熱中症(熱射病:Heatstroke)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

熱中症とは?

 熱中症とは日射病や熱射病などの総称で、夏場などの温度や湿度が高い時期(5月から10月)に特に注意をしたい病気です。直射日光や温度や湿度の高い環境下に長時間いたり、そのような環境下で運動を続けることにより体温が上昇します。すると、人間と同じような汗をほとんどかかなので体温調節機能が正常に機能しなくなり、異常に体温が上昇(40.5℃以上)してしまいます。
 実は真夏より、動物の体が暑さに順応する前の初夏、またペットオーナーが油断する初秋にも多いので注意してください。
 特に、シーズー、パグ、フレンチブルドック、ブルドック、ペキニーズなどの短頭種、それに日本の保険会社の統計ではバーニーズ・マウンテンドッグ、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバーも多いとされています。猫ではペルシャやエキゾチック・ショートヘアー、ヒマラヤン、さらに肥満気味の犬猫加齢(高齢、ただし2歳以上はそれ以下より危険率が高いとも報告されています)心臓病呼吸器疾患(喉頭麻痺、気管虚脱など)の持病が有る場合などに起こりやすいといわれているので注意が必要です[1][3]。但し、どんな犬種、猫種でも起こる可能性はあります。
 猫は犬に比べて熱中症には強いとされていますが、それでも夏場の締め切った室内などでは起こるので注意が必要です。

熱中症の原因

 犬や猫は人に比べ暑さに弱く、熱中症になりやすいといわれています。その原因としては全身が被毛に覆われていて体温が放散しにくいことと、人のように全身から汗をかいて体温を下げることができない(足の裏と鼻には人と同じ様に汗をかく汗腺があります)ので、主に口を開き、浅く速い呼吸をおこなうパンティングと呼ばれる呼吸方法により熱を放散し、体温を調節しています。

 熱中症を引き起こす状況はさまざまありますが、特に、

 

  • 高温多湿の環境で一定時間以上運動をする(特に注意
    ※イギリスでの報告ですが、熱中症の7割以上が暑い日の運動中に起こってます。
  • 暑い車内にいる(特に注意
  • 気温が高く、換気が不十分な環境に長時間いる
  • 高温時に屋外で一定時間直射日光を浴びる
  • 高温多湿な中、キャリーケースの中に長時間いる

熱中症の症状

熱中症の重症度と症状・対処法
 体温が急激に上昇し、激しいパンティング(ハアハアと激しい呼吸をする)や呼吸困難、多量のよだれ、足元のふらつき、虚脱(ぐったりすること)などの初期症状が起こります。

 

 その後、嘔吐下痢(タール便や下血)、チアノーゼ(舌や粘膜が真っ青になる症状)などが起こり、重症になるとけいれん発作や意識の喪失、ARDS(急性呼吸促迫症候群)、DIC(播種性血管内凝固症候群)、ショック症状(血圧低下などの症状)、多臓器不全を起こし死に至る場合があります。タール便や下血、神経症状などが出た場合、そうでない場合に比べて死亡率は3倍になると報告されています。
 また、体温とその重症度にはあまり関係がないという報告があります。ですから熱中症を発症した場合、体温が低めだから軽症で安心、高めだから必ずしも重症とは限らないので注意が必要です。
 こちらも、海外でのデータですが、死亡率(安楽死を含む)は40%以上(40~56%)だとされています。

熱中症の診断/検査

 問診と症状、体温などから推測します。時には他の病気と鑑別するためや全身状態を把握するために血液検査血液化学検査尿検査レントゲン検査超音波検査などが必要になることもあるでしょう。

熱中症の治療

 まず、体温を下げるために、様々な処置を行います。それと共に、点滴やショック症状や脳炎を防ぐための薬剤投与などが必要になるでしょう。重症であれば、入院して集中的に治療を行う必要があります。多くのスタッフの手が必要となり、その他、抗生物質、嘔吐や下痢に対する薬剤など症状や予防的に多くの薬剤の投与が必要になります。

 熱中症は重症になると致死率が高く、特にけいれんや意識障害など神経症状が起こると、回復は非常に厳しいといわれています。また、重症だと集中治療が必要であったりと治療費も非常に高額になりますので、軽症の段階で気づいて一刻も早く対処することが必要です。

 重症度の高い意識の喪失、ARDS(急性呼吸促迫症候群)、DIC(播種性血管内凝固症候群)、ショック症状(血圧低下などの症状)、多臓器不全が見られる場合は回復の可能性は低くなります。この場合、治療も長期、高額となることが予想されますので、どこまでを望むかはきちんと家族や主治医と話し合う必要があります。

