うちの子のフシギ Vol.08:犬はどうして首をかしげるの?

パソコンを使っていると、キーボードの上へ。
新聞や本を広げると、なぜかその真ん中へ。

「ちょっと、そこ使ってるんだけど……」

猫と暮らしていると、そんな経験をしたことがある方も
多いのではないでしょうか。

まるで狙ったように作業を邪魔してくる猫。

でも猫は、本当に
「飼い主さんを困らせよう」としているのでしょうか?

猫は「邪魔」をしているつもりではない?

まず知っておきたいのは、
猫が人間と同じように
「仕事の邪魔をしてやろう」と考えていると示す科学的根拠はない、
ということです。

私たちから見ると同じ「邪魔」に見えても、
猫がそこへやって来る理由は一つとは限りません。

飼い主さんとの社会的な関わり、
過去の経験による学習、
その場所の快適さなど、
いくつもの要因が関係している可能性があります。

猫は人間の「注意」を意外によく見ています

「猫は人間のことなんて気にしていない」
と思われることがあります。

しかし近年の研究では、
猫が人間の行動や注意の状態にかなり敏感であることが
分かってきました。

VitaleとUdellの研究では、
人が猫に注意を向けているときと、
注意を向けていないときで、
猫の人への接近や接触などの社会的行動が変化しました。

つまり猫は、
「この人が今、自分に注意を向けているかどうか」
を手がかりに行動を変えることができるのです。

パソコンに夢中な飼い主さんを猫から見ると?

では、パソコンで仕事をしている場面を
猫の側から考えてみましょう。

いつもなら自分を見たり、話しかけたり、触ったりしてくれる人が、
ずっと画面を見ています。

その人の手はキーボードの上にあり、
視線もその周辺に集中しています。

そこへ猫がやって来て、
キーボードの上に乗ったとします。

飼い主さんは、
「ちょっと待って」と猫を見たり、
名前を呼んだり、抱き上げたりするかもしれません。

結果として猫は、
飼い主さんから反応を引き出すことになります。

「ここに来ると相手をしてもらえる」と覚えることも

猫は経験から行動を学習します。

キーボードに乗るたびに飼い主さんが声をかけたり、
なでたり、抱き上げたりしていれば、
その反応自体が猫にとって意味のある結果になることがあります。

すると、
「ここへ来ると飼い主さんが反応してくれる」
という経験が積み重なり、
同じ行動が繰り返される可能性があります。

飼い主さんとしては「仕事を邪魔された」と思っていても、
猫にとっては
「ここに来たらこっちを見てくれた」
という経験なのかもしれません。

もちろん「かまってほしい」だけとは限りません

ただし、
キーボードや新聞の上に乗る理由を
すべて「飼い主さんの注意を引くため」と説明することもできません。

猫には大きな個体差があります。

パソコン周辺の場所そのものを好んでいる場合もあれば、
飼い主さんの近くにいたい場合、
そこで休むことが習慣になっている場合なども考えられます。

ノートパソコンなどでは、
機器から発生する暖かさがその場所を選ぶ理由の一つになる可能性もあります。

つまり、
同じ行動でも理由は一頭一頭違う可能性がある
ということです。

猫は人とのコミュニケーションも使い分けています

猫と人との関係を調べた別の研究でも、
興味深いことが分かっています。

猫が自分では解決できない課題に直面した実験では、
飼い主さんが猫に注意を向けているかどうかによって、
猫が飼い主さんを見る時間や行動が変化しました。

こうした研究から、
猫は単に人と同じ空間に暮らしているだけではなく、
人の注意や反応を手がかりにしながら
コミュニケーションしている
ことが分かってきています。

邪魔されたくないときはどうする?

猫を叱って追い払うよりも、
「猫がそこへ来る理由」を考えて環境を整える方がよいでしょう。

例えば、仕事を始める前に少し遊んだり、
パソコンの横に猫用のベッドやマットを置いたりして、
「ここなら一緒にいられる」という別の場所
を用意する方法があります。

フードパズルやおもちゃなどを使って、
猫自身が楽しめる活動を増やすことも選択肢です。

猫の環境に関する獣医学的なガイドラインでも、
安全な休息場所、遊びや捕食行動の機会、
人との適切な社会的交流など、
猫が本来持つ環境ニーズを満たすことが重要とされています。

実は「かまって行動」を調べた研究も

2026年には、室内飼育猫の
飼い主さんに対する過度な「attention-seeking behavior
(注意を求める行動)」を対象とした研究も報告されました。

この研究では、フードパズルなどを利用した給餌時の工夫によって、
4週間の研究期間中に
飼い主さんへの注意要求行動が減少しました。

すべての「邪魔する行動」にそのまま当てはめることはできませんが、
猫自身が楽しめる活動や刺激を増やすことが、
人への過度な注意要求を減らす可能性を示す興味深い結果です。

まとめ

パソコンを始めるとキーボードの上へ。
新聞を広げると、その真ん中へ。

私たちには「邪魔している」ように見えますが、
猫自身は困らせようとしているわけではないでしょう。

飼い主さんとの関わり、
これまでの経験、
居場所としての快適さなど、
いくつもの理由が重なっている可能性があります。

そして研究からは、
猫が私たちの注意の状態を意外なほどよく見て、
それに応じて行動を変えることも分かってきています。

次に愛猫がキーボードの上にドンと座ったら、
「また邪魔して!」ではなく、
「今、この子は何を求めてここへ来たのかな?」
と観察してみると、
愛猫のことがもう少し分かるかもしれません。


参考文献

  1. Vitale KR, Udell MAR.
    The quality of being sociable: The influence of human attentional state,
    population, and human familiarity on domestic cat sociability.
    Behavioural Processes.
    2019;158:11-17.
    doi:10.1016/j.beproc.2018.10.026.
  2. Zhang L, Needham KB, Juma S, et al.
    Feline communication strategies when presented with an unsolvable task:
    the attentional state of the person matters.
    Animal Cognition.
    2021;24:1109-1119.
    doi:10.1007/s10071-021-01503-6.
  3. Ellis SLH, Rodan I, Carney HC, et al.
    AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines.
    Journal of Feline Medicine and Surgery.
    2013;15(3):219-230.
  4. Hoff A, Lundegaard LSR, Møller-Petersen ML,
    Nielsen SS, Sandøe P.
    Dealing with annoying cats: A randomised controlled trial of
    feeding-time enrichment to reduce attention-seeking feline behaviours.
    Applied Animal Behaviour Science.
    2026;300:107017.
    doi:10.1016/j.applanim.2026.107017.


※「猫がなぜキーボードや新聞の上に乗るのか」を直接検証した
大規模な科学研究は、現時点ではほとんどありません。
本記事では、猫の対人社会行動、学習、注意要求行動および
環境ニーズに関する研究をもとに、
現在科学的に妥当と考えられる範囲で解説しています。

この記事を書いた人

福山達也