膵炎(猫編)

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膵炎とは?

 膵炎(すいえん)とは、膵臓に炎症が起こる病気のことで、大きく分けて「急性膵炎」と「慢性膵炎」があります。以前は猫では稀な病気と考えられていましたが、実は近年、多くの猫がこの病気にかかってることが分かってきました。特に在来短毛種、シャム猫は膵炎が多いようです。
 膵臓では、非常に強力な消化酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなど)が作られています。これらの消化酵素は通常、膵臓を傷つけないよう十二指腸へ運ばれてから活性化します。しかし、なんらかの原因で消化酵素が膵臓内で突然活性化することで、自分で自分の膵臓を消化してしまい、傷つけてしまうことで「急性膵炎(きゅうせいすいえん)」が起こります。症状が重いものでは命に関わることのある病気です。
 「慢性膵炎(まんせいすいえん)」は、少しずつ膵臓に炎症が起こる病気で、急性膵炎から波及すると考えられています(猫の膵炎の約90%は慢性膵炎と報告されています)。猫では犬と違い、急性膵炎よりも慢性膵炎が多いと言われていて、慢性膵炎は、肝臓疾患、胆管炎、胆管閉塞、肝リピドーシスなどとも関連していることがありまずが、お互いの病気がどのように作用しているのかはよくわかっていません。
 また、猫では糖尿病の一つの原因として膵炎があると考えられています<6>

膵炎の原因

 膵炎の原因は諸説あって、詳細はわかっていませんが、遺伝的背景、ストレス、感染(猫伝染性腹膜炎(FIP)猫ウイルス性鼻気管炎、パルボウイルスなどのウイルス感染症やトキソプラズマ症<12>などの様々な感染症)、免疫介在性、全身麻酔に伴う低血圧、外傷などいくつかのリスク因子の存在は言われていますが、詳細はよく分かっていません。報告では95%以上は原因不明の特発性とされています。

膵炎の症状

 膵炎には急性膵炎と慢性膵炎がありますが、どちらも特異的(特徴的)な症状が見られず、他の胃腸疾患とあまり変わらないため、発見しにくい傾向にあります。
 急性膵炎の場合、突然の元気消失食欲不振嘔吐下痢、体重減少、腹部不快感、腹痛、脱水、黄疸発熱、低体温、震えなど見られます。重症になると、多臓器不全やショックなどを起こし、死亡するリスクが高くなります。
 慢性膵炎は急性膵炎とは異なり、初期段階では嘔吐や下痢の症状も少なく、食欲不振くらいで、はっきりした症状を確認できない場合もあり、ほかの消化器症状と区別できないことがあります。症状が進行してくると、食欲減退、体重減少などの症状がみられます。膵臓はインスリンを分泌する臓器ですので、そこに障害がでると糖尿病などの病気を併発し、重症化することもあります。また、慢性膵炎でも急性期には急性膵炎と似た症状がみられます。

膵炎の診断/検査

 問診、身体検査を行い、血液検査血液化学検査尿検査が必要となります。その他、特殊検査としてfPLI(猫膵リパーゼ免疫活性)やfTLI(猫トリプシン様免疫活性:あまり感度が良くない)、SAAの測定は猫の膵炎の診断のために行うことがります<5><11><13>
 また、レントゲン検査超音波検査<9>などの画像診断を行ったり、確定診断には組織生検査による病理組織検査が必要になりますが、麻酔や侵襲性の高さからあまり行われません。

膵炎の治療

 急性膵炎では早期治療が非常に重要であり、まず必要なのは、入院して輸液(水分や電解質などの投与)を行うことです。それに加え、急性膵炎、慢性膵炎ともに、鎮痛剤、吐き気止めなども使用されます。また、タンパク分解酵素阻害薬で膵臓の酵素の働きを抑制したり、抗炎症剤や抗菌剤の投与などを行います。もちろん原因となっている病気や併発している病気があれば、それらの治療も行います。ただし、猫の膵炎に関しては、今の所決定的な治療法がまだありません。
 猫の膵炎の場合、よく「絶食」と書いてあるページを見かけますが、猫は「絶食」してはいけません。長く食餌が取れないと肝リピドーシスという肝臓の病気を起こすことがあるため、できるだけ速やかに早い段階から栄養剤を経口投与する必要があります。しかし、嘔吐がひどかったり、食欲不振で食べてくれないことが多いので、そのような場合は、経鼻チューブ(鼻から細いカテーテルを食道まで通し、そこから栄養剤を補給する方法)、食道チューブ、胃瘻チューブなどを設置して、流動食などを流し込むこともあります。また、費用的や施設的に可能であれば、非経口的栄養法を利用することもあります。
 急性膵炎の場合、数日程度で回復するものから、致死的な状態に至るものまでその予後はさまざまなです。

