糖尿病(猫編)

※電話などでの各種病気に関するお問い合わせは、通常診療業務に支障をきたしますので、当院をご利用のペットオーナー以外はご遠慮ください。まずはご自身のかかりつけ獣医師にお問い合わせください。ご理解とご協力をお願いいたします!

糖尿病とは?

 糖尿病(とうにょうびょう)は、尿の中に糖が出てしまうことから名づけられた病名です。この原因は、血液中のブドウ糖が増えすぎて尿の中に糖が溢れてしまうためです。実際には血液中のブドウ糖が増えすぎていること(高血糖)が問題であり、この状態が続くと血管や臓器に負担をかけ、ついには腎臓病や白内障などを引きおこしてしまいます。血糖値が高くなる原因は、血糖値を下げるために膵臓から分泌されるインスリン(インシュリン) というホルモンが少なくなってしまったり、インスリンに対する身体の反応が鈍くなってしまうことによります。

 一般に猫の糖尿病は、高齢(7才以上)の猫に多くみられ、雄(オス)に多く[9]肥満猫は糖尿病に4倍なりやすいと言われます。また、室内飼育で運動量が少ないとリスクが増加するという報告もあります。猫では原因不明のインシュリン分泌不全やインシュリン抵抗性により起こる2型糖尿病が多く、犬では1型(膵臓のベータ細胞破壊)が多いとされています。

糖尿病の原因

 猫に多い2型の糖尿病は基本的には特発性(原因不明もしくは様々な原因が複合して起こる)が多いとされています。危険因子として、肥満猫は糖尿病を起こしやしとされています。肥満になると、インスリンに対する反応が鈍ってしまうためです[9]。このような場合は、 痩せさせることで、インスリンに対する反応が元に戻るケースが多くあります。また、室内飼育、運動不足も糖尿病になりやすいとされています。その他ある種の遺伝子が関与しているのことが示唆されています[10]

また、膵炎、膵臓癌、先端巨大症、副腎皮質機能亢進症甲状腺機能亢進症などでも糖尿病が起こることがあります(猫の糖尿病の10〜20%)。ただ、膵炎に関しては膵炎の猫が糖尿病になるのではなく、糖尿病の猫は膵炎を起こしやすいのではないかと言われています[8]

 参考までに、オーストラリアのバーミーズキャットとアメリカのシャム猫は他のネコより糖尿病になりやすい傾向があるとの報告があります。

糖尿病の症状

 多飲多尿(よく水を飲み、オシッコをたくさんする)。元気消失(元気がない)、おしっこの匂いが変化した。よく食べる(多食)のに痩せてきた (以前太っていたのに痩せてきた)。眠ってばかりいるなどです。特徴的な症状として、重度の高血糖が続くと、末梢神経の異常から踵(かかと)を地面につけて歩行する足裏歩行(蹠行:しょこう、せきこう)が見られることがあります。猫がこのような歩き方をする場合は、早急に当院にご相談ください。

 また、糖尿病は合併症を伴うことが多く、白内障(但し、犬ほどではない)や腎疾患、肝疾患、細菌感染による皮膚の疾患などを引き起こすことがあります。中でも特に注意が必要なのは『糖尿病性ケトアシドーシス』です。糖尿病の症状が進行すると血液中にケトン体という有害な物質が増加してケトアシドーシスという状態になり、食欲不振や廃絶、元気の低下、嘔吐下痢などの症状を引き起こします。これは、糖尿病にかかっている猫に突然起こる合併症であり、一刻を争う状態です。迅速な治療を受けることが必要で、重症になると神経障害や昏睡などを起こし、死に至ることがあります(死亡率は30〜40%)。

糖尿病の診断/検査

 通常、尿検査血液検査血液化学検査などにより診断を行います。また、他の病気と区別するためにその他の検査が必要になることもあります。糖尿病の診断のポイントは「高血糖」と「尿糖」が同時にみられることです。特に猫は糖尿病にかかっていなくても、ストレスが原因で高血糖になったり、腎臓の病気が原因で尿に糖が漏れ出ることがあります。そのため、糖尿病と診断をするには、「高血糖」と「尿糖」が同時に検出されることが必要となります。また、状態によっては、他の併発疾患(膵炎、膵臓癌、先端巨大症、副腎皮質機能亢進症甲状腺機能亢進症など)を確認するために特殊な検査が必要になることもありますし、血糖値は頻回に測定する必要があります。

