嘔吐:Vomiting

嘔吐とは?

 ご存知かもしれませんが、嘔吐(おうと)とは、胃の中や上部小腸の内容物(食べたもの・胃液)を吐いてもどすことです。これに関連して、吐き気を催すこと、胸がむかつくことを悪心(おしん)と言います。嘔吐は病気の名前ではなく「症状」です。

 嘔吐は診察が必要のない軽度のものから、命にかかわるものまで原因により様々です。以前は、犬や猫に時折見られる単発的な嘔吐は正常なものと言われていましたが、現在では単発的な嘔吐も繰り返すようであれば異常であると言われていますので、注意が必要です。単発でも続くようであれば早めに当院にご相談ください。

嘔吐の原因

 嘔吐の原因には消化器官の機能障害、各種感染症、代謝性疾患、中毒、寄生虫、異物、消化管壁の疾患、腫瘍など様々なものが考えられます。これらの障害の原因には、犬ステンパーやパルボウイルス[]などの伝染病、寄生虫病、中毒、消化管内異物や腸重積による消化管の閉塞、胃や腸の潰瘍および腫瘍、急性腎不全、慢性腎臓病[]、糖尿病[]、急性膵炎[]、胃腸炎、幽門狭窄、塩酸欠乏症などが挙げられます。

 一般に嘔吐というと胃や腸など消化器の病気を想像しがちですが、実は全身性の病気、神経系の病気、精神的な病気などが原因であることも少なくありません。

急性嘔吐の原因
急性嘔吐の原因
慢性嘔吐の原因
慢性嘔吐の原因

嘔吐の症状

 症状は嘔吐ですが、口から食べたものなどが出る場合、嘔吐と間違えられることがあるのが「吐出(としゅつ)」です。嘔吐の場合は、実際に吐き出す前におなかの筋肉や横隔膜が収縮して、強力な力で胃の内容が吐き出されます。よく「ゲーゲー吐きます」と言われる状態や、よだれを伴います。それに対して吐出は、何の前触れなどもなく食べたばかりのものを吐き戻します。吐いてもけろっとしていることが多く、何事もなかったかのようです。
 他にも「嚥下困難(えんげこんなん)」といい、食べたものが中に入って行けない異常もありますし、ペットオーナーの中には咳(発咳)と嘔吐の吐く動作をまちがえたりすることもあります。嘔吐なのか吐出なのか、また咳なのかわからない場合はスマートフォンでその様子を動画に撮影して、見せてもらえると診断の助けになります。また、吐いたものを写真に撮影して見せてもらうのもいいでしょう。

嘔吐の診断/検査

 疑われる原因によりますが、一般に問診、身体検査、血液検査血液化学検査尿検査を行います。その他、レントゲン検査、レントゲン造影検査、超音波検査、細菌やウイルス検査などが行われることもありますし、内視鏡、CTやMRIなどが必要なこともあるでしょう。現在では人間の医療に近いレベルまで検査や治療が行われるようになってきています。

 ただ、「吐く」というだけでも原因を突き止めるのは大変なことがあります。慢性嘔吐で2週間以上の長期間吐いている動物、あるいは急性で激しく吐いている動物については多くの検査が必要です。診断も難しいことがあるということを知っておいてください。このような場合、検査にはかなりの時間と費用がかかることを理解してください。
 一般に初期検査として、血液検査CBC血液化学検査(必要により膵リパーゼを含む)、ホルモン検査(犬:基礎コルチゾール、猫T4)、腹部超音波検査単純腹部レントゲン検査などが推奨されます。
 なお、猫は特に消化器以外の原因で嘔吐していることが多い動物です。心臓病などの症状の一つとして嘔吐が見られることもあります。非常に稀ですが、心タンポナーデなど命に関わる病気の症状が「嘔吐」だけということがあります。元気がなくなってくるようであれば対症療法で様子を見ないで詳しい検査をすることをお勧めします。ご希望の方はお申し出ください。

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この記事を書いた人

福山達也