うちの子のフシギ Vol.13:犬はどうして飼い主の顔をじっと見るの?

ふと視線を感じて振り返ると、
愛犬がこちらをじーっと見つめている……。

「お腹がすいたの?」
「散歩に行きたい?」
「それとも何か言いたいの?」

犬と暮らしていると、
そんな経験をすることがあります。

犬が人の顔を見るのには、
実はひとつだけではなく、いろいろな理由があります。


犬は私たちの顔から、いったい何を読み取っているのでしょう?

犬にとって「人の顔」は大切な情報源

犬は、人と長い歴史をともにしてきた動物です。

そして家庭で暮らす犬は、
日々の生活の中で人の行動をよく観察しています。

研究からは、犬が人の
視線、表情、声、姿勢、注意の向き
など、さまざまな手がかりを利用できることが示されています。

つまり、犬がこちらをじっと見ているとき、
単に「顔を見ている」だけではなく、
私たちから何らかの情報を得ようとしている場合があります。

「今、私を見てる?」を確認していることも

犬は、人が自分に注意を向けているかどうかにも
敏感です。

例えば、人の顔や目の向きなどによって、
犬の行動が変化することがあります。

飼い主さんを見つめる行動の中には、

「今、自分に注意を向けているかな?」

と確認するような意味を持つものもあると考えられます。

散歩に行きたいとき、
ごはんを待っているとき、
遊んでほしいとき。

まず飼い主さんの顔を見る――。
そんな行動にも、人とのコミュニケーションが関係しているのかもしれません。

「見つめれば伝わる」と学習していることも

犬が人を見る理由は、
生まれつきの能力だけで説明できるわけではありません。

毎日の生活の中での
学習も大きく関係します。

例えば犬が飼い主さんを見つめたときに、

  • ごはんをもらえた
  • 散歩に連れて行ってもらえた
  • 遊んでもらえた
  • 声をかけてもらえた
  • なでてもらえた

という経験を繰り返せば、
「人を見ると何かが起こる」
と学習することがあります。

そのため、

「じっと見つめる=いつも同じ気持ち」

ではありません。

犬は人の表情も見分けている?

犬が人の顔から得ている情報については、
興味深い研究があります。

Müllerらの研究では、
犬が人の顔写真から
喜びを示す表情と怒りを示す表情を区別できる
ことが示されました。

さらに、犬は顔だけではなく、
声の調子など他の情報も組み合わせて
人の感情に関連する手がかりを利用できることが報告されています。

つまり犬にとって人の顔は、
「誰なのか」を知るだけではなく、
その人がどのような状態なのかを判断する手がかり
にもなっている可能性があります。

飼い主さんの反応を参考にすることも

初めて見る物や、少し不安になるような状況で、
犬が飼い主さんの顔を見ることがあります。

これは
社会的参照(social referencing)
と呼ばれる行動と関係します。

犬は曖昧な状況に置かれたとき、
飼い主さんの反応を確認し、
その情報を自分の行動の参考にすることがあります。

例えば、
「飼い主さんは平気そうかな?」
「これは近づいても大丈夫かな?」
と判断するための手がかりとして、
人の表情や反応を利用している可能性があります。

「困ったとき」に人の顔を見る犬もいます

犬と人とのコミュニケーションを調べた有名な方法に、
解決できない課題(unsolvable task)
を使った研究があります。

最初は自分で取ることができた食べ物を、
実験途中から犬自身では取れない状態にします。

すると犬の中には、
自分だけで解決し続けようとするだけでなく、
近くにいる人の顔を見る
という行動を示す個体がいます。

このような「人を見る」行動は、
犬と人との社会的コミュニケーションを研究するうえで
重要な行動のひとつとして調べられてきました。

見つめ合うと「オキシトシン」が増える?