※先端巨大症が疑われる場合、インシュリン治療を開始して1ヶ月ほどしてからIGF-1の測定を行うことをお勧めします。

糖尿病の治療

 インスリンによる血糖値のコントロールと合併症の予防が治療の主体となります。その他、適切な食事療法も糖尿病治療を補助する大きな要素となります。食事療法の目的は、血糖値が高い状態である時間をなるべく縮めたり、血糖値の変動をなるべく小さくしたり、体内のインスリン必要量を節約することになります。また、特に猫の場合は、肥満によりインスリンが効かなくなることが多いので、食事療法などで体重を落とすこともおすすめします。
 なお、当院では猫の糖尿病に対して必要に応じて、海外から許可を得て輸入した薬剤を用いることがありますので、ご了承ください。
<<インシュリン療法参考サイト>>
プロジンク|猫の糖尿病治療薬
その他、例えば、下痢をしている場合は下痢止めの投与、脱水やケトアシドーシスを起こしている場合には点滴による治療など、症状に応じて対症療法を行います。血糖値のコントロールには、インスリンの種類や投与量・投与回数が大切です。そのため、必要に応じて血液化学検査や全身状態のチェックが必要となります。また、食餌の種類や量、与え方、運動量なども血糖値に関連しますので注意が必要です。
 残念ながら猫の糖尿病はヒトと違い、飲み薬(血糖降下剤)は効果がありません。また、運動療法も積極的に本人が行ってくれるわけではなく治療効果はあまり望めないと言われています。
 治療はできるだけ早く開始することが重要です。遅れれば遅れるほど膵臓に負担がかかり、回復する可能性を低くします[11]。ですから、特に肥満の猫に体重減少多飲多尿が見られたら(肥満を防止するのが先ですが。。。)早急に動物病院を受診して、早く見つけてあげることが重要です。

糖尿病の予防

 肥満や運動不足を防ぐことはいくらか効果がありかもしれません[9]。また、炭水化物の多い食事を避けることも予防になる可能性があります。なぜなら猫は完全肉食動物です。そのため高タンパク質、低炭水化物の食事が好まれます。

気づきやすい症状としては多飲多尿があります。いつもよりよく水を飲むようになったら(24時間で、体重1kgあたり50ml以上飲むなら異常の可能性が、100mlを超えるなら明らかに異常です)、糖尿病だけでなく他の病気も考えられますので、すぐに当院にご相談ください。

 予防のためには、血液検査血液化学検査尿検査など定期検診を行うことが大切です。最低でも5歳までは年に1回。その後は2〜4回程度は定期検診を行い、早期発見してあげましょう。

糖尿病の看護/その他

 糖尿病初期では発見が難しく、病状の進行とともに白内障や腎疾患、肝疾患など、多くの合併症を伴うことが多いので注意が必要です。通常食後には血糖値が上がりますが、最近の研究では、高タンパク、低炭水化物(タンパク質の量が多くて、炭水化物の量が少な い)の食事は 、食後の血糖値の上昇を少なくするといわれており、糖尿病の猫には動物病院で処方されるきちんとした食事療法をおすすめします。特にウエットフードは一般に消化性炭水化物が少ないため、ドライよりも糖尿病に効果があるとされています。また、常に清潔で新鮮な水を飲めるようにしてあげましょう。

 食事回数やタイミングは注射するインスリンの種類によって変わってきます。獣医師の指示に従い、適切なタイミングを守りましょう。

 ご自宅で血糖値を測定される場合は、人間用ではなく動物用の血糖測定器を必ずご使用ください。

 猫では犬と違い、糖尿病になっても寛解する可能性があるので、早い段階でインシュリン療法を始めることが重要です。
※インスリン療法の副作用(低血糖)に注意
インスリン注射により血糖値が必要以上に下がりすぎてしまうと「低血糖」になります。低血糖は命にかかわる危険な状態です。元気がなくなって体の力が抜けたり、震えや発作などの症状がみられた場合は、とりあえず砂糖をなめさせ、早急に当院にご連絡頂くか、獣医師の診察を受けてください。

家庭でのインシュリン注射の仕方:(当院オーナー限定:閲覧にパスワードが必要です。パスワードは当院受付で入手して下さい。)
血糖曲線シート(どなたでもダウンロード可能)
※ご自宅でのインシュリン療法中に「体重減少」が急激に起こったり、それまで以上に「多飲多尿」が見られる場合は、『糖尿病性ケトアシドーシス』の可能性もあります。早急に当院にご連絡頂くか、獣医師の診察を受けてください。

