食欲不振

食欲不振の治療

 治療は原因により様々です。病気が原因であればその病気を取り除きます。また、対症療法的に食欲増進剤や精神的な問題に対して抗うつ剤などを用いることもあります。動物病院には高カロリーのペースト状の栄養剤(犬:ニュートリカルなど、猫:フェロビタIIなど)、流動食(ロイヤルカナン クリティカル リキッドなど)、専用チュール剤など補助的に用いることができる栄養剤などがありますので、それらは助けになるでしょう。これらは当院でも販売しておりますので、詳しくは当院にご相談ください。

 また、強制給餌という方法が必要なこともあります。これには、注射器などで流動食を口から入れる簡単なもの(猫ではあまり推奨されません)から、鼻から食道にチューブを入れたり、口から胃にチューブを入れたり、食道に穴をあけてチューブを入れたり、皮膚から胃に穴を開けてチューブを入れたりするなど様々な方法があります。もしも、3日間完全に食べないとか3〜5日間カロリー摂取量が不足している場合は、積極的に行うことが推奨されます。

 食欲は非常に重要です。あまり食欲不振や廃絶が続く様なら、積極的により詳しい検査や点滴(輸液)などが必要です。ご希望の方はお申し出ください。

※なお、当院では必要に応じて、許可を得て海外から輸入した錠剤や液体、塗り薬などの食欲増進剤を用いることがありますので、ご了承下さい。

食欲不振の予防

 食欲不振に対する予防というのはなかなか難しいかもしれませんが、早期に発見することが大事です。日頃から食餌の量をきちんと計量して一定にすることで変化に早めに気づくことができます。次に、もしも食欲不振が見られ、他に症状がみられない場合には、24時間様子を見て、食欲がもどらなければ当院にご相談頂くか、獣医師の診察を受けるべきです。特に猫は1日まったく食欲がなければそれは確実に異常だということを覚えておいて下さい。もちろん、他に症状がある、まったく食べない(食欲廃絶)、水も飲まないという場合は、24時間待たずに動物病院に行くべきです。

 また完全に食欲はなくなっていないが,食欲不振(低下)が72時間以上続くならば必ず動物病院を受診してください。

 特に太った猫の場合、食餌をしなくてもいい時間は36時間までということをしっかり覚えておいてください。これを過ぎると、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝が急激に起こって、非常に危険になります。これは人間や犬とは違います。

食欲不振の看護/その他

 食欲不振が起こった場合、まずご家庭での対処例として以下のようなものがあります。試してみて下さい。
・静かな環境で与える!
 特に猫は、大きな物音がすると落ち着いて食べれません。
・きれいで平らな食器で与える!
 特に猫はできれば縁のない平たいお皿などで与える。
・食器の素材や位置を変えてみる!
 食器の素材を変えてみたり、食器と水入れの位置を離してみたりすると食べることがあります(特に猫は日頃から食器と水入れは離しておくべきです)。また、体のサイズに合わせて食器の高さを変えると食べやすくなることがあります。
 ちなみに一般的に動物が好む食器は
 陶器 > ガラス > プラスチック > ステンレス
・流動食を流用する!
 水分は摂るけれども固形食を受け付けない場合や、口の痛みがあって食べづらい場合などは、液体状や粉状の物を水で溶かして与えるタイプの流動食を利用するのも一つの方法です。また最初から液体状になっている栄養剤(ロイヤルカナン クリティカル リキッドなど)はおすすめです。自分から飲まない場合には、シリンジ(針のないない注射器)などで口に入れてあげて飲ませることもできますし、ペースト状なら口に塗ることもできます。ただし、液体の栄養剤は嘔吐がない場合に限ります。
当院にはペースト状の栄養剤や液体の流動食なども販売しております。ご相談下さい。
・小量のおいしそうなものを頻回に分けて与える!
 少しづつ食べたら与えるを心がけましょう。
・よい臭いのするものを与える!
・懐石料理のように多種類のフードを少しずつ並べて与える!
 少しづつ沢山の種類を並べると好みのものを食べる可能性があります。
・ふりかけやトッピングなど副食を加える!
 犬であれば仔犬用ミルク、ゆでて細かくしたキャベツ、カボチャ、ササミ、豆腐など、猫であればカツオブシや猫缶など、好みの食材を少量トッピングしてみてもよいでしょう。腎臓に負担をかける塩分とタンパク質の摂り過ぎに注意し、トッピングする食材や量については、相談して下さい。また、高栄養の療法食の缶詰や栄養補給用のペースト状のサプリメントなどを利用すると、少量で栄養を補給することができます。これらは食欲が落ちてしまった時でも食べられるように嗜好性が高く作られていますので、療法食にトッピングすることで食べてくれる可能性が高くなります。
・冷たくなく熱くないもの(人肌程度に温かいのがよい)を与える!
ウエットタイプのフードはレンジで少し温めて(37-38°C程度)みたり、ドライフードの場合にはドライヤーなどで温めてみたりすると、匂いが立ち風味が増します。
・ドライフードはふやかして与える!
 ドライフードは約60°Cのお湯でふやかして水分量を多くして、食感を変えて与えると嗜好性が高まり食べることがあります。
 ※夏場は腐敗を避けるために長時間の放置はせず、食べなければすぐに片付けましょう。試しに最初は少量与えてみるのがいいでしょう。
・あやしながら与える。
・食べない場合は10分以内に片づける。
・食欲増進剤を用いる!
 嘔吐がないようであれば、食欲増進効果のある薬を一時的に利用して、食欲を出させる方法もあります。ご相談下さい。

