うちの子のフシギ Vol.11:犬はどうして散歩中にあちこち匂いを嗅ぐの?

散歩に出ると、電柱や草むらをクンクン、クンクン。

「さあ歩こう!」と思っている飼い主さんをよそに、
一か所でずっと匂いを嗅いでいて、
なかなか先に進んでくれないこともあります。

でも犬にとって「匂いを嗅ぐ」ことは、
単なる寄り道ではありません。

犬は優れた嗅覚を使って、
私たちとは違う方法で周囲の環境から情報を集めています。

では、散歩中の犬は、
匂いからいったい何を知っているのでしょう?

犬にとって鼻は大切な「情報収集ツール」

私たち人間は、周囲の状況を知るとき、
主に目から多くの情報を得ています。

犬ももちろん目や耳を使いますが、
犬の世界を理解するうえで
嗅覚は非常に重要な感覚です。

犬の鼻には、匂いの分子を感知するための
嗅覚受容体が多数存在し、
脳にも嗅覚情報を処理するための高度な仕組みがあります。

そのため、私たちにはほとんど何も感じられない場所でも、
犬にとってはさまざまな匂いの情報が存在しています。

電柱や草むらには「誰かが来た」という情報がある

犬が散歩中によく匂いを嗅ぐ場所のひとつが、
電柱、植え込み、草むらなどです。

こうした場所には、
他の犬の尿や分泌物などに由来する
化学的な情報が残っていることがあります。

犬はこうした匂いを調べることで、
他の犬がその場所を利用したことなど、
周囲の社会的な情報を得ている

と考えられています。

私たちが散歩中に掲示板や周囲の景色を見るように、
犬は鼻を使って「この場所で何が起きているのか」を
調べている、と考えると分かりやすいかもしれません。

犬は匂いから相手の違いを見分けられる?

犬は匂いを単に「強い・弱い」と感じているだけではありません。

研究からは、犬が匂いを利用して
個体や生物学的な特徴に関する情報を
識別できることが示されています。

例えば犬は、
自分自身の匂いと他の犬の匂いを区別したり、
馴染みのある個体に関連した匂いと
そうでない匂いに異なる反応を示したりします。

つまり犬にとって匂いは、
「何か臭う」というだけではなく、
“誰に関係する匂いなのか”を判断する手がかり
にもなっています。

「いつ来たの?」まで分かるの?

「犬は匂いを嗅ぐだけで、
いつ誰が通ったのか全部分かる」
と説明されることがあります。

しかし、ここは少し慎重に考える必要があります。

匂いは時間の経過とともに拡散・変化するため、
犬が匂いの変化を手がかりとして利用できる可能性はあります。

一方で、散歩中に電柱を嗅いだ犬が
私たちの時計のように
「○時間前にこの犬がここを通った」と理解している、
とまで断定することはできません。

犬の嗅覚は非常に優れていますが、
犬が匂いから得ている情報を
人間の言葉に置き換えすぎないことも大切です。

散歩は「歩く時間」だけではありません

私たちはつい、
「今日は30分歩いた」
「○km歩いた」
というように、
散歩の運動量を距離や時間で考えがちです。

もちろん運動は大切です。

しかし犬にとって散歩は、
運動だけでなく、
周囲を探索し、匂いを嗅ぎ、
さまざまな刺激に触れる時間
でもあります。

つまり、同じ20分の散歩でも、
ひたすら速く歩く散歩と、
ときどき立ち止まって周囲を探索できる散歩では、
犬にとっての経験は同じとは限りません。

クンクンする時間は犬の気分にも関係する?

嗅覚を使った探索が犬の情動状態に
影響する可能性を示した研究もあります。

DurantonとHorowitzは、
家庭犬を対象に、
散歩中に嗅覚を使う機会を増やしたグループと、
ヒールワークを行ったグループを比較しました。

その結果、嗅覚を使う活動を行った犬では、
認知バイアス課題において
より「楽観的」と解釈される反応の変化がみられました。

もちろん、この研究だけで
「匂いを嗅げば必ず犬が幸せになる」
と結論づけることはできません。

それでも、
犬が自分の鼻を使って環境を探索する機会を与えること
が、犬の生活の質を考えるうえで重要であることを示唆する
興味深い研究です。

毎回すべての匂いを好きなだけ嗅がせる必要はありません

では散歩中、
犬が立ち止まったら毎回、
気が済むまで待たなければならないのでしょうか?

もちろん、そういうわけではありません。

道路を横断するとき、
車や自転車が近づいているとき、
危険なものが落ちている場所などでは、
飼い主さんが安全を優先して移動させる必要があります。

また、他の犬の排泄物などを
舐めたり口に入れたりすることは避けましょう。

大切なのは、
「歩く時間」と「自由にクンクンする時間」の
両方を散歩の中に作ること
です。

「今日はクンクン散歩」にしてみても

時間に余裕がある日には、
犬が安全な場所で立ち止まったら、
少し待ってみてください。

いつもの散歩道でも、
犬は昨日とは違う場所を熱心に嗅ぐかもしれません。

「また止まった」と考えるのではなく、
「何か新しい情報を見つけたのかな?」
と犬を観察してみると、
散歩の見え方も少し変わります。

ただし、急に匂いの嗅ぎ方が変わったら

匂いを嗅ぐこと自体は正常な犬の行動です。

ただし、
これまでと比べて突然行動が大きく変化した場合には、
単なる「散歩好き」だけではない可能性もあります。

例えば、

  • 以前より極端に落ち着きがなくなった
  • 同じ場所を長時間、執拗に嗅ぎ続ける
  • 呼びかけへの反応が明らかに変わった
  • 歩き方や姿勢がおかしい
  • 食欲や元気など、ほかにも変化がある

といった場合には、
行動だけで判断せず、
体調全体を確認することも大切です。

まとめ

散歩中、電柱や草むらをクンクンする犬。

私たちには「寄り道」に見えても、
犬にとっては鼻を使って周囲の情報を集める
大切な探索行動です。

散歩は、ただ長い距離を歩けばよいわけではありません。

運動する時間と、
犬が立ち止まって匂いを調べる時間。


その両方を上手に取り入れることで、
散歩は犬にとってもっと豊かな時間になります。

次のお散歩では、
愛犬が夢中になってクンクンしていたら、
少しだけ待ってみませんか?

私たちには見えない「匂いの世界」を、
一生懸命調べているところかもしれません。


参考文献

  1. Duranton C, Horowitz A.
    Let me sniff! Nosework induces positive judgment bias in pet dogs.
    Applied Animal Behaviour Science.
    2019;211:61-66.
    doi:10.1016/j.applanim.2018.12.009.
  2. Horowitz A.
    Smelling themselves: Dogs investigate their own odours longer when modified in an “olfactory mirror” test.
    Behavioural Processes.
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    Behavioural and glucocorticoid responses of dogs to kennelling:
    investigating mitigation of stress by prior habituation.
    Physiology & Behavior.
    2007;92(5):847-854.


※犬の嗅覚行動には大きな個体差があります。
本記事は一般的な行動学的情報を提供するもので、
個々の犬の診断に代わるものではありません。
行動が急に変化した場合や、ほかの体調変化を伴う場合には、
壱岐動物病院へご相談ください。

この記事を書いた人

福山達也