レプトスピラ症

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レプトスピラ症とは?

平成16〜25年 犬レプトスピラ国内届出状況
平成16〜25年 犬レプトスピラ国内届出状況

レプトスピラ症とは病原性レプトスピラによって引き起こされる人と動物の共通感染症(ズーノーシス:Zoonosis)です。全世界でみられ、日本ではワイル病や秋疫(あきやみ)、イヌ型レプトスピラと称されることもありますが、これらを含めレプトスピラによって引き起こされる感染症はレプトスピラ症と総称されます。ワイル病とうい名前は、1886年にドイツの医学者アドルフ・ヴァイル(Adolf Weil)により初めて報告されたことによるものです。

レプトスピラ菌は野ねずみやウシ、豚、タヌキ、キツネ、イヌなどの感染動物の尿中に排泄され、多くの哺乳動物に感染します。日本でも1970年代前半までは年間50名以上の人の死亡例が報告されていました。近年では衛生環境の向上で著しく減少しましたが、現在でも散発的な発生は認められ、完全室内犬でも発生が増加しており注意が必要です。ちなみに人から人への感染は起こらないとされています。

レプトスピラ症の原因

レプトスピラ菌が原因です。日本では、血清型Leptospira icterohaemorrhagiae、L.copenhageni、L.canicola、L.hebdomadis、L.autumnalis、L.javanica、L.australis、L.pyorogenesが病原性レプトスピラとして知られています。保菌している動物(主に野ネズミ)の尿中に菌が排出され、その菌に汚染された水を飲んだり、体の粘膜や皮膚や傷口から菌が入りこむことで感染(経皮感染)します。川遊びや農作業中に汚染した水から感染することが多いようです。

レプトスピラ症の症状

ネズミはレプトスピラを保菌していても無症状です。犬は症状により不顕性型・出血型・黄疸型に分類されます。
不顕性型は、感染したレプトスピラに対して体内に抗体ができ、症状が出ることなく自然治癒してしまいます。しかし、他の犬や人への感染源となるため注意が必要です。
出血型は、主にL.カニコーラの感染によって起こります。犬では1〜2日間の発熱元気消失、激しい嘔吐と吐血、血の混じった下痢などが見られ、死亡率は高いとされています。
黄疸型は、主にL.イクテロヘモラージの感染によって起こります。犬では元気消失食欲不振嘔吐下痢などが見られ、特徴としては黄疸や血色素尿が見られます。こちらも、死亡率は高い感染症です。

レプトスピラ症の診断/検査

症状やワクチン歴、流行地域であるかどうかなどで推定します。確定診断には外部検査機関に依頼して、病原体の培養、血清診断法、遺伝子検査などを行います。

レプトスピラ症の治療

この病気は人と動物の共通感染症(ズーノーシス:Zoonosis)でもあるので、疑った時点で抗生剤(ペニシリン系やストレプトマイシン、ドキシサイクリンなど)の投与を行います。
また、輸液などの対症療法を行います。

レプトスピラ症の予防

犬(及び人)に対しては、ワクチン接種が予防として有効です。ただし、レプロスピラには多くの型があります。ですから予防注射をしていても違う型に感染することはありますので、どのような型が予防されているか知っておくことは重要です。
感染の疑いのある血液や尿に直接触れないようにすることも大事です。野外で汚染の危険性のある水を飲ませないようにする、そのような水に直接触れさせないよう注意することも必要です。
また、日本国内においては特にイエネズミから犬への感染が問題となっています。報告によると日本のイエネズミの80%がレプトスピラを保有していると言われていまので、完全室内飼育でも安心できません。

レプトスピラ症の看護/その他

レプトスピラ症は届出伝染症に指定されていますので、発生したら獣医師は保健所に届け出る義務があります。以前は、農場や自然豊かな環境で飼育されている犬に感染リスクがあるとされていましたが、最近は完全室内飼育を除いて、全ての犬が該当することになる(散歩をするのであればレプトスピラ症の予防が重要ということである)とする報告もあります[1]
参考までに、人での症状は、発熱、頭痛など、風邪様症状を示すものから、重症になると肝障害、黄疸、腎障害を起こして死亡するものまで様々です。
東南アジア(特にタイ)に旅行される場合は特に7〜10月は川遊びなどは注意が必要です。年間数千人規模の流行がみられます。国内では沖縄県での川遊びでの感染報告が多いので、観光などで溜池、池、川などに行かれる場合は注意が必要です。また、洪水後などに見られることが多いため、洪水が発生した地域でも注意してください。
※なお、当院ではワクチン未接種で、黄疸などの症状からレプトスピラ感染が疑われた場合、スタッフの感染防止のため、診察時必要に応じてマスク、グローブ、ゴーグルなどを着用させて頂く場合がありますのでご了承ください。