膵炎の予防

 日頃から、きちんとしたワクチン接種、適切な食餌と運動をさせることを心がけ、特に、肥満のシニア猫に慢性膵炎が多く見られるため、中高齢の猫の場合、定期健診を受診し検査するようにしましょう。

膵炎の看護/その他

 猫の膵炎の診断は非常に難しく、様々な検査などにより診断されます。なんとなく元気がない(元気消失)、食欲不振嘔吐するなどの場合は様子を見ないで、速やかに当院を受診してください。
 猫では、慢性膵炎のほうが多くみられ、猫の糖尿病の原因の一つにもなります。また、胆管炎と慢性腸症を併発した三臓器炎となっていることも少なくありません。

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参考文献・資料等
  1. 猫の臨床指針Part2; 148-152
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.1; 158-165:膵炎の治療
  3. 伴侶動物治療指針 Vol10; 122-133:犬および猫の膵炎
  4. Spec fPLTM:猫の膵炎の診断方法
  5. ACVIM consensus statement on pancreatitis in cats
  6. 犬と猫の日常診療のための抗菌薬治療ハンドブック;107-117:消化器及び腹腔内の感染症
  7. 新伴侶動物治療指針 Vol.1; 130-137:猫の膵炎〜ACVIM コンセンサスステートメントに準じた診断と治療〜


<1>急性膵炎の犬および猫における栄養管理
<2>犬24頭および猫19頭における膵臓の外科的生検: 術後合併症および組織学的所見に関する臨床的関連性
<3>猫における膵炎および三重炎: 原因および治療
<4>犬と猫の膵炎: 定義および病態生理学
<5>犬および猫における膵炎の診断
<6>真性糖尿病および膵炎-原因か結果か?
<7>胆管炎および膵炎が存在する猫の磁気共鳴(MR)映像法およびMR胆管膵管造影検査所見
<8>猫の孤立性腹腔脂肪組織の炎症および壊死
<9>超音波画像診断検査による正常および異常な膵臓の評価
<10>猫の膵炎に対して内視鏡下で胃空腸吻合チューブを設置した治療成功例
<11>猫の膵炎: 困難な疾患の診断と管理
<12>猫の急性原発性トキソプラズマ性膵炎
<13>急性膵炎の診断的アプローチ
<14>膵臓の組織学検査の標準化された評価法を用いた猫60頭における血清Spec fPL(™)と1,2-o-ジラウリル・ラック・グリセロ-3-グルタル酸(6’メチルレソルフィン)エステル分析法の比較
<15>高所落下症候群により受傷した猫における血清猫膵特異的リパーゼ免疫活性濃度および腹部超音波検査所見
<16>診断時に臨床的意義のある膵炎を伴わない糖尿病の猫における血清膵酵素および超音波所見に関する縦断的評価
<17>膵炎が疑われる猫における血清リパーゼの確認のための血清Spec fPLTMと1,2-O-ジラウリル-ラック-グリセロ-3-グルタル酸-(6′-メチルレゾルフィン)エステル・リパーゼ測定の一致
<18>血清膵リパーゼ免疫反応性が上昇している猫の膵臓の超音波検査所見
<19>犬猫における膵臓疾患の腹腔鏡診断
<20>犬猫での非経口栄養補給中における有害転帰に関連した要素
<21>犬および猫の慢性膵炎
<22>加齢に関連した正常な猫の膵臓の超音波検査所見の変化
<23>犬猫の膵炎
<24>膵炎後の膵臓腫瘤:膵臓の偽性嚢胞、壊死、および膿瘍
<25>猫の膵炎の診断としての従来の検査に対するヘリカル・CTと血清猫膵リパーゼ免疫活性の評価
<26>CTと放射性同位元素標識された白血球を使用した猫の膵臓の評価
<27>猫の急性壊死性膵炎と慢性非化膿性膵炎の臨床上の鑑別:63例(1996-2001)
<28>臨床的、肉眼病理学的、および組織学的に急性膵壊死の根拠がある猫の超音波検査所見:20症例(1994-2001)
<29>犬猫における部分的非経口的栄養法の回顧的評価

この記事を書いた人

福山達也