リンパ腫(犬編)

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リンパ腫とは?

 リンパ腫(りんぱしゅ)は、悪性リンパ腫(あくせいりんぱしゅ):リンパ肉腫(りんぱにくしゅ)などとも呼ばれ、体の免疫を担うリンパ球が癌化してしまう病気で、血液中にある白血球の一つであるリンパ球が癌化する造血器系の癌の一種です。犬の腫瘍中では比較的発生率が高く、腫瘍全体の7~24%を占めています。推定年間発生率は10万犬当たり、20〜100犬程度と報告されています。[4]

悪性リンパ腫は、解剖学的な位置から「多中心型」「縦壁型」「消化器型」「皮膚型」などに区分されます。これらのうち、犬の場合は体のリンパ節に腫れがみられる「多中心型リンパ腫」が大半(リンパ腫全体の 80 %以上)です。6歳以上の中高齢犬に多くみられますが、若齢でも発症します。性別差はありません。

犬種別では、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ボクサー、ロットワイラー、バッセト・ハウンド、セント・バーナード、ブルマスティフ、ブルドック、ジャーマンシェパード、バーニーズ・マウンテンドック、スコットランド・テリアなどがリンパ腫になりやすいと言われていますが、データは国により多少異なります。

逆に発生リスクの低い犬種はダックスフンド(日本では例外)、ポメラニアン、チワワ、ミニチュア・プードル、トイ・プードル、チャウチャウ、ヨークシャー・テリアが挙げられています。

リンパ腫の原因

 リンパ腫が発症する原因は未だ解明されておらず、遺伝的な要因や発がん物質の摂取などが考えられています。

リンパ腫の症状

 リンパ腫は全身をめぐる血液の細胞である白血球が癌化するため、体のほぼすべての組織に発生する可能性があります。そのため、発生した場所の違いにより症状も異なります。

・多中心型
リンパ腫全体の約80%にを占めると言われ、最も多いタイプです。体の表面にあるリンパ節(顎や腋の下、股の内側、膝の裏など)が腫大(大きく腫れること)し、病気の進行に従って肝臓、脾臓、骨髄などにも広がっていきます。食欲不振元気消失体重減少発熱などのあまり特徴的でない症状が現れます。

・縦隔型(胸腺型)
リンパ腫全体の約5%を占めるタイプです。胸腔内にある前縦隔リンパ節または胸腺、あるいはその両方が腫大します。腫瘤による圧迫や胸水貯留により咳、呼吸困難、チアノーゼなどが生じることがあり、血液検査で高カルシウム血症がよく認められます。
・消化器型
リンパ腫全体の約5~7%を占めるタイプです。消化管のリンパ組織やリンパ節が腫れるもので、腸管に病変が広がっていると吸収不良により下痢嘔吐食欲不振体重減少、低タンパク血症などが生じます。ときに腸管に穴が開いて腹膜炎などを起こすこともあります。
・皮膚型
皮膚に発生する非常にまれなタイプのリンパ腫で、湿疹、紅斑、脱毛など様々な病変が見られ、一見すると皮膚病と見間違えてしまうことさえあります。一箇所だけのことも、全身に多発することもあります。
・節外型
リンパ腫が、眼、鼻腔、中枢神経系、骨などに発生するタイプです。どれも非常に稀です。
 リンパ腫は重度になると上記のような症状以外にも、免疫不全、食欲不振、削痩(痩せること)など様々な症状を引き起こします。

リンパ腫の診断/検査

 診断はまず、全身の視診と触診により行います。特にリンパ節の大きさ、硬さ、形、周囲組織との関連性などを調べます。

また、リンパ腫の進行度(臨床ステージ)、細胞診検査(針吸引検査)、全身状態の把握のため、血液検査血液化学検査尿検査レントゲン検査超音波検査を行い、必要に応じて内視鏡検査や骨髄検査、CT、MRI、リンパ球クローナリティー検査(遺伝子検査)、マイクロサテライト解析なども行います。

これらの検査で異常を認めたリンパ節や臓器に対しては細胞診あるいは病理組織検査を行い、確定診断を行います。

犬のリンパ腫は、細胞診検査、免疫染色や遺伝子診断を組み合わせることによりT、B分類と高分化型、低分化型のグレードをもとに大きく4つに区分され、それによりリンパ腫の挙動の予測と、抗がん剤などの薬剤選択に関する情報が得られます。