何も食べないよりは、とにかく何でもよいので、食べた方がよい
食欲不振で食べない状態が続くと、体力が落ちて衰弱してしまうだけでなく、生命を維持するために肝臓や腎臓などに負担をかけるという悪循環に陥ります。とにかく何でも食べられる物を与えてみましょう。自分から「食べたい」という気持ちにさせることも大切です。塩分の多いもの (ソーセージなど)やタンパク質の多いもの(お肉やお刺身など)は食欲が落ちた時でも好んで食べてくれることが多い食材ですが、腎臓には負担になります。ある程度食べられそうなことが確認できたら、それらの食材をフードに混ぜ、徐々に少なくして、できるだけ早く療法食など負担をかけにくい食事に移行していくことも大事です。

強制給餌(きょうせいきゅうじ)/経管栄養(けいかんえいよう)
どうしても食餌を受け付けない場合には、強制的に食事を与えること(強制給餌)や、鼻チューブ、経食道チューブ、胃瘻(いろう)チューブなどを利用して経管栄養を与える方法もあります。

強制給餌はウェットフードを指につけて上あごに付けたり、流動食や軟らかくしたウェットフードをシリンジ などで口の中に入れる方法です。比較的手軽にできますが、「食べたくない時に強制的に食事を口の中に入れられる」ということが、ストレスになってしまう可能性があります。

鼻チューブ、経食道チューブ、胃瘻チューブなどを利用した経管栄養は、そのようなストレスを最小限に抑えることができ、腎臓病用の流動食や水分、薬などを効率的に与えることができます。一方で、経食道チューブ、胃瘻チューブの装着には鎮静や麻酔処置が必要となり、状態によってはリスクを伴うことになります。

 日々診察していて感じるのは「対処が遅い」ということです。食欲は最もペットオーナーの皆さんが気づきやすい症状の一つです。症状が他になくても、猫は24時間(1日)、犬は72時間(3日)食欲不振が続くようならどこかに異常がある可能性があります。ましてやそれ以上食欲不振が続くようであれば確実に状況は悪くなってきています。手遅れになる前に当院にご相談ください。当院にはご家庭でご利用可能な栄養剤や流動食などもあります。

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参考文献・資料等
  1. 伴侶動物治療指針 Vol.8; 337-341:食欲刺激剤の獣医療での応用
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.10; 363-373:元気・食欲がない症例への対応
  3. Appetite-stimulating effect of gabapentin vs mirtazapine in healthy cats post-ovariectomy
  4. 犬や猫ががんになったときの栄養管理法
  5. Mirtazapine in Cats: Dosage, Side Effects, and Efficacy
  6. 犬と猫の初期診療アプローチ;28-34:元気・食欲がないんです その1
  7. Recognizing, describing, and managing reduced food intake in dogs and cats
  8. Ettinger’s Textbook of Veterinary Internal Medicine 9ed Chapter 17: Anorexia


<1>.猫の食道切開チューブの新しい挿入方法について
<2>.栄養学的プラン: 病気に合わせた食事

この記事を書いた人

福山達也