膿皮症

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膿皮症とは?

 膿皮症は、膿を発生させる細菌の皮膚感染で、皮膚にブドウ球菌などの細菌が感染することによって生じる化膿性の皮膚病の総称です。犬では最も多く遭遇する皮膚病の一つで、猫ではまれな病気です。特に表面に見られる表面性膿皮症を「ホットスポット」と呼ぶこともあります。細菌の感染の深さや程度などによって、症状が異なります。主な症状としては、皮膚に発赤(赤く炎症すること)や脱毛が見られたり、発疹(ブツブツ)や膿疱、かさぶたなどが見られたりします。

 アトピー性皮膚炎食物アレルギー脂漏性皮膚炎副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)甲状腺機能低下症糖尿病いった皮膚の状態や免疫の状態を変える基礎疾患やノミ寄生、ヒゼンダニ、ニキビダニ(毛包虫症)マラセチアなどの皮膚の寄生虫疾患が引き金になることが多いものです。また、ジャーマンシェパードの全身性膿皮症のように原因が不明なものもあります。

膿皮症の原因

 特に犬や猫の膿皮症の多くは、ブドウ球菌(Staphylococcus pseudintermedius)などの細菌の過増殖に由来することがわかっています。細菌の感染は、不衛生な環境、擦り傷や噛み傷、老化、栄養不良などにより起こりますが、通常は皮膚が持っている細菌の侵入を抑える力(バリア機能)や免疫機能により防止されます。しかしこれらの低下を引き起こす何らかの基礎疾患があると膿皮症を引き起こします。

 また、ノミや食物によるアレルギー性皮膚炎アカラス症(ニキビダニ症)犬疥癬症(ヒゼンダニ)など、他の病気が引き金となって、二次的に発症することや、皮膚に合わない成分のシャンプーの使用、過度のシャンプーなどが原因になることもあります。

膿皮症の症状

 膿皮症は、細菌感染の深さや程度、細菌の種類などによって、浅在性(子犬に多い)、表在性(夏場に多い)、皺壁性(短頭種に多い)、深在性(ジャーマン・シェパードに多い)に分かれ、それぞれ症状が異なります。おもな症状として、発赤や脱毛、発疹(ブツブツ)、膿疱、かさぶたなどが顔や腋、股や指の間にが見られます。また、細菌の感染が深部に及んだ場合には、腫れや痛み、発熱が見られることがあります。痒みや痛みを感じた部位を咬んだり舐めたりすることによって悪化します。

膿皮症の診断/検査

 まずは、問診(特に過去に他の病院で抗菌剤の投与を受けている場合は必ずお知らせ下さい。その時の抗菌剤の種類が分かればなおよしです)、視診、身体検査を行い、細胞診、皮膚掻爬検査と毛検査、皮膚押捺検査、グラム染色検査、細菌培養検査、薬剤感受性検査、皮膚生検および病理組織学的検査など皮膚科の検査を行います。
 膿皮症が再発する場合は、4歳未満なら、アレルギー性皮膚炎アカラス症(ニキビダニ症)犬疥癬症(ヒゼンダニ)、4歳以上なら甲状腺機能低下症副腎皮質機能亢進症などの基礎疾患があることが多いとされています[7]ので、再発を繰り返す場合はこれらの病気に対する詳しい検査を行うとよいでしょう。

膿皮症の治療

 膿皮症の治療は、原因である細菌に合わせた抗生物質の投与と薬用シャンプーによる定期的な洗浄が基本となります。ほかの病気が原因となっている場合、その治療が必要となります。

可能であれば、抗菌薬による耐性菌の問題から薬用シャンプーによる治療を推奨します。

特に抗生物質は少なくとも3週間は投与し、3週間後に再検査をして、さらに投与が必要かなどを見極める必要があります。途中で勝手に投薬を中止しやり、薬をあげたりあげなかったりすると耐性菌(抗菌剤の効かない菌)の可能性をより高くしますので、きちんと獣医師の指示を守りましょう。

特に第1選択の抗菌剤を2週間以上用いても完治や改善が認められない場合は、他に基礎疾患があるか、抗菌剤の効かない耐性菌が原因だったりしますので、詳し検査が必要です。

シャンプー療法について
局所的な皮膚疾患(ある一部分や数カ所小さな病変)には外用薬を処方することがありますが、動物の皮膚疾患の治療には薬用シャンプーをよく用います。それは、皮膚の性質や毛があるために、広範囲に皮膚疾患がある場合、外用薬(塗り薬)よりも効果的で費用対効果が高く、薬を舐めてしまうことも防げるためです。そのため、皮膚疾患のある場合はトリミングサロンを併設した動物病院を受診すると良いでしょう。

家庭でシャンプーする場合は、週に2〜3回動物病院で処方される薬用シャンプーします。これを、症状がなくなるまで続けます。その後は予防的に週1回洗うのが良いとされています。ただ、これだけの回数シャンプーを行うのは、正直大変ではあります。