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参考文献・資料等
  1. 猫の臨床指針Part2; 160-166
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.1; 190-197:犬と猫の糖尿病の治療
  3. 伴侶動物治療指針 Vol.3; 206-212:犬と猫の糖尿病:新しいインスリン療法
  4. 伴侶動物治療指針 Vol.3; 226-235:糖尿病性ケトアシドーシスの治療
  5. 伴侶動物治療指針 Vol.6; 151-156:国際猫学会(ISFM)猫の糖尿病医療ガイドライン準拠 猫の糖尿病治療指針
  6. 伴侶動物治療指針 Vol.7; 144-153:猫の糖尿病〜PZI製剤の使い方〜
  7. イヌ・ネコの糖尿病診断基準
  8. What’s in a Name? Classification of Diabetes Mellitus in Veterinary Medicine and Why It Matters
  9. Insulin sensitivity decreases with obesity, and lean cats with low insulin sensitivity are at greatest risk of glucose intolerance with weight gain
  10. A Polymorphism in the Melanocortin 4 Receptor Gene (MC4R:c.92C>T) Is Associated with Diabetes Mellitus in Overweight Domestic Shorthaired Cats
  11. Hyperglycaemia but not hyperlipidaemia causes beta cell dysfunction and beta cell loss in the domestic cat
  12. 猫の糖尿病