犬のリンパ腫のステージ分類

ステージ1 単一のリンパ節および単一臓器のリンパ組織に限局(除く骨髄)
ステージ2 領域内の複数のリンパ節に浸潤。横隔膜を挟んで片側のみ(扁桃を含むまたは含まない)
ステージ3 全身性リンパ節浸潤を認める
ステージ4 肝臓および/または脾臓に浸潤(ステージ3を含むまたは含まない)
ステージ5 血液症候の発現と骨髄および/または他の臓器へ浸潤を認める(ステージ1~4を含むまたは含まない)
※サブステージ 各ステージはさらに全身症状の有無によりサブステージa(症状なし)またはb(症状あり)に分けられる

ステージ1,2に比べるとステージ3,4,5のほうが予後が悪いことは分かっていますが、3,4,5はただ単にステージだけでなくサブステージ(症状があるか)が重要になります。すなはち、症状があるときよりも無いときのほうが予後が良いということです。

リンパ腫の治療

 悪性リンパ腫の治療は、診断の確定後、おもに抗癌剤による化学療法を行います。また、リンパ腫のタイプや場所によっては、外科的切除、放射線療法を行うことがあります。リンパ腫で無治療の場合、ほとんどが4~6週間以内に死亡することが報告されています。
 抗がん剤治療を行うことで延命ができ、症状が一定期間消失してより良い生活を送ることができます。この状態を寛解(かんかい)状態といいます。但し、抗がん剤の種類や組み合わせによっては、嘔吐下痢食欲不振、血球の減少などの副作用があります。このような副作用や抗がん剤の治療費は高額になる場合もあり、治療を行うかどうか、また、どの抗がん剤や組み合わせを用いるかについては慎重に判断する必要があります
 また、今のところ、リンパ腫の治療は根治(完治)目的ではなく、緩和目的になります。リンパ腫によって起こる悪影響、全身症状を改善して、リンパ腫と付き合いながら、できる限り生活の質を維持していくことが目標になっていることを知って下さい。

・化学療法(抗がん剤)
いわゆる抗がん剤です。リンパ腫は全身性疾患であるため、全身に効く治療方法である化学療法が主体となります。使用される抗がん剤は多くあり、通常はいくつかの薬を組み合わせて使います。また、動物の全身状態やリンパ腫の種類(分化型、TあるいはB細胞性、解剖学的部位、臨床ステージ)によっても変化します。

通院回数や治療コスト、治療効果、副作用、予後などは事前に詳しく話しあう必要があります。

・外科療法
リンパ腫は全身性疾患であるため、通常は外科療法の適応ではありませんが、皮膚に腫瘤を形成していたり、眼球や腹腔内でも孤立して病変をつくっている場合には、手術により大きなリンパ腫の病変を取り除き、がん細胞の数を減らしてやることは治療上有効です。但し、リンパ細胞は全身に存在するため、通常、外科手術のみの治療で終わらず、補助療法として化学療法や放射線療法を併用し、全身に対する治療を施すことが一般的です。

・放射線療法
リンパ球は放射線に対しての感受性が高いと言われています。ですから、腫瘍が限局している場合や、全身性ではあっても放射線照射の効果的が期待できる場合に選択されます。但し、治療できる施設は限られています

・食事療法
昨今、がん治療の場合は初期段階からしっかり栄養管理を行うことは非常に重要だとされています。

リンパ腫に限らず、がんを患った動物は様々な栄養素の代謝に変化が起こります。きちんと食べているのに痩せてきてしまうというような現象(がん性悪液質)が起こります。がん性悪液質に患者を陥らせないためには、食事の成分に気をつけるだけでなく積極的な栄養管理を行っていく必要があります。

具体的には、食事を温めるなどの工夫や食欲増進剤などの使用を検討します。それでも十分な効果が得られない場合は、チューブ(鼻、咽頭、食道、胃、腸カテーテル)を用いた栄養補給法を検討する必要があります。患者が‘飢え’から解放されるだけでなく、がん治療の副作用の軽減効果、生活の質の向上につながります。

リンパ腫の予防

 リンパ腫は、原因がはっきりしないため予防は困難でが、喫煙者のいる家庭では犬のリンパ腫のリスクが3.3倍、猫は2〜3倍になるという報告がありますので、喫煙環境を避けることは予防になる可能性があります。その他報告されているのは、工場地域での生活、化学物質への暴露、廃棄物焼却炉、放射性物質などが発症のリスクを高めるとされています。
 基本的には早期発見と早期治療が何より大切です。日頃から下顎や顎の下、足のつけ根などのリンパ節や全身を触って腫れやしこりがないか、チェックを行いましょう。異常を感じたら早めに当院にご相談ください。

