うちの子のフシギ Vol.02:猫はどうして箱に入りたがるの?

宅配便が届いて箱を置いておくと、中身を取り出した後にに猫が入っている――。
猫と暮らしている方なら、一度は見たことがある光景ではないでしょうか。

しかも、大きくて余裕のある箱より、
「ちょっと小さすぎない?」と思うような箱に
ぎゅっと収まっていることもあります。

どうして猫は、こんなに箱が好きなのでしょう?

猫にとって「隠れる」ことは大切な行動

猫が箱を好む理由を考えるうえで重要なのが、
猫には安全な場所へ隠れるという行動があることです。

猫は不安や緊張を感じたとき、
その場から距離を取ったり、身を隠したりすることで
ストレスに対処します。

段ボール箱のように周囲を囲まれた場所は、
外からの刺激を減らしながら周囲の様子を確認できる
「安全な場所」になり得ます。

つまり、猫が箱に入るのは単なる遊びではなく、
「ここなら安心できる」と感じられる場所を選んでいる
場合もあるのです。

本当に箱があるとストレスが減る?

これについては、実際に猫を使った研究があります。

2014年にオランダの動物シェルターで行われた研究では、
新しく収容された猫19頭を、
「隠れる箱があるグループ」と「箱がないグループ」に分け、
14日間にわたってストレスの程度を観察しました。

その結果、箱を与えられた猫では、
収容後3~4日目のストレススコアが箱のない猫より低く、
新しい環境により早く適応した
ことが示されました。

14日目には両グループのストレススコアは同程度になりましたが、
箱のある猫では、そのレベルまで約3日で到達していました。

つまり、少なくとも慣れない環境では、
「隠れられる場所」が猫のストレスへの対処を助けている可能性があります。

別の研究でも同じ結果が

その後に行われた別のランダム化比較試験でも、
新しくシェルターに入った猫23頭を対象に
隠れ箱の効果が調べられました。

この研究でも、箱を与えられた猫では
行動から評価したストレススコアがより速く低下しました。

一方で、体重減少などすべての指標が改善したわけではありません。
「箱さえ置けば猫のストレスがなくなる」ということではなく、
隠れ場所は猫が環境に適応するための
一つの重要な選択肢と考えるのが適切でしょう。

猫にとって大切なのは「入れること」より「選べること」

ここで大切なのは、
猫を箱の中に入れてあげることではありません。

猫自身が「入りたいときに入れて、出たいときに出られる」こと
です。

現在の猫の飼育環境に関するガイドラインでも、
猫が安心して退避できる安全な場所を用意することが推奨されています。
段ボール箱だけでなく、キャリーケース、猫用ベッド、
高い場所に設置した休息スペースなども選択肢になります。

多頭飼育では、ほかの猫に邪魔されずに休めるよう、
それぞれの猫が利用できる安全な場所を用意することも大切です。

「小さい箱」が好きなのはなぜ?

では、なぜ猫は体がぎりぎり入るような
小さな箱を好むのでしょうか。

周囲を囲まれた狭い場所では、
体の多くが壁に触れるため、
猫にとって安心できる環境になっている可能性があります。
また、周囲からの視覚的な刺激を減らせることも考えられます。

ただし、
「猫は○cmの箱を最も好む」
「体が密着すると必ず安心する」

といったところまで十分に証明されているわけではありません。

猫によって好みは違います。
大きな箱が好きな猫もいれば、
キャリーケース、高い棚、毛布の中などを
お気に入りの場所にする猫もいます。

箱に入っている猫を無理に出さないで

猫が来客や大きな音などに驚いて箱の中へ逃げ込んだとき、
無理に引っ張り出す必要はありません。

安全上の問題がなければ、
猫が自分から出てくるまでそっとしておきましょう。

猫にとって、
「怖くなったらここへ逃げれば大丈夫」
という場所があること自体が重要だからです。

動物病院でも同じです。
慣れない場所、知らない人、犬の鳴き声、さまざまなにおい――。
猫にとって病院は刺激の多い環境です。

そのため、状況によってはキャリーケースやケージの中に
隠れられる場所を作ることが、
猫の不安や恐怖への配慮につながります。

当院では、入院やホテルでお預かりする場合、いつもお使いのキャリーや使い捨ての箱を必ずケージに入れるようにしています。

でも、ずっと隠れているときは?

ここは飼い主さんにぜひ覚えておいてほしいポイントです。

箱に入ったり隠れたりすること自体は、
猫の正常な行動の一つです。

しかし、
今まで普通に出てきていた猫が突然隠れるようになった、
あるいは
隠れたまま出てこない状態が続く場合には注意が必要です。

猫は体調が悪いときにも、人目につかない場所へ隠れることがあります。

食欲がない、元気がない、嘔吐する、排尿・排便がおかしい、
呼吸が速い、触られるのを嫌がるなど、
いつもと違う様子を伴っている場合には、
単に「箱が好きなんだ」と考えず、体調を確認してください。

箱は猫にとって、小さな「安心できる場所」

私たちにはただの段ボール箱でも、
猫にとっては少し違って見えているのかもしれません。

周囲から距離を取り、
刺激を減らし、
自分のタイミングで出入りできる場所。

研究からも、
隠れることのできる場所が、少なくとも慣れない環境での
猫のストレスへの対処を助ける
ことが示されています。

荷物が届いたあと、
猫が空き箱にすっぽり収まっていたら、
すぐに片づけずに少しだけ置いておいてあげてもいいかもしれません。

その箱は、猫にとってお気に入りの
「小さな安心スペース」なのかもしれませんね。


参考文献

  1. Vinke CM, Godijn LM, van der Leij WJR.
    Will a hiding box provide stress reduction for shelter cats?
    Applied Animal Behaviour Science.
    2014;160:86-93.

  2. van der Leij WJR, et al.
    The effect of a hiding box on stress levels and body weight in Dutch shelter cats;
    a randomized controlled trial.
    PLoS ONE. 2019.

    PubMed
  3. Feline Veterinary Medical Association.
    Meeting the Needs of Your Cat:
    Environmental Needs Guidelines.

    FelineVMA Environmental Needs


※本記事は猫の行動・福祉に関する研究およびガイドラインをもとに、
一般の飼い主さま向けに壱岐動物病院が解説したものです。
猫の行動には大きな個体差があります。
急な行動変化や体調の異常がみられる場合には、動物病院へご相談ください。

この記事を書いた人

福山達也