関節炎:Osteoarthritis(猫編)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

関節炎とは?

 関節炎(かんせつえん)とは変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)とも言われ、硬い骨同士が直接擦り合わないように骨と骨の間でクッションの役割になっている関節軟骨の変化により、痛みなどの症状があらわれる進行性の関節疾患で、​​肘、肩、膝、股関節など様々な関節に起こります。12歳以上の猫の90%には何らかの関節疾患がある[3]と報告されています。
 関節炎は主に高齢期に見られる病気ですが、6歳でもすでに約15%に見られたという日本での報告もあります[4]前述のように多くの高齢猫が、変形性関節症を起こしていると考えられていますが、関節炎の痛みにより活動量が落ちていても、高齢のせいだと感じたり、はっきりとした症状が出ないケースもあるため、キャットオーナーが気付かないことも多い病気です。
 最近歳のせいか動きが悪くなった、ジャンプしなくなったと感じる場合、それはもしかしたら歳のせいではなく関節炎で「痛い」ために運動を嫌うようになっている可能性があります。
 また、特に猫は「痛み」を表現する能力が乏しい動物です。キャット・オーナーの気づかないうちに多くの猫が関節炎に苦しんでいると言われます。猫を飼育したら関節炎の正しい知識を学び、早期にこの病気を見つけてあげて、痛みを和らげてあげましょう。

関節炎の原因

 猫の変形性関節症の主な原因は明らかになっていませんが、外傷や加齢、肥満による関節軟骨のすり減りが原因で起こる一次性(原発性または突発性)と、軟骨そのものは正常でも、ほかの病気により続発的に発生する二次性のものがあり、デボン・レックス、シャム、スコティッシュ・フォールドは遺伝的な要因を持っていることがあります。

関節炎の症状

 猫の変形性関節症の主な症状は、疼痛ですが、犬に比べてわかりにくいものです。関節の変形による関節痛や跛行などの歩行異常の症状が出るようになった場合はかなり進行していることもありますので、早めに気づいてあげることが大切です。
 ご家庭では、最近急に動かなくなった、二階に行かなくなった、高いところに登りたがらなくなった、毛づくろいをしなくなった、元気がないといった一見すると関節の痛みとは関係のないような症状でも、よく調べると実は変形性関節症を発症している場合があります。

関節炎の診断/検査

 一般的な身体検査や触診、歩行チェックの他、チェックリスト(家庭ででき、非常に有効[5])、レントゲン検査を行います。全身の状態や他の病気を探すために血液検査血液生化学検査超音波検査、CT検査などが必要になることもあるかもしれません。関節炎の痛みは早期に発見してあげることが重要になります。そのためご家庭でのチェックが有効です。以下に猫の関節炎の痛みチェックリストとチェックの参考になる動画リンクを掲載しておきます。チェックしてみてください。

ー変形性関節炎(OA)6つのチェックリスト:MiPSCー

1.階段を登るとき
□「うさぎ跳び」のように後ろ足で同時に跳ねて登る。途中で休憩してしまう。
2.階段を降りるとき
□体を横向きにして一段ずつ降りる。途中で休憩してしまう。
3.動くものを追いかけるとき
□途中でゆっくりになったり、休憩することが多い。
4.ジャンプするとき
□飛び乗る前にためらう。1回ジャンプで届かず、前足をつけてから後ろ足を引き上げる。
5.飛び降りるとき
□飛び降りる前にためらう。大きくジャンプしない。飛び降りるのではなく地面に足を伸ばして降りる。
6.走るとき
□全体的に動きが遅く、歩くとき早歩きを交互にする。
※どれかに当てはまった場合、関節炎の痛みを抱えている可能性があります[5]。早めに当院にご相談ください。