<1>猫における真性糖尿病の臨床管理に関するISFM診療ガイドライン
<2>糖尿病の猫における持続的なグルコースモニタリングのためのセンサー装着部位の評価
<3>糖尿病に罹患した猫に対する診療現場でのインスリンデテミル投与
<4>真性糖尿病および膵炎-原因か結果か?
<5>今までとは異なる猫の血糖検査の採材部位: 耳を休ませよう
<6>英国の猫に対するポータブル血中グルコースメーターの臨床的利用の評価
<7>糖尿病性ケトアシドーシスの犬猫における持続的グルコースモニタリングシステムの正確度
<8>ディップスティック法を用いた糖尿病の猫のケトン測定
<9>獣医教育病院に来院した猫の糖尿病の時間的傾向および危険因子
<10>英国における猫の糖尿病: 保険に加入している猫集団内の罹患率およびアンケートから推定される危険因子分析
<11>糖尿病の猫においてよく認められる心不全: 一次診療を行った動物病院でコントロールを行った症例に対する回顧的研究による知見
<12>猫の糖尿病の治療に対するプロタミン亜鉛インシュリンの効能
<13>インスリン耐性の糖尿病猫における脳下垂体腫瘍の発生頻度
<14>猫の糖尿病における40単位豚由来レンテインシュリンの薬理動態 : 治療1週間そして治療5または9週間後の所見
<15>猫の糖尿病の管理
<16>猫の視床下部-腺下垂体腫瘍
<17>下垂体巨大腺腫を伴う猫の低分割照射法による糖尿病治療(末端肥大症には無効)
<18>猫の糖尿病管理における低炭水化物・低線維食および適量炭水化物・高線維食の比較
<19>インスリンを急に休止した場合の生化学的および生理学的変化について
<20>糖尿病猫における持続的血糖値モニタリングシステムの評価
<21>糖尿病に罹患した猫における血中グルコースの家庭でのモニタリング: 4ヶ月以上にわたる評価
<22>猫におけるインスリン感受性指標としての基準血漿インスリンおよびホメオスタシス・モデル・アセスメント(HOMA)
<23>犬猫におけるグルコース連続モニタリング
<24>未去勢および去勢済み雄猫において高炭水化物高脂肪食が血漿中代謝産物濃度および静脈性グルコース耐性検査に及ぼす影響
<25>糖尿病の犬猫における尿検査用のディップスティック比色分析法を用いた血漿ヘマトクリット検体からのケトンの検出に関する評価
<26>猫の糖尿病における高血糖高浸透圧症候群: 17症例(1995-2001年)
<27>糖尿病性白内障の病態生理学
<28>猫の糖尿病性ニューロパシー
<29>糖尿病の犬猫における血中グルコース濃度のモニター手段としてのポータブル血中グルコースメーター
<30>糖尿病患者におけるクリティカルケアーのモニターについての考察
<31>家庭での糖尿病患者のモニター
<32>犬猫における糖尿病のモニタリング方法
<33>真性糖尿病に対するインシュリンと他の治療法
<34>自然発生した猫の糖尿病に関連した神経学的合併症
<35>a-グルコシダーゼ阻害薬と炭水化物制限食による猫の糖尿病の治療
<36>犬猫の培養水晶体のアルドース還元酵素活性とグルコースに関連した混濁
<37>インスリン感受性は肥満と共に低下し、インスリン感受性の低い痩せた猫は体重増加に伴い糖不耐性を生じる危険性が非常に高い
<38>ペットの飼主による毛細血管の血糖値測定: 糖尿病管理のための新たなツール
<39>猫の医原性二次性副腎皮質機能低下症および糖尿病に起因する高カルシウム血症
<40>処置および無処置の糖尿病猫におけるβ細胞およびインスリン抗体
<41>猫の糖尿病の治療に対するプロタミン亜鉛インシュリンの効能
<42>猫の糖尿病の治療として期待されている二種類の遷移性金属
<43>猫の糖尿病に対する環境リスク因子
<44>イギリスにおける一次診療獣医療施設に来院した猫193,435頭における糖尿病の疫学
<45>名前に込められた意味は何か?獣医療における糖尿病の分類、そしてなぜ重要なのか?
<46>新規に糖尿病と診断された猫における生存期間および予後因子:114例(2000-2009)
<47>新規に診断された糖尿病の猫におけるグルカゴン様ペプタイド-1アナログ・エキセナチド徐放剤の効果
<48>保険に加入しているスウェーデンの猫における年齢、品種、および性別に関連した糖尿病発生率
<49>診断時に臨床的意義のある膵炎を伴わない糖尿病の猫における血清膵酵素および超音波所見に関する縦断的評価
<50>寛解時の糖尿病猫の血糖状態および再発の予測因子 
<51>猫の高ソマトトロピン分泌症と糖尿病における血清グレリンの評価および診断可能性
<52>糖尿病の猫におけるインシュリンの集中的静脈内点滴
<53>糖尿病猫における臨床的寛解の予測因子
<54>体重過多の短毛在来種猫においてメラノコルチン4レセプター遺伝子(MC4R:c92C>T) における多型性は糖尿病と関連する
<55>糖尿病猫のための生活の質ツールの評価
<56>肥満猫における インシュリン感受性と血清脂質に対するピオグリタゾンの影響
<57>猫の食後の血糖症とエネルギー摂取に対する食事中の炭水化物、脂肪、および蛋白質の影響
<58>猫用の新しいリアルタイム連続血糖モニタリングシステムの評価 
<59>猫の糖尿病の治療に対するプロタミン亜鉛遺伝子組換えヒトインスリンの臨床現場での安全性および有効性
<60>糖尿病と先端巨大症の猫に対する少分割放射線療法後の外因性インスリン療法
<61>糖尿病性ケトアシドーシスの猫における糖尿病の寛解
<62>糖尿病の猫においてインシュリン投与量を決定する為のポータブル血糖メーターによる継続的グルコースモニタリングシステムの比較
<63>犬および猫における持続血糖測定(CGM)
<64>糖尿病および先端巨大症の猫の血清インスリン様成長因子- I濃度
<65>猫の糖尿病の寛解はアルギニン刺激試験では予測できない
<66>猫の糖尿病:診断、治療、そしてモニタリング
<67>糖尿病の猫における尿路感染の頻度と危険因子
<68>糖尿病の猫における、自宅にて作成された血糖値曲線の日々の変動
<69>腎移植を実施した猫における糖尿病の発生率および危険因子:187症例(1986~2005年)
<70>糖尿病の猫におけるグラルギンとレンテインスリンの使用
<71>糖尿病患者のインスリン抵抗性:原因および管理
<72>糖尿病に罹患した猫における肺病変
<73>糖尿病の猫に対して家庭で行なわれた血糖値の長期モニタリングの評価:26例(1999-2002)
<74>正常猫と糖尿病の猫に対する経口抗高血糖薬メトフォーミンの評価
<75>糖尿病の猫に生じたカンジダ尿症の、クロトリマゾール膀胱内投与による治療
<76>犬、猫、馬における連続的グルコース・モニタリング・システムの評価
<77>糖尿病の猫の収縮期血圧
<78>猫における肉食動物の栄養との関連
<79>健康な猫及び糖尿病の猫に対する耳の辺縁静脈切開法と末梢の静脈から得た血液サンプルにおける血糖値の比較

この記事を書いた人

福山達也