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猫白血病ウイルス感染症(FeLV)とは?
猫白血病ウイルス(FeLV)感染症は、レトロウイルスである猫白血病ウイルス(Feline Leukemia Virus:FeLV)の感染によって引き起こされる病気です。リンパ腫(FeLV陽性猫のリンパ腫発症リスクは陰性猫の62倍であり、FeLV持続感染が見られる猫の約20%にリンパ腫の発生が見られる。)や白血病などの腫瘍性疾患、骨髄が犯されると貧血や白血球減少など様々な症状が見られます。
猫白血病ウイルス感染症は世界中でみられます。東京都内で約5%~10%の感染率が報告されていますが、多頭飼いのような猫がたくさんいる環境や、野良猫が放し飼いで暮らしているような環境ではより多く見られ、罹患率30%との報告もあります。一番感染率が高いのは外飼でケンカの多い未去勢のオス猫です。
一般に若い猫に発症することが多く、猫の主な死亡原因の1つである恐ろしい伝染病です。但し、猫白血病ウイルス(FeLV)に感染した猫がすべて発症するわけではありません。
※壱岐島内でも多数の猫が猫白血病ウイルス(FeLV)に感染しています。外飼い、室内外出入り自由の猫はまず血液検査でこのウイルスに感染しているかを知ることが大事です。可能な限り猫は室内で飼育することが勧められます。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の原因
猫白血病ウイルス感染症の原因は、猫白血病ウイルス(Feline Leukemia Virus)の感染です。感染猫の血液中には感染力を持ったウイルスが存在し、唾液、涙、糞便中に排泄されます。感染経路は、おもに猫白血病ウイルス感染猫とのケンカによる咬傷感染ですが、他にも、グルーミングや食器の共有などによって唾液を介して感染したり、感染猫との長時間の接触、母子感染(垂直感染)などいろいろな経路により起こることもあります。
感染の危険度は年齢や生活様式により異なり、若い猫、特に生後4~6ヶ月未満の猫は免疫系が完全に成熟していないため、FeLVに最も感染しやすいとされています。また、屋外飼育によるケンカ(特に雄猫)、感染猫との同居は感染率が当然高くなります。
〇猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の症状
潜伏期は2~4週間(まれに8週間以上という長期に潜伏することもある)で、猫白血病ウイルスに感染すると、初期症状として、発熱、元気消失、食欲不振、全身のリンパ節の腫脹、体重減少、口内炎、鼻炎、肺炎、貧血、白血球や血小板の減少などの症状が見られます。これらが通常1週間~数ヵ月間続きます。その後、症状がいったん治まったように見え、中には完全に回復する猫もいます。しかし、完全な回復に至らなかった猫では、体内に猫白血病ウイルスが潜伏し続けます。
体内に猫白血病ウイルスが潜伏して持続感染している猫でも一生症状を発現することなく寿命を迎える猫もいますが、中には感染後、数年でリンパ腫や白血病などの悪性腫瘍性疾患を発症する猫もいます。また、猫白血病ウイルスにより骨髄が侵され、再生不良性貧血や白血球減少症などを生じ、免疫力の低下が見られ、慢性呼吸器感染症、慢性歯肉炎および口内炎、傷や膿瘍の治癒不良などがみられることもあります。持続感染猫は、感染から約3年以内に発症して、死亡するものも多くあり、感染後2年で63%、3年半で83%が死亡するというデータがあります。
このほか、体中の各種の細胞に感染するため、多様な症状や病気が起こります。胸に悪性腫瘍(リンパ腫)ができると呼吸に異常が見られ、胸水(胸に水が溜まった状態)や腫瘍が大きくなり肺を圧迫し、呼吸が苦しかったり、呼吸困難を起こしたりします。この時点では腫瘍はかなり大きくなっていることがほとんどです。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の診断/検査
感染の有無はウイルス検査で分かります。検査方法には病院で簡単にできるものから検査所に血液を送って測定するものなどいくつかあります。動物病院では状況によってこれらを使い分けます。
特に成猫では猫白血病ウイルス感染が起こっても回復する猫もいます。その場合4ヶ月ほどするとウイルス検査が陰性になります。感染から4ヵ月以上、ウイルス検査陽性が続くと持続感染と言われ、終生ウイルス検査は陽性のままになります。ですから一度陽性が出ても何度か検査して感染の状況を把握することが必要です。約2割の猫は再検査で陰性となるとの報告もあります。
○スクリーニング検査:ELISA(酵素免疫測定法)
(陰性):現在 FeLV には感染していないと思われます(ウイルス抗原陰性)。 ただし、FeLV猫に接触した可能性がある猫の場合は後日再検査をお勧めします。
(陽性):現在 FeLV に感染していると思われます(ウイルス抗原陽性)。 中には一過性で治ることもあるので、30日〜60日の間に再検査を行うか、あるいは外部機関で確認検査を行い本当に持続感染かどうか判定する必要があります。
※16週(4ヶ月)以降に再検査をすることを推奨する見解もあります。
(弱陽性):現在 FeLV に感染していると思われますが、ウイルスの発現が非常に少ないようです(弱陽性)。30日〜60日の間に再検査をお勧めいたします。
壱岐島でも多くの猫が猫白血病ウイルスに感染しています!
