮膚および粘膜表面の真菌叢
<16>回顧的研究: 猫の皮膚生検によるマラセチアの常在度 臨床病理学的研究
<17>アトピー性皮膚炎およびマラセチアの過剰増殖を伴う犬におけるMalassezia pachydermatisの主要抗原の同定
<18>皮膚用抗真菌薬:アゾール系およびアリルアミン系抗真菌薬
<19>アトピー性皮膚炎のMalassezia Yeastsに対する血清抗体

[WR21,VQ21:]

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この記事を書いた人

福山達也