糖尿病(犬編)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

糖尿病とは?

 糖尿病(とうにょうびょう)は人で代表的な生活習慣病の一つですが、動物にも見られます。膵臓で作られるインスリンは、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込み、糖がエネルギー源として利用できるようにする働きをしています。このインスリンが不足したり、うまく作用しないと、血液中のブドウ糖が利用できなくなり、様々な症状をもたらします。糖尿病とは、このインスリンの作用不足により、持続的に血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなる病気です。血糖値が高いことにより尿中にブドウ糖が検出されるため、「糖尿病」と呼ばれます。正常では尿中に糖が出ることはほとんどありません。
 犬の糖尿病の罹患率(発生率)は0.3~1.2%と報告されていますので、100頭に1頭程度で見られると思ってください。

糖尿病の原因

 インスリンの働きが不足する原因は、おもに二つです。
 一つは、膵臓の機能が何らかの原因により低下して、分泌されるインスリンが不足してしまい、体内でのインスリンの絶対量が足りなくなる状態です。この状態をⅠ型糖尿病と言います。犬の糖尿病は、ほとんどがこのⅠ型といわれています。人のⅠ型糖尿病は自己免疫によるものとされていますが、犬の場合は多因子(様々な原因が関与している)によるとされています。

 もう一つは、膵臓からインスリンは分泌されているけれども、インスリンに対する身体の反応が悪く効きにくくなり、血糖値を上げる別の要因がある状態です。これをⅡ型糖尿病といい、主に猫に多いとされいます。犬の場合Ⅰ型とⅡ型の割合は4:1で、Ⅰ型糖尿病の原因の多くは自己免疫性(自分の免疫で膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)を破壊していること)によるといわれ、治療にインスリンの投与を必要とします。

一方、Ⅱ型糖尿病は、肥満や生活習慣、ストレスなどと大きな関連があり、治療にインスリンの投与を必要としない場合もあります。

また、膵炎など膵臓の疾患、副腎皮質機能亢進症、炎症性疾患などに併発したり、高齢の雌犬では発情に関連して発症することもあります。さらに、遺伝も関与しており、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマン・シェパード、ダックス・フンド、トイ・プードル、ビーグル、マルチーズ、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ピンシャー、ヨークシャー・テリアなどで発症が多いといわれ、犬では雄よりも雌で多く見られる傾向があります。

糖尿病の症状

 初期の症状としては、飲水量や尿量が増える多飲多尿(たいんたにょう)や、食欲があるのに体重が減少する症状などがみられます。体重1kgあたり24時間で100ml以上の水を飲むなら明らかに異常です。
 また、糖尿病は合併症を伴うことが多く、白内障や腎疾患、肝疾患、細菌感染による皮膚の疾患などを引き起こすことがあります。中でも特に注意が必要なのは『糖尿病性ケトアシドーシス』です。糖尿病の症状が進行すると血液中にケトン体という有害な物質が増加してケトアシドーシスという状態になり、食欲不振元気消失嘔吐下痢などの症状を引き起こします。これは、糖尿病にかかっている犬に突然起こる合併症であり、一刻を争う状態です。迅速な治療を受けることが必要で、重症になると神経障害や昏睡などを起こし、死に至ることがあります。

糖尿病の診断/検査

 尿検査血液検査血液化学検査などにより診断を行います。また、他の病気と区別するためにその他の検査が必要になることもあります。糖尿病の診断のポイントは「高血糖」と「尿糖」が同時にみられることです。糖尿病にかかっていなくても、ストレスが原因(猫ほどではない)で高血糖になったり、腎臓の病気が原因で尿に糖が漏れ出ることがあります。そのため、糖尿病と診断をするには、「高血糖」と「尿糖」の2つが同時に検出されることが必要となります。
 また、フルクトサミンや糖化アルブミンという特殊な検査項目を外部検査機関で測定することもあります。