まずは、猫を飼育したら検査を猫白血病ウイルスに感染してないか検査受けましょう。すでに猫を飼っていて、新しい猫を迎える時には特にです。詳しくは猫白血病/猫エイズ検査を参照してください。
※ウイルスの性質上、感染した猫は暴露後約60日間は陽性にならないことがありますので、複数回の検査が必要なこともあります。

猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の治療
特異的で有効な治療法はなく、猫白血病ウイルス感染症にともなって様々な症状が現れるため、それぞれの症状にあわせて、抗生物質や抗炎症薬の投与、輸液(点滴)などの対症療法を行います。また、インターフェロン、抗がん剤などを使用したり、貧血がひどい場合は輸血を行ったりします。
FeLV感染陽性猫へのワクチン接種は無意味です。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の予防
高感染地域の外飼猫、室内外出入り自由な猫、既知のFeLV感染猫と同居している猫、多頭飼育の猫には特に推奨されます。また、子猫はウイルスに感染しやすくなっているため、すべての子猫にFeLVワクチン接種には、ワクチン接種が推奨されます[3]。猫を飼いはじめたら(もらった、拾ったは特に)まず病院で猫白血病ウイルスの検査を受けましょう。特に先住猫がいる場合は検査の結果が分かるまでは一緒にしてはいけません。
猫を室内で飼育し、他の感染猫との接触を避けることが、猫白血病ウイルの重要な予防策となります。外出する猫の場合は、猫同士のケンカを防ぐために避妊・去勢手術を行うことは、感染確率を減らせるとされています。
また、猫白血病ウイルスに感染した猫の血を吸ったノミやその糞からも猫白血病ウイルスが検出されることから、ノミが感染経路の一つとして考えれれます。動物病院で処方されるような薬剤を用いて、きちんとしたノミ駆除対策が必要です。
普段から十分な栄養と、清潔で快適な生活環境を心がけることも大切です。

〇〇の看護/その他
飼育環境を良好にし、 免疫力を高めることが大切です。そのためまず、他の感染症にかからないように定期的なワクチン接種を行い、清潔で暖かい室内飼育をし、ストレスの少ない生活をさせ、栄養バランスのとれた食事を与えましょう。そもそもワクチン未接種で猫を飼育することはあまりにも飼い主として無責任です。
感染した猫は室内飼育することで地域に新たな感染を広げないことになります。また、どうしても室内飼育できないのであれば、避妊・去勢手術を行うことは、地域の感染確率を減らすことになります。
多頭飼育で同居猫がいる場合は必ず全ての猫を検査して感染の有無を確認しましょう。定期検診を受け、異常を感じたら早めに動物病院を受診して対処しましょう。
猫白血病ウイルス感染は猫伝染性腹膜炎(FIP)発症の危険因子になるとされていますので注意が必要です。
猫白血病ウイルス(FeLV)は今のところ人間や犬など他の動物には感染しないとされています。
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参考文献・資料等
- 猫の臨床指針 Part3; 42-47:猫白血病ウイルス感染症
- 2020 AAFP Feline Retrovirus Testing and Management Guidelines
- FeLV

- 瀬戸口 明日香先生の「明日から役立つ」シリーズ 第23回 シリーズ4:腫瘍性疾患におけるインフォームドコンセントガイド 「猫のリンパ腫」
- 猫医療セミナー 1. 猫のインドア・ライフスタイルを最適化するには
<1>猫白血病ウィルスに自然感染した猫に3′-アジド-2′,3′-ジデオキシチミジンおよびヒトインターフェロン-αを用いた試験
<2>西インド諸島、セント・キッツの野良猫の猫免疫不全ウィルス、猫白血病ウィルスおよびバルトネラ種
<3>ネコ白血病ウィルス誘発性が明らかな慢性リンパ急性白血病とその治療に対する反応について