▼膿皮症原因菌と抗菌薬の治療ガイダンス

細菌の種類 グラム染色 第1選択薬 第2選択薬
ブドウ球菌 グラム陽性球菌 CEX/AMPC他 フルオロキノロン系他
連鎖球菌 グラム陽性球菌 CEX/AMPC他 フルオロキノロン系他
パスツレラ グラム陰性桿菌 CEX/AMPC他 フルオロキノロン系他
プロテウス グラム陰性桿菌 CEX/AMPC他 フルオロキノロン系他
緑膿菌 グラム陰性桿菌 フルオロキノロン系他 アミノグリコシド系他

 皮膚は表面にある脂質バリアで、 皮膚の健康を維持します。その脂質バリアの機能を維持するためにサプリメントを用いるのも補助治療の一つです。

膿皮症の予防

 膿皮症を予防するには、まず、飼育環境を清潔にする、安価粗悪なフードや人間食を避け、食事・栄養に気をつけるることが重要です。また、適切なシャンプーや保湿剤によるシャンプーを定期的に行い、ノミの予防は動物病院で処方される効果的な予防薬を用い、日頃から皮膚の健康に気をつけることが大切です。定期的なトリミングも非常に大切です。プロのトリマーさんのシャンプーは素人のシャンプーとは全然違います。動物病院で処方された薬用シャンプーを持参して洗ってもらうとよいでしょう。

 壱岐なんかだと夏場に海に行って海水につかったり、波打ち際を歩いた後になることがあります。塩水に触れたり、海辺をさんぽしたときなどにはシャンプーをよくするか、水でよく洗うようにしましょう。また、シャンプーのすすぎ残しも皮膚病のもとになりますので、よく洗い流すことを心がけて下さい。
※当院併設のトリミングショップBOW-MEOWでも薬用シャンプーをお受けしておりますが、当然、店内感染防止のため、混合ワクチン接種などの条件があります。詳しくはこちらをご参照ください。

膿皮症の看護/その他

 膿皮症の場合、程度にもよりますが治療は数週間から数ヶ月必要のことがあります。完全に治るまで指示されたシャンプーや投薬をきちんと行いましょう。抗生物質は症状が軽減しても1〜2週間は投与することが推奨されています自己判断で投薬を中止しないことが再発や耐性菌の防止に重要です。膿皮症が1〜2週間で再発する場合は、治療期間が短いか耐性菌ができてる可能性があります。また、「なかなか治らない」あるいは「再発を繰り返す(3ヶ月以内に再発)」場合は、他の病気(アトピー性皮膚炎食物アレルギー甲状腺機能低下症副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、毛包虫症、マラセチア性皮膚炎、落葉性天疱瘡、皮膚糸状菌症、皮膚リンパ腫など)が隠れていることもあるので、甘く見ないで、詳しい検査をする必要があります。また、耐性菌があるかもしれないので、再発を繰り返す場合は必ず細菌培養検査、薬剤感受性検査を検査機関に依頼して行う必要があります。

自宅でのシャンプーポイント!(※動物病院で処方されるきちんとした薬用シャンプーを用いましょう)

  1. まず、地肌を濡らします。30〜35℃程度のぬるま湯で、シャワーヘッドはできるだけ地肌に近づけ、頭から遠い部分からかけ始めましょう。
  2. シャンプー剤は直接皮膚につけづ、まず別容器にスポンジなどでよく泡立ててから全身に塗り込むように使用しましょう。泡で洗うイメージが大事です。
  3. 泡を全身に塗布したら乾かないように、濡れたタオルでくるみ、最低5分、できれば10分間はそのままにして薬用シャンプーの効果が出るのを待ちます。
  4. その後、人肌以下のぬるま湯(32〜33℃程度)でよく洗い流してください。特に指の間などにシャンプーが残らないように1本1本丁寧にすすぎましょう。
  5. 吸水性の高いスポンジタオルなどで十分に水分を拭き取ってください。
    ※コットタオルにアレルギーのある子もいるので注意してください。
  6. ドライヤーで乾かす場合は、温風を使用しないで、冷風を使い風乾することを心がけましょう。温度調節ができる場合はできるだけ低めの温度で風乾しよう。皮膚が乾燥したり、温度が上がると痒みが増します。