犬と人の視線については、
もうひとつ有名な研究があります。

Nagasawaらは2015年、
犬と飼い主との相互作用を調べ、

犬から飼い主への視線と、
人と犬双方のオキシトシン濃度の変化との関連

を報告しました。

この研究は、
犬と人との視線を介した社会的相互作用を考えるうえで
非常に興味深いものです。

ただし、
「犬が見つめれば必ずオキシトシンが増える」
「見つめる犬ほど飼い主を愛している」
と単純に解釈することはできません。

視線は、犬と人との複雑なコミュニケーションを構成する
要素のひとつとして考えるのがよいでしょう。

「じっと見る」=愛情表現とは限りません

愛犬に見つめられると、
「大好きって言っているのかな?」
と思いたくなります。

実際、リラックスした状況で
飼い主さんとの社会的なやり取りとして
視線が使われることはあります。

しかし犬が人を見る理由には、

  • 何かを要求している
  • 人の注意を確認している
  • 次に何が起こるか予測している
  • 人の反応を参考にしている
  • これまでの経験から見つめることを学習している

など、さまざまな可能性があります。


視線だけで犬の気持ちを決めつけず、
そのときの状況や全身の様子も一緒に見ることが大切です。

同じ「見つめる」でも表情や体の様子を見てみよう

犬の気持ちを考えるときには、
目だけではなく全身を観察してみましょう。

体がリラックスしているか、
耳や尾はどのような位置にあるか、
口元に力が入っていないか、
その場から離れようとしていないか。

同じように人を見ていても、
リラックスした状態と、
緊張・不安がある状態では意味が異なる可能性があります。

特に知らない犬と接するときには、
「目が合った=仲良くなりたい」
と考えて接近するのではなく、
犬の全身のボディランゲージを確認しましょう。

愛犬がこちらを見ていたら

次に愛犬から視線を感じたら、
すぐに「何かちょうだい?」と考える前に、
少し観察してみてください。

ごはんの時間でしょうか?
散歩の前でしょうか?
初めて見るものが近くにあるでしょうか?
それとも、ただ静かにそばにいる時間でしょうか?


「どんな場面で自分を見るのか」を観察すると、
愛犬が人とどのようにコミュニケーションしているのかが
少しずつ見えてくるかもしれません。

まとめ

じーっとこちらを見つめる愛犬。

その視線には、
いつもひとつの意味があるわけではありません。

犬は人の視線や表情、注意の向きなどを手がかりにし、
ときには人の反応を参考にしながら行動しています。

また毎日の生活の中で、
「人を見ると何かが起こる」ということも学習します。


犬が私たちを見ることは、
犬と人とのコミュニケーションを支える
大切な行動のひとつなのです。

今度、愛犬と目が合ったときには、
「何を言いたいの?」だけではなく、
「今、私の何を見ているんだろう?」
と考えてみるのも面白いかもしれません。


参考文献

  1. Nagasawa M, Mitsui S, En S, et al.
    Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds.
    Science.
    2015;348(6232):333-336.
    doi:10.1126/science.1261022.
  2. Müller CA, Schmitt K, Barber ALA, Huber L.
    Dogs can discriminate emotional expressions of human faces.
    Current Biology.
    2015;25(5):601-605.
    doi:10.1016/j.cub.2014.12.055.
  3. Albuquerque N, Guo K, Wilkinson A, Savalli C, Otta E, Mills D.
    Dogs recognize dog and human emotions.
    Biology Letters.
    2016;12(1):20150883.
    doi:10.1098/rsbl.2015.0883.
  4. Merola I, Prato-Previde E, Marshall-Pescini S.
    Social referencing in dog-owner dyads?
    Animal Cognition.
    2012;15(2):175-185.
    doi:10.1007/s10071-011-0443-0.
  5. Miklósi Á, Polgárdi R, Topál J, Csányi V.
    Use of experimenter-given cues in dogs.
    Animal Cognition.
    1998;1:113-121.


※犬が人を見る理由や視線の使い方には個体差があります。
視線だけから犬の感情を断定することはできません。
表情、耳、尾、姿勢、周囲の状況などを含めて
全体のボディランゲージを観察することが大切です。

この記事を書いた人

福山達也