リンパ腫の看護/その他

 リンパ腫の予後はタイプや進行程度、化学療法への反応などによって様々です。
 外科手術や抗癌剤治療を行う場合、どのくらい延命できるのか、治療費はいくらくらいかかるのか、副作用にはどのようなものがあるかなどについての説明を家族全員できちんと理解して行いましょう。

予後(治療後の経過)と相関がある因子[6]

  • サブステージ サブステージbはサブステージaより予後が良くない
  • TあるいはB細胞由来 B細胞性リンパ腫はT細胞性リンパ腫より予後が良い
  • 解剖学的部位 多中心型は縦隔型より予後が良い
  • ステロイド投与歴 化学療法開始前にステロイド投与を行った患者は行わなかった患者より予後が良くない
  • 臨床ステージ ステージ1、2はステージ5より予後が良い
  • 高カルシウム血症 高カルシウム血症の患者はそうでない患者より予後が良くない
  • 組織型 高分化型は低分化型より予後が良い
  • 性別 メスはオスより予後が良い
  • 体重 小型犬は大型犬より予後が良い
  • 治療への反応 治療により完全寛解(全ての臨床徴候が消失した状態。いわゆる根治・完治とは異なる)に至った患者はそうでない患者より予後が良い

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参考文献・資料等
  1. 伴侶動物治療指針Vol1; 12-28:犬と猫のリンパ腫の診断と化学療法の選択
  2. 伴侶動物治療指針Vol2; 12-21:腫瘍化学療法に対する基本的な考え方
  3. 伴侶動物治療指針Vol5; 16-23:犬のリンパ腫レスキュー治療
  4. Canine lymphoma: a review
  5. リンパ腫化学療法実施時のペディオコッカスプロバイオティクスの有用性
  6. Evaluation of Prognostic Factors and Sequential Combination Chemotherapy With Doxorubicin for Canine Lymphoma
  7. Evaluation of a Discontinuous Treatment Protocol (VELCAP-S) for Canine Lymphoma