熱中症の予防

  • エアコンのない部屋や暑い環境下に長い時間いる状況(留守番時など)にしない。部屋の風通しをよくし、直射日光を避ける。(暑い時期の室内の温度は26℃以下で維持)
  • 外気温が25℃を超える場合、締め切った車などの中に動物だけを残すことは絶対に避ける。
  • 高温や多湿の環境で長時間散歩などの運動をしない。暑い日は散歩をやめるのも必要です
  • 照り返しの強い舗装道路上での散歩をしない。早朝や夕方以降などの涼しい時間帯に散歩をする。(朝夕涼しく感じても、お散歩の際にはアスファルトをさわって温度を確かめる習慣をつけましょう。「5秒ルール」というのがあり、5秒間素手でアスファルトに手を置けないなら、散歩は禁止です)
  • 新鮮な水をいつでも十分に飲めるようにする。 ただの水だけでなく電解質補給のために電解質サポート(当院でも販売しております)などを与える。特に夏場はいざというときのためにこのような電解質補給を常備しておくといいでしょう。
  • 夏場の散歩には以下を携帯することを心がける
    □常温の水
    □タオル
    □うちわ
    ※当院では当院をご利用のペットオーナー様向けに、お散歩用うちわを配布しております。ご希望の方は受付けでお申し出ください。(配布終了しました)
    □冷却グッツ

など、とにかく高温多湿を避けることが予防になります。気温がそこまで上がりきっていない初夏や残暑でも、湿度が高かったりすると熱中症にかかることがあります。また、熱によるダメージは数時間から数日後に現れることもありますので注意してくだざい。

熱中症の看護/その他

 はっきりと言っておきます。夏場は動物たちにとっては涼しい家でゆっくりするのが幸せです。一緒に旅行に行ったり、海水浴やお祭り、花火大会に行ったり、車で移動したりすることは人間の自己満足です。そして、そこには絶えず熱中症の危険があることを認識しておいてください。旅行などは涼しい季節に行きましょう。

 熱中症で体温が高くなっている場合は、まず体を冷やすことが重要です。熱中症に対する治療の遅延は死に繋がります。上記症状のような熱中症が疑われたら、早急な対処(症状出現から90分以内の処置・治療が生死を大きく分け流とされています)が必要です。
・常温の水を直接かける(氷水など冷たすぎるのは禁忌)
・濡らしたタオルで体を覆う
・涼しい場所で風を送ったりする(冷房が可能なら20℃に設定)
・タオルを巻いた保冷剤や氷まくらを首や脇の下、内股などの被毛や皮膚が薄く体温が下がりやすい部分にあてて冷やす
 これらの応急処置を行いながら、すぐに動物病院を受診しましょう。冷やしながら動物病院へ向かうのと冷やさないで向かうのでは死亡率が2倍以上違うことが報告されています。まず第一に冷やしながら動物病院へ向かうことが大事です。
 特に肥満心臓病などの持病がある、高齢で心肺機能が低下している、脱水していると熱中症や再発も起こりやすいので、環境や運動には十分に注意しましょう。「昨年まで大丈夫だったから」という理由により、「今年も熱中症にはならない」と油断することは、非常に危険です。人間のように汗をかかない犬や猫の方が熱中症になりやすいと思っておいてください。そして、何より熱中症にさせないことが重症です。

 

◆英国獣医師会BVAから発信された7 simple steps◆

  1. ペットへ常時給水できる体制を整える必要に応じて、いつでも換気をする意識を持つ

  2. 暑い日は散歩・運動をさせない

  3. 暑い日は日除けでペットを守る

  4. 熱中症の兆候を覚えて、ペットを良く観察する

  5. 車内に動物を残して離れない(時間の長さではない)

  6. ペットを冷却しても反応が鈍い時は躊躇無く動物病院へ向かう
    ※40℃以上の高熱、意識の低下、自分で飲水できない、のうち一つでも当てはまるなら!

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参考文献・資料等
  1. Incidence and risk factors for heat-related illness (heatstroke) in UK dogs under primary veterinary care in 2016
  2. 犬の内科診療 Part1; 483-488:熱中症
  3. Heatstroke in Dogs
  4. Heatstroke in Dogs
  5. Proposing the VetCompass clinical grading tool for heat-related illness in dogs
  6. 伴侶動物治療指針Vol.12;398-410:犬の熱中症の診断と治療
  7. 犬と猫のエマージェンシー対応;210-219:熱中症
  8. 犬と猫の救急診療;75-78:熱中症


<1>熱中症に続発した壊死性肺炎が原因で気胸を発症した犬の1例
<2>熱中症:体温調節、病態生理、そして素因
<3>熱中症:臨床徴候、診断、治療、そして予後
<4>犬の熱中症の予後指標としての末梢血有核赤血球
<5>犬の熱中症:54症例(1999-2004)の回顧的研究と死亡に対する危険因子の分析
<6>犬の熱射病:臨床症状、治療、予後および予防
<7>犬の熱射病:病態生理学および素因

[WR2106,VQ2106:熱中症]・

この記事を書いた人

福山達也