シャンプー以外でできること

  1. 定期的なトリミング
    定期的にプロのトリマーさんにトリミングしてもらい、被毛は適当な長さに保ちましょう。皮膚病があるときには特に動物病院併設のトリミングサロンが有効です。
  2. 日常的にブラッシング
    抜け毛や下毛はブラッシングにより早めに取り除きましょう。
  3. こすれる箇所は清潔に
    顔のシワの間、首の付根、脇の下、足先、しっぽの付け根、内股などこすれる部分は特に皮膚病が起こりやすいので、清潔にしましょう。
  4. 定期的な耳のお手入れ
    皮膚病がある動物は外耳炎にもなりやすい傾向があります。定期的にきちんと手入れしましょう。外耳炎は特に予防と早期の治療が重要です。
  5. 保湿ケアーで肌の水分をキープ
    皮膚バリアを整えて、肌の乾燥を防ぎ、肌の水分をキープすることが皮膚病には重要です。動物病院で処方される保湿剤などを用いましょう。

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参考文献・資料等
  1. Guidelines for the diagnosis and antimicrobial therapy of canine superficial bacterial folliculitis
  2. 伴侶動物治療指針 Vol.1; 62-67:犬の膿皮症と細菌の過剰繁殖:診断と治療
  3. 伴侶動物治療指針 Vol.7; 317-327:犬の膿皮症の診断と治療
  4. 犬膿皮症に対する抗菌薬治療
  5. 犬の内科診療 Part1; 374-383:膿皮症
  6. Challenges & New Developments in Canine Pyoderma: Disease Overview & Diagnosis
  7. Recurrent pyoderma and its underlying primary diseases: a retrospective evaluation of 157 dogs
  8. 犬と猫の日常診療のための抗菌薬治療ハンドブック;51-60:犬膿皮症
  9. Multidrug-resistant staphylococcal skin infections

  1. 膿皮症の犬から分離された Staphylococcus intermedius 菌に対するエンロフロキサシンの抗菌能力
  2. 犬の表層性および深部膿皮症に対する全身的な抗菌剤治療の有効性: 系統的再評価
  3. メチシリン耐性あるいはメチシリン感受性ブドウ球菌性膿皮症治療後の犬の皮膚および保菌部位のメチシリン耐性Staphylococcus pseudintermedius (MRSP)有病率
  4. 犬の表在性膿皮症に対する0.2%フッ化スズ局所製剤投与の臨床効果の調査: 前向き、無作為、二重盲検、プラシーボ・コントロール試験
  5. 犬の表在性膿皮症に対する2%酢酸クロルヘキシジンを含有する外科用スクラブの効果
  6. 犬の表在性膿皮症におけるセファレキシン1日1回投与の有効性と耐容性: オープン対照研究
  7. 犬の深在性膿皮症治療におけるプラドフロキサシン: 多施設盲検無作為平行試験
  8. 犬の特発性再発性表在性膿皮症管理に対するStaphylococcus intermedius自家細菌ワクチンの有効性を調査するためのマスク化対照研究
  9. 一般臨床における小動物の皮膚疾患の発生率、診断、およびその治療についての調査
  10. 8頭の犬における細菌の過剰増殖に関する予見的研究
  11. 健康犬およびアトピー犬の角質細胞へのStaphylococcus intermediusの付着: 膿皮症、掻痒症スコア、治療および性別の影響
  12. 皮膚病治療に対するサイクロスポリン:最新情報
  13. 犬の膿皮症と創傷の感染治療に対するセフォベシンの臨床的な効果と安全性
  14. ヒト組み換えインターフェロンアルファ-2bを用いた犬の特発性再発性表在性膿皮症の管理: 予備研究
  15. 犬の表在性細菌性膿皮症に対する全身的抗生物質投与に併用した乳酸エチルシャンプーの効果、非盲検非プラシボコントロール試験
  16. 臨床的に正常な犬と膿皮症の犬におけるオルビフロキサシンの血漿中と皮膚中濃度の測定
  17. 犬の膿皮症から得たブドウ球菌の抗菌薬剤耐性: スウェーデンにおける初回および再発性症例に関する前向き研究
  18. 犬における食物過敏症:定量的研究
  19. 4種類の酸性化スプレー、酢、水、が犬の皮膚pHに与える影響
  20. アレルギー性皮膚炎の犬2頭の治療に成功した抗アレルギーペプチド療法
  21. 膿皮症の犬から分離された Staphylococcus intermedius 菌に対するエンロフロキサシンの抗菌能力
  22. アレルギーの犬の管理
  23. 犬から得た臨床上のサンプルにおけるオキサシリンおよび多剤に耐性のブドウ球菌の保有率:1,772サンプル(2001-2005)
  24. 健康な犬と、外耳炎、膿皮症あるいはその両方に罹患している犬からのStaphylococcus schleiferiの分離
  25. 表在性膿皮症の犬の表皮小環部を検体とした好気性細菌培養の評価
  26. 膿皮症に罹患した犬の皮膚から分離されたブドウ球菌のメチシリン耐性
  27. ブドウ球菌性膿皮症、新たに生じた課題
  28. 膿皮症の犬から分離されたStaphylococcus schleferi

[WR21,VQ21:]

■VMN Live

この記事を書いた人

福山達也