<1>多中心性T細胞または高カルシウム血症性リンパ腫の犬におけるL-アスパラギナーゼとCHOPまたは修正MOPP治療プロトコルの併用治療の比較
<2>犬および猫における網膜リンパ腫: 12症例に関する回顧的考察
<3>犬および猫におけるリンパ節細胞学的検査材料に関する診断上の有用性
<4>慢性腎臓病、癌腫、リンパ腫および内毒素血症に罹患した犬における好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)
<5>多中心型リンパ腫に罹患した犬の血液凝固に関する連続的モニタリング
<6>犬の小型明細胞リンパ腫における表現型異常のフローサイトメトリーによる検出
<7>犬におけるリンパ腫治療のためのビンクリスチンおよびプレドニゾンを併用したリピッド・ナノエマルジョン結合カルムスチンに関する予備臨床試験
<8>組織学的に胃腫瘍と診断した犬および猫における内視鏡検査所見と超音波検査所見との比較
<9>化学療法を実施している担癌犬における好中球機能の連続的評価
<10>化学療法を受けた発熱性好中球減少症患者の長期入院および結果に関連した因子の評価: 70症例(1997~2010年)
<11>経口的にシクロフォスファミドを投与された犬リンパ腫患者において無菌性出血性膀胱炎を発症する危険因子: 症例-対照研究
<12>胃腸リンパ腫の犬15頭における超音波検査所見の特徴
<13>犬における皮膚粘膜移行部に発生した局所性口腔内リンパ腫に対する放射線による治療: 14症例
<14>犬の皮膚型T-細胞性リンパ腫: 30症例の再評価
<15>犬の皮膚型上皮性T細胞リンパ腫: 再検討
<16>犬のリンパ腫の遺伝子発現プロファイリングに対するリンパ節細針吸引の利用
<17>犬および猫の非ホジキンリンパ腫171症例のWHOに従った組織病理学的分類
<18>犬の末梢性結節性リンパ腫に対する反応評価基準(v1.0)–Veterinary Cooperative Oncology Group(VCOG)の合意文書
<19>犬のリンパ腫治療のためのミトキサントロンをベースにした維持的な多剤併用化学療法プロトコール(CHOP-MA)の評価
<20>リンパ腫の犬における低線量半身照射および化学療法に関する毒性研究
<21>低グレードの消化器型リンパ腫: 17症例の臨床病理学的所見および治療への反応
<22>難治性リンパ腫の犬におけるメクロレタミン、プロカルバジンおよびプレドニゾンを用いた治療
<23>リンパ腫および移行上皮癌の犬の血清ペプチド糖タンパク質プロファイリング
<24>骨髄が罹患した犬のリンパ腫治療としてのVCAAに基づくプロトコールにシトシン・アラビノシドを加える: 違いがある?
<25>犬のB細胞性リンパ腫治療に対するヒト顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子・DNA陽イオン性脂質複合自己腫瘍細胞ワクチン
<26>悪性腫瘍による体液性高カルシウム血症を伴う犬のT細胞性リンパ腫のNOD/SCIDマウスモデル: サイトカイン遺伝子発現プロファイリングおよびin vivoの生物発光イメージング
<27>犬のリンパ性腫瘍に対する予後指標としての血漿中DNAの定量
<28>犬のリンパ腫再燃の治療に対するBOPPおよびLOPP化学療法の効果と毒性
<29>再発性の犬のリンパ腫に対する低線量全身照射の実用の可能性に関する研究
<30>Working Formulationと免疫表現型検査に基づいたオーストリアの犬のリンパ腫82症例の回顧的研究
<31>犬のリンパ腫における血管内皮増殖因子およびその受容体の発現
<32>腸管型T細胞性リンパ腫の犬における腫瘍随伴性好酸球増加症
<33>犬のリンパ腫におけるアポトーシス指数と増殖指数
<34>維持療法を行なわない高用量の化学療法プロトコールにおける 犬リンパ腫の評価
<35>魚油、アルギニン、ドキソルビシン化学療法における犬リンパ腫の寛解期間と 生存期間に対する影響:二重盲無作為プラセボ-対照試験
<36>犬の上皮親和性リンパ腫と良性リンパ球性皮膚症における Tリンパ球増殖の比較
<37>若齢犬の皮膚型リンパ腫
<38>犬のリンパ肉腫に対する治療としてのウィスコンシン大学2年間プロトコールの再評価
<39>犬のリンパ腫に対するデキサメサゾン併用化学療法の第二相臨床試験
<40>併用化学療法後に長期的生存した両側性腎臓悪性リンパ腫の犬の1例
<41>イヌの細胞におけるピロキシカムとメロキシカムの in vitro 効果
<42>椎骨が罹患し脊椎硬膜内圧迫を伴った犬の多骨性リンパ腫
<43>犬レトロウィルスの継続調査
<44>リンパ腫の犬に対する9-アミノカンプトセシンの静脈内投与
<45>イギリスの保険加入犬におけるリンパ腫の犬種別発生率
<46>犬のリンパ腫に対する予後因子としてのコルチコステロイド誘導性アルカリフォスファターゼの評価
<47>犬の上眼瞼結膜に発生した単心性結節外リンパ腫
<48>シクロスポリン治療後の犬における多中心型リンパ腫
<49>ボクサーに発生したT細胞由来の悪性リンパ腫
<50>ドキソルビシンを投与されている犬のリンパ腫および骨肉腫患者の心筋トロポニンI : 回顧的分析での臨床的な心疾患との比較
<51>犬のリンパ腫の化学療法に対する全身放射線照射の挿入の予備評価
<52>カルムスチン、ビンクリスチン、プレドニゾンを用いた犬のリンパ腫の治療
<53>正常犬とリンパ腫の犬のリンパ節におけるテロメラーゼ活性と関連する特性
<54>MOPPとCCNUを組み合わせた併用化学療法プロトコール(タフツVELCAP-SC)による犬のリンパ腫治療
<55>上皮小体ホルモン関連タンパク質と犬のリンパ腫
<56>実験犬における新しい化学療法薬のMU-Goldの前臨床耐性と薬物動力学評価
<57>小動物分子腫瘍学における臨床技術
<58>犬のリンパ腫の治療原則
<59>リンパ腫で緩和的化学療法中の犬のQOLに対する飼い主の評価
<60>中枢神経および末梢神経系に波及した犬の血管内リンパ腫
<61>犬と猫における大顆粒リンパ球由来の腫瘍
<62>犬のブドウ膜炎の原因: 102症例(1989-2000)
<63>維持療法を行なわない高用量の化学療法プロトコールにおける 犬リンパ腫の評価 
<64>COPLA/LVPによる犬の悪性リンパ腫の治療

この記事を書いた人

福山達也