腹部膨満:Abdominal Enlargement

腹部膨満とは?

 腹部膨満とは、お腹が以前より大きく見える、お腹が張っている、腹囲が広がって見える状態を指します。腹部膨満は「腹囲膨満」と呼ばれることもあります。

 単に太ったように見える場合もありますが、腹水、ガス、便秘、腫瘍、臓器の腫大、子宮の病気、妊娠、尿の貯留などが原因となることもあります。数か月かけてゆっくり大きくなる場合もあれば、数時間から数日で急に膨らむ場合もあります。特に急な腹部膨満は、緊急疾患のサインであることがあります。

腹部膨満の原因

 腹部膨満の原因は、大きく分けると、脂肪、液体、腫瘤や臓器腫大、消化管内容物、ガス、腹筋の弱化、妊娠などがあります。

 脂肪によるものでは、肥満、脂肪腫、副腎皮質機能亢進症などが関係します。液体によるものでは、腹水、胸水を伴う心疾患、肝疾患、タンパク漏出性腸症、タンパク漏出性腎症、腫瘍、炎症、感染症、猫伝染性腹膜炎などが原因となることがあります。

 腫瘤や臓器腫大では、肝臓、脾臓、腎臓、子宮、リンパ節、腹腔内腫瘍などが関係します。消化管内容物では、食後、過食、便秘、巨大結腸症、腸閉塞、寄生虫症などが原因になります。ガスによるものでは、胃拡張、胃拡張捻転、腸閉塞、イレウス、消化管穿孔、細菌性腹膜炎などが考えられます。

 未避妊の雌では、妊娠や子宮蓄膿症も重要な原因です。また、腹筋が弱くなる病気では、実際に中身が増えていなくても、お腹が垂れて膨らんで見えることがあります。

腹部膨満の症状

 腹部膨満では、お腹が張る、腹囲が大きくなる、体重が増える、抱き上げるとお腹が重く感じる、横になるのを嫌がる、動きたがらない、食欲が落ちる、元気がないなどがみられます。

 原因によっては、嘔吐、下痢、便秘、排便困難、排尿困難、尿が出ない、多飲多尿、呼吸が苦しそう、パンティング、腹痛、震え、発熱、歯ぐきが白い、ぐったりするなどを伴います。

 特に、急にお腹が膨らんだ、吐こうとしているのに吐けない、強い腹痛がある、呼吸が苦しそう、歯ぐきが白い、立てない、ぐったりしている、尿が出ない場合は、早急な診察が必要です。

腹部膨満の診断/検査

 診断では、まず腹部膨満がいつから始まったか、急に大きくなったのか、徐々に大きくなったのかを確認します。食欲、元気、嘔吐、下痢、便秘、排尿、飲水量、発情や妊娠の可能性、避妊・去勢の有無、服用中の薬、既往歴、外傷の有無なども重要です。

 身体検査では、体重、体格スコア、筋肉量、腹部の張り、痛み、波動感、ガスの有無、臓器や腫瘤の触知、脱水、粘膜の色、心音、呼吸音などを確認します。

 検査としては、血液検査、血液化学検査、尿検査、糞便検査、レントゲン検査、腹部超音波検査を行うことがあります。腹水が疑われる場合には、腹腔穿刺により腹水を採取し、色、性状、タンパク濃度、細胞数、細胞診、細菌培養などを調べることがあります。必要に応じて、心臓超音波検査、胸部画像検査、ホルモン検査、感染症検査、CT検査、組織検査などを行います。

 腹部膨満は原因が非常に幅広いため、見た目だけで判断することはできません。検査によって、脂肪なのか、液体なのか、ガスなのか、腫瘤なのか、臓器の腫大なのかを確認することが大切です。

腹部膨満の治療

 治療は原因によって大きく異なります。

 肥満が原因であれば、食事管理と運動管理による減量を行います。便秘や巨大結腸症では、便を出しやすくする治療、食事管理、脱水補正などを行います。寄生虫症では駆虫薬を使用します。

 腹水が原因の場合は、心疾患、肝疾患、タンパク漏出性疾患、腫瘍、炎症、感染症など、原因疾患に応じた治療が必要です。呼吸が苦しい、腹部の張りが強い、不快感が強い場合には、腹水を抜く処置が必要になることもあります。

 胃拡張捻転、腸閉塞、消化管穿孔、子宮蓄膿症、尿道閉塞、尿路破裂、腹腔内出血などでは、緊急処置や手術が必要になる場合があります。急激な腹部膨満や全身状態の悪化を伴う場合は、様子を見ずに早急に受診してください。

腹部膨満の予防

 腹部膨満のすべてを予防することはできませんが、日頃の管理でリスクを下げたり、早期発見につなげたりすることは可能です。

 体重管理を行い、肥満を防ぐことは重要です。食事量を測って与え、おやつや人の食べ物を与えすぎないようにしましょう。便秘しやすい愛犬・愛猫では、飲水量、運動量、便の状態を日頃から確認してください。

 未避妊の雌では、子宮蓄膿症や予定外の妊娠が腹部膨満の原因になることがあります。避妊手術については、年齢や健康状態を踏まえてご相談ください。子犬・子猫では、寄生虫によってお腹が膨らむことがあるため、糞便検査や適切な駆虫も大切です。

 また、急な嘔吐、吐こうとして吐けない、腹部の急な張り、呼吸の異常、尿が出ないなどは緊急サインです。早めに気づくためにも、普段のお腹の大きさ、体重、食欲、便、尿の状態を観察しておきましょう。

腹部膨満の看護/その他

 ご自宅では、お腹の大きさ、食欲、元気、嘔吐、便の回数と形、尿の量、呼吸の様子、痛みの有無を観察してください。お腹の写真を定期的に撮っておくと、変化の確認に役立つことがあります。

 お腹が張っているときに、強く押したり、自己判断でマッサージをしたり、無理に運動させたりしないでください。腹痛、腸閉塞、腹水、腫瘍、尿路の異常などがある場合、状態を悪化させる可能性があります。

 食欲がない、吐く、便が出ない、尿が出ない、呼吸が苦しそう、急にお腹が大きくなった場合は、自宅で様子を見ずに当院へご相談ください。

 腹部膨満は、肥満のように慢性的なものから、胃拡張捻転や腹腔内出血のような命に関わる緊急疾患まで、幅広い原因で起こります。「太っただけ」と決めつけず、気になる変化があれば早めに診察を受けることが大切です。

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参考文献・資料等
  1. Ettinger’s Textbook of Veterinary Internal Medicine 9ed CHAPTER 21: Abdominal Enlargement [壱岐動物病院訳]


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この記事を書いた人

福山達也