関節炎の治療

 変形性関節症が股関節形成不全膝蓋骨脱臼、前十字靭帯断裂など他の骨や関節の病気などが原因となって起こっている場合は、その病気の外科的治療などを行いますが、加齢性で起こっている変形性関節症を完治させる治療法はなく、痛みの緩和と関節機能を向上させ、関節の変形の進行を遅らせるために、消炎鎮痛剤の投与やレーザー療法などに主となります。
 また、食事中の成分も、関節炎の進行に影響します。きちんとしたバランスのとれた食事が不可欠で、関節の健康を維持する処方食やサプリメント/オメガ3脂肪酸などを用います。
 2023年、新しく猫の関節炎の痛みを管理するために、月1回の注射で投与するモノクローナル抗体製剤も使えるようになりました。また、まだ治験段階ですが低線量の放射線治療も行われるようになってきなってきています。
 治療は早く始めれば始めるほど有効であることを知っておいてください。

 関節炎の予防

 原因がわからない場合はこれといった予防方法はないのが現状です。しかし、肥満や外傷が原因になる場合は、まず肥満の解消や関節になるべく負荷をかけないよう生活習慣を見直すことも予防になります。肥満にならないように日頃からのこまめな体重管理を心がけましょう。また、その他上記のような症状がみられた場合は、早めに当院にご相談ください。軽度の運動はとても良いことです。適正体重を維持し、関節への過剰な負担を回避することに役立ちます。

関節炎はキャットオーナーが気づきにくい病気のうちの一つです。早く気づいてあげることで快適に一生を過ごせます。以下であてはまることが一つでもあれば当院に早めにご相談ください。
□体重がここ最近増加している
□階段を登るのが困難になった
□起き上がる動作が遅くなった
□激しい運動後に足がおぼつかなくなった
□あまり遊ばなくなった
□横になることが増えた
□関節をなめることがる
□最近関節を怪我したり、手術を受けた
□触ると痛がる

関節炎の看護/その他

 猫は家での症状を病院では見せないことが多くあります。ですから、関節炎かも?と思ったら階段の上り下りやジャンプなどのチェック項目をスマホで撮影して、診察時に見せてもらえると診断の助けになります。

高齢になったら散歩や運動を控えなければとおもっていたら大間違いです。また、関節炎だからと言って散歩が禁止ではありません(未だにこのようなことをいう獣医師もいます)。むしろ消炎鎮痛剤などを使いながら積極的にリハビリ運動を行わなければ歩けなくなってしまいます。まずは高齢になったら、生活環境を整えてあげましょう。室内で飼っている場合、滑りやすいフローリングなどはカーペットやコルク材などを敷いてあげましょう(これは若い頃から)。階段の上り下りも負担になるので、ゲートをつけるなど対策をしましょう。高めの段差にはステップを置いてあげるといいでしょう。

 何度も言いますが、適正体重が関節への負担を軽減します。肥満は厳禁です。特に猫の変形性関節症は明らかな症状が見られないので、肥満によって動かなくなったのか、変形性関節症によって動かなくなったのかの区別が難しいため、きちんと原因を見つけるためにも、体重管理はしっかり行いましょう。そのために、適切な栄養管理と体重維持を心がけましょう。
 処方されたお薬はきっちりと飲ませましょう。関節炎は完治がむずかしい病気で長いお付き合いになります。できるだけ進行を抑えてあげ、愛猫の「痛み」を抑えてあげるためにも、大変ですが毎日根気よくケアしてあげましょう。
 寝起きや散歩前は間接を温めてあげる温熱療法、散歩後は冷やしてあげる冷却療法が効果的です。詳しいリハビリのやり方はCCRPなどの資格を持つ獣医師、愛玩動物看護師、PTなどの指導を受けてから行いましょう。

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参考文献・資料等
  1. 猫の変形性関節症
  2. Herbal Therapies for Osteoarthritis
  3. Radiographic evidence of degenerative joint disease in geriatric cats: 100 cases (1994-1997)
  4. Retrospective Radiographic Study of Degenerative Joint Disease in Cats: Prevalence Based on Orthogonal Radiographs
  5. Development of a checklist for the detection of degenerative joint disease-associated pain in cats


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[WR21,VQ21:]

■VMN Live

この記事を書いた人

福山達也