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参考文献・資料等
  1. The changing face of canine leptospirosis.
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.8; 36-42:レプトスピラ症の診断と治療
  3. 犬の内科診療 Part2; 176-184:犬レプトスピラ症
  4. 2010 ACVIM Small Animal Consensus Statement on Leptospirosis: Diagnosis, Epidemiology, Treatment, and Prevention
  5. Leptospirosis
  6. Evaluation of adding diltiazem therapy to standard treatment of acute renal failure caused by leptospirosis: 18 dogs (1998–2001)


<1>犬レプトスピラ感染症 - 血清型が異なると考えられるレプトスピラによる臨床症状と転帰(42症例)
<2>レプトスピラ症の犬5頭における腹膜透析による急性腎不全の管理
<3>犬のレプトスピラ症: 血清学的検査と症例検討 1996-2001
<4>犬レプトスピラ症予防における市販ワクチン3種の効果の比較
<5>レプトスピラ症と臨床診断された犬35頭における出血系、止血系、およびトロンボエラストメトリー上の障害:前向き研究
<6>犬における自然発生性レプトスピラ症の臨床病理学的および非定型特徴:51例(2000-2010)
<7>二次診療施設における犬の急性レプトスピラ症の診断に対する血清微小凝集反応試験およびPCR検査の診断的価値に関する評価
<8>北カリフォルニア出身の犬におけるレプトスピラ感染の空間的および時間的なパターン:67例(2001-2010)
<9>レプトスピラ症の犬35頭での腹部超音波検査所見の前向き評価
<10>臨床における病理学 犬のレプトスピラ症
<11>飼い犬におけるワクチン関連性のレプトスピラ抗体
<12>アメリカ合衆国の犬におけるレプトスピラ血清反応陽性の地域的および時間的変異、2000-2010
<13>レプトスピラ症を有する犬における肺の異常
<14>病原性レプトスピラの存在を分子学的に確認した犬の尿サンプルから分離された、レプトスピラDNAの縦列反復配列多型分析
<15>1970年と2009年の間の犬のレプトスピラ症におけるシグナルメントの変化
<16>健康猫と腎疾患の猫におけるレプトスピラ症の血清学的および尿のPCR調査
<17>感染犬と接触した動物病院スタッフと犬の飼い主におけるレプトスピラ血清型への暴露に関する評価
<18>マサチューセッツ州ウスター郡で自由彷徨している猫のレプトスピラ抗体の保有率
<19>健康な飼い犬における最近のレプトスピラワクチンの全血リアルタイムPCR法への影響
<20>全米の犬における顕微鏡検査での凝集試験によるレプトスピラ菌の血清型に対する抗体の検出、2000-2007年
<21>急性腎不全の犬猫における腎周囲滲出液
<22>臨床的レプトスピラ症とレプトスピラ症に対するワクチン接種を受けた犬における顕微鏡下凝集検査の結果に見られる変動性
<23>犬のLeptospira interrogans Australis血清型感染症における臨床病理学的特徴および転帰予測:20症例の回顧的研究(2001-2004)
<24>合衆国の獣医師において、レプトスピラ菌の血清型に対する血清抗体の保有率と危険因子
<25>ACVIM小動物のレプトスピラ症に関する合意声明:診断、疫学、治療および予防
<26>健康犬における6種のレプトスピラ血清型に対する血清抗体の保有率
<27>犬のレプトスピラ症の臨床的特徴に、感染している血清学的グループが与える影響
<28>急性腎不全の原因
<29>市販されているLeptospira interrogans serovar pomonaおよびL.kirschneri serovar grippotyphosaに対するワクチンを接種した犬の血清学的反応
<30>犬のレプトスピラ症:治療,予防,および人獣共通感染症
<31>犬のレプトスピラ症の血清型に関連した有病率と危険因子:90例(1997-2002)
<32>犬のレプトスピラ症の環境的危険因子の評価:36症例(1997-2002)
<33>犬のレプトスピラの尿中排泄に関する有病率を評価する際のポリメラーゼ連鎖反応法、細菌培養、および血清学的検査の比較
<34>犬のレプトスピラ症の診断に対するポリメラーゼ連鎖反応法の臨床応用
<35>アメリカ合衆国とカナダにおける犬のレプトスピラ症の罹患率と危険要因:677例(1970-1998)

この記事を書いた人

福山達也