糖尿病の治療

 インスリンによる血糖値のコントロールと合併症の予防が治療の主体となります。
 糖尿病が軽度の場合は、食事療法や運動療法などでコントロールを行いますが、犬の糖尿病では多くの場合、インスリンの投与が必要になります。そしてインスリンが必要なくなることはなく、生涯投与が必要です。
 その他、例えば、下痢をしている場合は下痢止めの投与、脱水やケトアシドーシスを起こしている場合には点滴による治療など、症状に応じて対症療法を行います。
 血糖値のコントロールには、インスリンの種類や投与量・投与回数が大切です。そのため、必要に応じて血液化学検査や全身状態のチェックが必要となります。また、食餌の種類(半生タイプは避ける。ウエットを推奨)や量、与え方、運動量なども血糖値に関連しますので注意が必要です。経済的に可能であれば動物病院で処方される糖尿病用の療法食を使用すべきです。
 5-アミノレブリン酸(5-ALA)のサプリメント(EneALA エネアラ[4]の投与により多少のよい効果が得られるとの記述が見られますので、試してみるのもいいかもしれません。
 自宅では動物用の血糖測定器を購入して、定期的に血糖値を測定することをお勧めします。特に、糖尿病の合併症として白内障があり、白内障にできるだけならないようにする、または、白内障の発症をできるだけ遅らせるには厳密な血糖値(80〜180mg/dl[4]の管理が必要です。この場合は必ず自宅での測定されるべきです。一方すでに白内障により失明しているとか、今後、白内障による失明が許容できる場合は、血糖値の目標が150〜250mg/dl[4]になります。この場合は低血糖のリスクは低いので自宅で血糖値を測定して頂きたいのですが、必須ではありません。

糖尿病の予防

 まず、日頃から年齢や状態に合わせて暴飲暴食を避けさせ、適切な食餌を与えましょう。脂肪や炭水化物などが多い偏った食事は肥満を起こしやすく、急激に血糖値が上がることは糖尿病を発症しやすくなります。もちろん、お散歩などの運動管理もきちんと行いましょう。
 また、市販のペットフード以外の手作り食のみ、あるいは手作り食も与えている場合、糖尿病になりやすい[3]という報告がありますので、きちんとしたペットフードを与えるようにしましょう。
 雌では避妊手術をすることで糖尿病の発症リスクを低下させる[3]ことができるといわれています。但し、避妊手術後は、肥満になりやすい傾向にあるので、肥満は糖尿病になるリスクを増加させますので、体重管理には注意をしましょう。
 予防のためには、血液検査血液化学検査尿検査など定期検診を行うことが大切です。最低でも5歳までは年に1回。その後は2〜4回程度は定期検診を行い、早期発見してあげましょう。

糖尿病の看護/その他

 糖尿病初期では発見が難しく、病状の進行とともに白内障や腎疾患、肝疾患など、多くの合併症を伴うことが多いので注意が必要です。
 一般には肥満気味の犬は糖尿病になりやすいといわれていますが、太り過ぎは糖尿病の主な原因ではないとされています。また、太っていないから大丈夫というわけでもありません。すでに糖尿病が進行して、食べているのに体重が増えない場合もあります。
 ご自宅では、ワンちゃんの飲水量や尿量、体重のチェックをこまめに行いましょう。また、多飲多尿や、たくさん食べるが痩せているなどの症状がみられた場合は、早めに当院にご相談ください。
 ご自宅で血糖値を測定される場合は、人間用ではなく動物用の血糖測定器を必ずご使用ください。
インスリン療法の副作用(低血糖)に注意
インスリン注射により血糖値が必要以上に下がりすぎてしまうと低血糖症になります。低血糖は命にかかわる危険な状態です。元気がなくなって体の力が抜けたり、震えや発作などの症状がみられた場合は、とりあえず砂糖をなめさせ、早急に当院にご連絡頂くか、獣医師の診察を受けてください。

家庭でのインシュリン注射の仕方:(当院オーナー限定:パスワードは待合室で入手してください。)
血糖曲線シート(どなたでもダウンロード可能)
※ご自宅でのインシュリン療法中に「体重減少」が急激に起こったり、それまで以上に「多飲多尿」が見られる場合は、『糖尿病性ケトアシドーシス』の可能性もあります。早急に当院にご連絡頂くか、獣医師の診察を受けてください。

2020年の報告ですが、犬が糖尿病(何故かII型)の場合、ドッグオーナーもII型糖尿病である確率が1.3倍になるというスエーデンからの報告があります。この差は糖尿病を患っているキャットオーナーには見られなかったそうです[5]。健康行動や環境の共有が原因では?とまとめています。

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参考文献・資料等
  1. 伴侶動物治療指針 Vol.1; 190-197:犬と猫の糖尿病の治療
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.3; 206-212:犬と猫の糖尿病:新しいインスリン療法
  3. 伴侶動物治療指針 Vol.3; 226-235:糖尿病性ケトアシドーシスの治療
  4. イヌ・ネコの糖尿病診断基準
  5. Canine diabetes mellitus risk factors: A matched case-control study
  6. 犬の糖尿病 
  7. The shared risk of diabetes between dog and cat owners and their pets: register based cohort study
  8. 犬の内科診療Part1; 303-306:糖尿病
  9. 犬の糖尿病


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この記事を書いた人

福山達也