<5>Bartonella属、猫ヘルペスウイルス1、猫カリシウイルス、猫白血病ウイルス、および猫免疫不全ウイルスと猫の慢性歯肉口内炎に関する評価
<6>猫免疫不全ウイルスおよび猫白血病ウイルス感染に対する様々な院内検査システムの質
<7>リオ・デジャネイロ(ブラジル)において猫免疫不全ウイルスおよび/または猫白血病ウイルスに自然感染した飼い猫のヘモプラズマ罹患率および危険因子
<8>ワクチン接種後の猫免疫不全ウイルス(FIV)の診断
<9>ベイズ式統計分析法を用いたFIVおよびFeLV試験の能力に関するアップデート
<10>猫の慢性好酸球性白血病: 細胞化学的および免疫表現的特徴
<11>猫白血病ウィルス(FeLV)および猫免疫不全ウィルス(FIV)の日常的診断法としての新しいnested PCR法の評価
<12>半定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応による猫白血病ウィルス感染症の診断
<13>経皮的に投与する遺伝子組み替え型猫白血病ウィルス(FeLV)ワクチンと皮下投与する不活化FeLVワクチンの安全性と効果の比較
<14>ESFM(ヨーロッパ猫医学会)会議プロシーディング、ストックホルム、2002年9月: 猫白血病ウイルスおよびワクチン接種
<15>猫白血病ウィルス感染症の免疫調整療法
<16>ベルギー都市部の野良猫におけるToxoplasma gondii、猫免疫不全ウィルス、猫白血病ウィルスの血清学的調査
<17>猫免疫不全ウイルスおよび猫白血病ウイルス感染を迅速に診断するための6種の院内検査に関する比較
<18>FIV/FeLV陽性猫を飼育する飼主に対する支援
<19>FIP,FeLV,FIV : 診断の確立
<20>既に感染しているFeLVまたは既に同時感染しているFeLVおよびFIVが猫のHaemobartonella felis小変異体の病原性に与える影響について
<21>猫免疫不全ウィルスあるいは猫白血病ウィルスに罹患した猫の皮膚および粘膜表面の真菌叢
<22>悪性リンパ腫を発症しているオーストラリア猫の猫白血病ウイルスの状態
<23>猫白血病ウイルス関連脊髄障害
<24>注射部位肉腫の予防と治療
<25>猫白血病ウイルスと猫免疫不全ウイルスに対する4種類の院内スクリーニング検査の性能
<26>米国およびカナダの猫における猫白血病ウイルスおよび猫免疫不全ウイルスの血清陽性率および血清反応陽性に対する危険因子
<27>ネコ白血病ウイルス感染猫におけるヒトおよび反芻動物の脳幹型脳炎に似たListeria monocytogenesに起因する脳脊髄炎
<28>猫の非再生性血球減少症において猫白血病ウイルス潜伏感染が果たす役割
<29>猫免疫不全ウイルスに感染した猫および猫白血病ウイルスに感染した猫の血液学および血清生化学
<30>膿瘍あるいは咬傷のある猫における猫白血病ウイルスと猫免疫不全ウイルスの血清陽性率およびレトロウイルス検査に対する現在のガイドラインへの獣医師のコンプライアンスの割合
<31>ハリケーン被災地域であるGulf Coastから輸出された犬猫における犬糸状虫、猫白血病ウイルス、および猫免疫不全ウイルスの血清陽性率
<32>中性化時のワクチン接種に対する野良猫の免疫応答
<33>予め不活化ウイルスワクチンを受けた猫における、カナリア痘ウイルスをベクターとした組み換え猫白血病ウイルスワクチン投与後のウイルス攻撃からの防御
<34>北アメリカの猫における猫白血病ウイルスと猫免疫不全ウイルス感染症の血清陽性率と血清反応陽性に対する危険因子
<35>猫白血病ウイルス根絶後の猫のリンパ腫
<36>猫白血病ウイルス(FeLV)感染、FeLV猫免疫不全ウイルス(FIV)混合感染の発症猫に対する組み換え型猫オメガ・インターフェロンの治療効果
<37>悪性リンパ腫の猫に対するサイクロフォスファマイド、ビンクリスチン、およびプレドニゾロン(COP)を用いた化学療法:古いプロトコールによる新たな結果
<38>飼育されていない野外猫における猫白血病ウィルス感染症の罹患率および猫免疫不全ウィルスに対する血清抗体の保有率
[WR2108,VQ2108:]