トキソプラズマ症

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トキソプラズマ症とは?

 トキソプラズマは、原虫と呼ばれる顕微鏡でみなければみえないような小さな寄生生物で、世界中の猫(ネコ科動物)、豚、犬、鳥類などに感染がみられます。この原虫は人間にも感染し、人と動物の共通感染症(ズーノーシス)ですので、注意が必要です。しかしながら、大部分は症状が出ない不顕性(ふけんせい)感染であり、日本人では成人の20〜30%がすでにトキソプラズマに対する抗体を持っていることが知られています。

 妊娠初期の女性がトキソプラズマ症に初感染すると胎児にも感染し、流産や死産などの原因にもなる可能性があるので注意が必要です。

トキソプラズマ症の原因

 トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)の感染が原因です。この原虫は世界中に存在し、犬、猫、兎、フェレットなどさまざまな哺乳類や鳥類に感染します。
 感染している豚、羊の生肉や感染している猫などの糞を経口的に摂取することで感染します。粘膜や傷口から体内に入り込んでも感染してしまいますが、もっとも頻度が高いのは口からの経口感染です。
 また、屋外に出て、ネズミや小鳥を捕食する機会があったり、土や水などに触れる機会があったりすると、感染機会が増えることがあります。
 犬の感染の可能性としては、豚などの生肉を食べたり、猫の便を食べたなどが考えられます。

トキソプラズマ症の症状

 普通、成猫が感染すると症状が出ることはほとんどありません。子猫や老齢猫などで免疫が低下している時に感染すると重症化することがあり、食欲不振嘔吐下痢などの消化器症状、発熱、筋肉の脱力、発咳、呼吸困難などがみられます。激しい症状が現れる重症例では、死に至ることもありますので、注意が必要です。
 人間では、免疫に異常がなければ、感染しても一般的には無症状で、時にリンパ節が腫れたり、インフルエンザのような症状が出るにとどまります。しかし免疫機能の低下している場合はより重い症状が現れることがあります。
 また、妊娠初期にトキソプラズマに初めて感染すると胎盤を通して胎児に感染し、流産や死産を起こしたり、生まれた子が先天性トキソプラズマ症(「脈絡網膜炎」と呼ばれる失明に至る眼の炎症、肝障害、黄疸、けいれん発作、発育不良、水頭症など)になったりすることがあります。すでに感染している女性が妊娠した場合は、免疫ができているため胎児に先天性感染を起す危険はまずないといわれています。

トキソプラズマ症の診断/検査

 問診、身体検査のほか、症状や必要に応じて、血液検査血液化学検査糞便検査、眼科検査、神経学的検査などを行います。
 また、感染しているかどうかの抗体検査が可能です。人間の場合(特に妊婦さんやこれから妊娠を考えている方)は人間の病院で相談してください。この検査は複数回検査を行う必要があります。
 糞便検査でも見つかることがありますが、それは猫が感染した初期のごく僅かな期間のみなので、糞便検査で見つけることは現実的ではありません。

トキソプラズマ症の治療

 トキソプラズマに対する薬物(合成抗菌剤など)で治療します。但し、全身性に症状が出て、重篤なものでは治療不可能なこともあるので注意が必要です。

トキソプラズマ症の予防

 予防は、まず生肉は食べない、食べさせないようにし、肉は十分に加熱調理したものだけを食べる、食べさせるようにしましょう。
 猫は室内飼育し、他の猫との接触を避けることは現実的な予防法だと思います。
 トキソプラズマ抗体検査が陰性の妊婦さんや免疫不全の状態にある方は特に猫のトイレの掃除に注意し、他の家族にお願いしたり、掃除をする際には手袋を着用したりし、速やか(24時間以内)に便は片づけるようにするなどの注意が必要です。
 屋外では、地域猫がよく糞をする砂地の場所(公園の砂場など)への出入りは避け、土などを触るときは手袋をする、その後よく手を洗うなどを行いましょう。
 また日頃からも動物にキスをしたり、口移しで食事を与えないようにしましょう。
 猫は猫白血病(FeLV)猫免疫不全症候群(猫エイズ)に感染しているとトキソプラズマを発症しやすいとされますので、これらの予防に努めましょう。

トキソプラズマ症の看護/その他

 食器類や猫のトイレのは熱湯消毒(60℃30分、80℃1分、100℃数秒)しましょう。
 トキソプラズマにヒトが感染すると、行動が変化したり、交通事故や自殺の確率(非感染者の7倍)が高くなるという報告もあります。ただし、猫は人の感染源になり得るのは初感染時のごく僅かな期間のみですから、ペットとして室内飼育されている猫が人の感染源となりうる可能性は極めて低いと言えます。むしろ野良猫との接触、糞への接触を避けることを気にしたほうが現実味があります。

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参考文献・資料等
  1. 猫の臨床指針 Part3:84-88:トキソプラズマ症


<1>前庭疾患の猫77頭の臨床症状、磁気共鳴映像法所見、および転帰: 回顧的研究
<2>犬のToxoplasma Gondiiに関連した角結膜炎
<3>髄膜脳炎に罹患した猫14頭の磁気共鳴画像診断結果
<4>猫の好酸球性線維化性胃炎とトキソプラズマ症
<5>猫の急性原発性トキソプラズマ性膵炎
<6>トキソプラズマに関連した心筋炎が疑われた猫の1例
<7>米国猫臨床家協会による猫の人畜共通感染症ガイドライン
<8>免疫抑制犬に認められた播種性トキソプラズマ症の皮膚徴候
<9>猫の皮膚トキソプラズマ症: 症例報告
<10>トキソプラズマ症による心不全を起こしたフェネックギツネ(Fennecus zerda)の1例
<11>猫のアトピーをサイクロスポリンAによって治療していて致死的な全身性トキソプラズマ症を起こした猫の1例
<12>ベルギー都市部の野良猫におけるToxoplasma gondii、猫免疫不全ウィルス、猫白血病ウィルスの血清学的調査
<13>猫の感染性ブドウ膜炎
<14>新生子猫のトキソプラズマ症による眼症状
<15>あなたの神経学的診断は何ですか?猫の右顔面神経麻痺を引き起こしたトキソプラズマ症
<16>臨床における病理学
<17>あなたの神経学的診断は何ですか?
<14>腎臓移植後の猫におけるToxoplasma gondii感染に関連した化膿性肉芽腫性膀胱炎
<15>猫の糞便中からのToxoplasma gondii様オーシストの検出および環境中のオーシスト汚染の推定
<16>市販で入手可能な生肉の犬の食事における細菌と原虫の汚染に関する評価
<17>野良猫およびペットの家庭猫におけるBartonella henselaeおよびToxoplasma gondiiに対する抗体の血清陽性率と、Cryptosporidium spp、Giardia spp、Toxocara catiの糞便中排泄
<18>Toxoplasma gondiiに対する抗体検査が行われた猫におけるSarcocystis neuronaに対する血清抗体のクロスセクション研究

この記事を書いた人

福山達也